第六十六話 あれ? よく考えたら……
祷さんと楓さんが合流してから三日、夢の魔境での強化も順調に進んでいる。
「そういえばルシフィーナさん、魔族ってどれくらいいるんですか?」
三日後には間違いなく日本のどこかへ攻めて来るらしいけど。
「そうですね、こちらの世界へやってきている魔族すべてを把握しているわけではありませんが、現魔王である兄に付き従っているのは三百名ほどですね」
三百名か……少ないように思えるけど、全員が強力な力を持っているわけだから……。
「ルシフィーナ、参考までに聞くけど、敵だったころのロキシーを基準にすると戦力はどの程度なのかな?」
話を聞いていた焔さんが興味深そうにたずねる。
「えっと……それはロキシーに聞いた方が」
『え? 私? うーん、私はどちらかというと戦闘タイプじゃないですからね。純粋な力比べだと真ん中くらいですよ私』
「なるほど……となると三日後の侵攻は最大百~二百程度の魔族が襲来する可能性があって、そのうちの半分は四天王クラス以上の力を持っているということだね。もっともバルデスクラスの魔族なら一人でも余裕で都市を破壊することくらい出来るだろうけどね」
そうなんだよね……転移が使える魔族なら、どんなに守りを固めても意味が無い。
「ロキシー、魔族の転移だけど、日本国内に飛んでこられるんだよね?」
『はい、もちろん全員ではありませんが、主要都市への下見は終わっているので、理論上はどこにでも転移可能です』
やっぱりそうか。となると完全に防ぎきるのは不可能に近い。
あれ? でも待てよ、よく考えたら受け身になる必要ないよね?
「焔さん、僕思うんですけど、待ってるよりこちらから仕掛けた方が良くありません?」
僕なら魔王にだって負けないし、ルシフィーナさんやロキシー、バルデスたちもいるから転移だって出来る。四天王の皆さんはもちろん、他のみんなも以前とは見違えるように強くなっているんだ。何も向こうからやってくるのを待っている必要ないよね。
「あはは、そうだね、ボクもそう思っていたよ。創くんが言い出さなければ提案しようと思ってた。今の戦力なら十分勝算はあると思うよ。運命さまだって待ちくたびれているだろうからね」
「よし、決戦か、いよいよ私の出番が来たな!!」
「うむ、腕がなるというもの」
「ちょっと待った。零と綾はお留守番だよ。帝国に行くのは、創くんとルシフィーナ、だけでいい。大人数で行くと目立つだけで意味がない。むしろ、創くんが留守の間にこの前のバルデスみたいなことが起こる方が怖いからね。こちらにもロキシーとバルデス隊が残っていれば転移にも対応できる」
たしかに。単純に魔族を倒しに行くわけじゃあない。ルシフィーナさんの願いを叶えるために、魔族を救うために行くんだ。だから僕がやるしかない。
それに、運命さんさえ救出してしまえば、戦力も倍増するしね。
「わかりました。ルシフィーナさん、お願いしても良いですか?」
「もちろん、覚悟はいつでも出来ていますよソウ」
「では行ってまいります!」
「運命さまを頼む」
「夢神、お前なら出来る」
「どうかお気をつけて」
「無理するなよ」
「お土産よろしくね~」
「いってらっしゃい」
「戻ったらパーティーだね」
「問題ないよ、理論上勝率100%だからね」
『ご主人さま~お気をつけて~』
朝食を終え、皆に見送られながら僕とルシフィーナさんは出発する。
「しっかり掴まっていてくださいね。複数人での長距離の転移は制御が難しいのです」
「ルシフィーナさんでも難しいんですか?」
運命さんは簡単にやっていた気がするから意外な気もするけど。
「あはは、サダメは規格外の天才ですからね。普通あんなことは出来ません」
聞けば、魔族と言えども転移が使えるのは一部で、使える場合でも危険を伴うので、余程のことがない限りあまり使いたがらないそうだ。
ルシフィーナさんの見立てだと、運命さんの転移は魔族のものをベースに、複数のスキルや魔法を複合させて改良したオリジナルなんだって。
そういう僕も、国を飛び越えるような転移は初めての経験。
「わかりました。しっかり掴まりますね」
「え……あ、あの……ふわああああっ!? そ、そんなに激しく密着されたら集中できません」
えええっ!? じゃあ僕はどうすれば……?
「し、仕方ないですね、私がソウを抱きしめるのでジッとしていてください」
「は、はい、わかりました」
『あああ……ルシフィーナさまがウラヤマシイ!!』
「くっ、私も転移を使えたら良かったのに……」
色々声が聞こえて来たけれど……
『転移!!!』
景色が歪んでみんなの声が聞こえなくなる。
上下左右の感覚が無くなって、唯一感じるのは僕を抱きしめるルシフィーナさんの温もりだけ。
「お疲れ様でした、ソウ」
たぶん数秒くらいだったと思うけれど、もっとずっと長く感じた。
目の前に広がるのは、荒廃した街並み。砂っぽい乾いた風と独特な香りが、ここが異国であることを教えてくれる。
ここが帝国か。
旅行や観光じゃないから気持ちが高揚することはない。気持ちを引き締めなければ。
「ソウ、近くに魔族の拠点の一つがあります。まずはそこを抑えましょう」
「うん、わかった」
すぐに運命さんを助けに行きたい気持ちはあるけど、魔族を救うというルシフィーナさんの願いを叶えるためには地道に一人ずつ呪いの上書きをしなければならない。
「おや? ルシフィーナさまではないですか!」
「久しぶりねグリフィス。急いで全員集めてもらえるかしら?」
「はっ、すぐに集めます」
ルシフィーナさんが一緒で良かった。疑われることなく拠点に居る魔族が集まってくる。
「ルシフィーナさま、全員集まりました」
「御苦労さま、『魔空結界』!!」
「なっ!? いきなり何を?」
ルシフィーナさんの『魔空結界』内では魔力が使えなくなり、外部への連絡手段が断たれる。
「じゃあよろしくお願いします、ソウ」
「はい、ルシフィーナさん」
「なっ!? なぜ人間がルシフィーナさまと?」
驚き動揺する魔族たちだけど、こうなってしまったら何も出来ませんよ。
以前なら気絶させることで呪いの上書きをしていたけれど、その後の研究で、呪いの刻印に直接僕が触れるだけで大丈夫だとわかった。
とはいえ、ワンコじゃないので、大人しくお腹を触らせてくれるはずもない。
だから――――
触ったことすら気付かせない圧倒的なスピードで――――
上書き上書き上書き上書き……
「よし、これで全員終わったよルシフィーナさん」
「お疲れ様でした、ソウ」
「ありがとうございました!! ソウさま!!」
正気に戻った魔族の皆さんに見送られて次の拠点へ。
運命さん、待っていてね。もうすぐ助けに行くから。




