第六十五話 想いを歌に乗せて
―― 巫 祷視点 ――
楓さんが出て行ってしまった……。
ソウクンと二人きり……は、恥ずかしい。
恥ずかしい? 何が?
私は神さまに言われたから行くの? 世界のため、強くなるためと言い訳しながら?
ソウクンは運命の人だから気になっているの?
違う……私は、ソウクンだから一緒にいたいと思ったんだ。ソウクンだから運命の人だとわかって嬉しかったんだ。
楓さんはすごい。ちゃんとまっすぐに自分を誤魔化すことなくソウクンと向き合った。
だからこそソウクンはきっと正面から受け止める。想いを誤魔化すことをしない人だから。
勇気を出さなきゃ。自分の言葉でいい。
拙くても、声が小さくても、上手く言えなくたっていい。
今の自分の想いが少しでも伝わればそれでいいんだ。
私は歌うことしかできないから、
想いを歌に乗せて、
ソウクンに気持ちを伝えるんだ。
伝えたい人がいるから 伝えたい想いがあるから 言葉が生まれた
言の葉は魔法、魂を乗せて世界を変える
重なり連なり言の葉は歌となる
どうか届いて 私の愛しいキミへ
私の歌が キミの心を 想いを 魂を 震わせたらいいな
今日も 明日も これから先もずっと
キミの隣にいたいから
伝わっているかな。愛してるとか結婚してとか言った方が良かったかな。
でも私は素直な気持ちを伝えたかったから。
「祷さん……僕も同じです。ずっと一緒に……僕の隣にいてくれますか?」
ああ……私はずっと神子であることを呪いだと思っていた。
辛くて苦しくて……なんでただ生きることがこんなに大変なんだろうと自分の境遇を恨んだこともある。ううん、今だってそう思っていた。
でもね……今わかったよ。これは呪いなんかじゃない、祝福なんだって。
ソウクンの気持ちが、想いが、まるで私自身のように伝わってくる。
キミの涙は私の涙で、キミが笑えば私も笑う。
きっとキミと私は誰よりも近くにいるんだ。
ほら目を閉じても感じるよキミのカタチ。
隣よりももっと……魂が重なり合うほどのグラデーション。
これはきっと神さまからのご褒美なんだ。
ありがとうソウクン。生まれて来てくれて。私のところへ来てくれて、ありがとう。
これから先も辛いことや苦しいことがきっとたくさんあるだろうけれど、
キミがいるから乗り越えられる。きっと。
「やれやれ、終わったかな? おお、まだちょっと早かったみたいだね」
楓さんが戻ってきたので、慌ててソウクンから離れる。
だ、抱き合っているところを見られてしまいました。
「あ、ありがとうございました、楓さん」
「ん? お役に立てたなら嬉しいよ。ところで夢神くん、祷ちゃんだけというのはいかがなものかと思うよ?」
そう言ってソウクンの胸元に飛び込んでゆく楓さん。
さすがです……見習いたい、あの姿勢。
「ところで楓さん、スーツの方は大丈夫なんですか?」
研究室を出て、ソウクンの部屋へと三人で向かう。
「ああ、問題ない。一番重要なドラゴンの魔石についてはキミのおかげで解決しているから、私が居なくても予定よりもだいぶ早く完成するくらいだ」
「それなら良かったです。あ……そうだ。ちょっと買い物に寄っても良いですか?」
「買い物? 構わないよ」
ふふ、ソウクンとお買い物ってまるでデートみたい。
「構わないが何を買うのかな?」
「あはは、その……パジャマです」
三人で衣料品店に入ると、ソウクンはパジャマをたくさんカゴに入れてゆく。
「ソウクン? そんなにパジャマ必要なの?」
「自慢じゃないが、私はほとんど白衣のまま寝るから、パジャマはほとんど使ったことないな」
楓さん……本当に自慢じゃないですね。余計なお世話ですが、使った方が良いですよ。
「ああ、違うんです。皆さんが僕のパジャマを着たがるので……」
ソウクン……の……パジャマを……着る?
ナニソレ……ウラヤマシイ。
「夢神くん、これを着てくれたまえ!! そして私がそれを着よう」
「は、はい、わかりました」
ず、ずるいです楓さん!! わ、私だって……
「ソウクン……これ……お願い」
「う、うん、わかった。とってもかわいいね、コレ」
ふふ、お気に入りの角っこ生物のパジャマがあって良かった。ソウクンの匂いに包まれて眠れるなんて……素敵。あ……一枚じゃ足りない。あと二着探さないと……。
「む、やるな祷ちゃん。夢神くん、このアノマロカリス柄と、シダズーン柄、どっちが良い?」
「えっと……り、両方……ですかね」
「さすがだな夢神くん。大将、会計を頼む、ここは年長者の私が払おう」
楓さん……大将ってなんですか? 店員さん困ってますけど……?
「あら? 創も来ていたのですね。それに祷ちゃんと楓さんまで……?」
あ……葵ちゃん。
「おお、なんだ楓も来たのか? むっ!! ひょっとしてパジャマを選んでいるのか? よし、私にも選ばせろ。いつまでもメイドエプロンでは芸がない」
えっと……四天王の龍神さん。メイドエプロンってなんですか? もしかしてそういう趣味が?
結局、ソウクンの婚約者の皆さんが乱入して、パジャマ選びはカオスになってしまいました。
最終的に何着買ったのかはわかりませんけれど、メンズパジャマの在庫が無くなったのは間違いないです。
「なんだ、これで運命さまがいたら緊急対策室のメンバー全員揃っているじゃないか」
呆れたように笑う焔さん。総理大臣が普通に部屋にいるって変な感じです。
「たしかに。いちいち集まる必要がないから便利だな。アハハハハ」
黒崎先生……相変わらず豪快な方ですね。
「かわいい~本当に綺麗ね~。ね、今度歌聞かせて~?」
さくらさんの方が綺麗だと思いますけど。巫女としての大先輩なので緊張します。
「あの……巫先輩は水色で良いかな?」
えっと……ソウクンのクラスメイトの那須野さんでしたよね。
「ごめんなさい、色って何の話?」
「ごめん、言ってなかったっけ? 衣装の色だよ、魔法少女の」
魔法少女……の衣装……の色!? 一体何を言っているの那須野さん。
「――――なるほど、わかりました。水色で大丈夫」
どうやら夢の魔境で修行する際の公式ユニフォームなんだとか。それなら仕方ないですよね。
私自身、ちょっぴり憧れもありましたし。本当はピンクが良かったんですが、すでにさくらさんがピンクなので残念。まあでも水色もかわいいからOKです。
「夢神くん、相談なんだけど、夢の魔境に研究施設を持ってゆくことは可能かな?」
「あ、はい。言ってもらえれば僕が描きますんで大丈夫ですよ」
楓さんとソウクンがすごい会話をしている。
聞いてはいたけれど、本当に何でもアリなんだね。




