第六十四話 楓のお願い
―― 四葉 楓 視点 ――
ほう……この子が噂の……。
勇者である運命さま、四天王全員、そして四葉家次期当主である葵さまの婚約者。
どんな化け物なのかと思えば、かわいい……いや、めっちゃかわいい!!
なんだこのかわいい生き物は? 鬼頭先輩の目が無ければ抱きしめて頭を撫でているところだったぞ。
そしてこの圧倒的な力のオーラ。私の固有スキル『鑑定眼』が測定不能でおかしくなるなんて初めてのこと。
さらに今最もホットな話題である『無属性』の唯一の適合者ときている。
けしからん……一体どれだけ魅力的な属性を詰め込んでいるんだ、この子は!!
なるほど……こうして対面してみれば昨日紫が即落ちして婚約してしまった意味がわかるな。
報告を聞いた限り、夢の魔境とやらにも興味が尽きない。
たまらず鬼頭先輩にお願いして呼んでしまったが、断じて職権乱用ではない。
もちろん大事な用件があったから来てもらったのだ。
まさか祷ちゃんまで一緒にやってくるとは予想できなかったが、まあ良いだろう。彼女は身内みたいなものだし。
鬼頭先輩と斉木さんは仕事に戻ったし、研究室には私と、夢神くん、祷ちゃんの三人しかいない。よし、そろそろ本題に入るとするかな。
「夢神くんは、私たちが強化スーツを作っていることは知っているよね?」
「はい、葵から聞いています。そのおかげで僕の案内人の不知火さんも助かったし、とても感謝しています」
「うむ、そして先日の魔人襲来を受けて、我が国では忍用の強化スーツを並行して開発中なのだが……」
「ああ、それも聞いています。そのために四天王の皆さまがダンジョンへ素材を採りに行っていたんですよね?」
「その通りだ。話が早くて助かる。では、これが何かわかるかな?」
取り出したのは、青く輝く直径一メートルほどの結晶体。重さは一トン近くあるが、私もそれなりに高位の忍、この程度なら片手で持つことが出来る。
「……綺麗。なんですか、コレ?」
「祷ちゃんは見たことが無いはずだよね。夢神くんはどうだい?」
「えっと、色は違うんですけど、コタローたちのおやつにそっくりです」
「コタロー? おやつ?」
駄目だ……何を言っているのかまったくわからん。
「ああ、ごめんなさい。コタローは夢の世界にいる猫で、火とかげ……レッドドラゴンから採れる赤く光る石が大好物なんですよ。その石にそっくりだなって……」
「な、なるほど……それならほぼ正解だ。これはブルードラゴンの核、つまり心臓に当たる魔石だ。高位の魔物に限られるが、こうして魔石を採取することが出来る」
「へえ……これ魔石だったんですね。やっぱり美味しいんですか?」
「いや……食べられるはずがないんだが……まあ猫だしな」
猫なら食べられるかもしれないと何となくそう思ってしまう。
「この魔石が今回ソウクンを呼んだ理由ですか?」
さすが祷ちゃん、相変わらず鋭い。
「うん、この魔石を粉末状にして素材に混ぜることで、忍用のスーツを創ることが出来るんだけど……その作業が出来るのが運命さまだけでね。正直困っていたんだ。もしかしたらキミなら出来るんじゃないかってね?」
頑丈すぎて四天王でも傷つけられない厄介な代物なんだよね……コレ。でも、これを使わないと話にならないし。
「そういうことでしたか。もちろん喜んで協力します。それを砕けば良いんですか?」
「あ、ああ……出来そうならやってもらえると助かる」
「細かい方が良いんですか?」
「そうだな……特性上、一度割れれば砕きやすくはなるんだが、それでも手間と時間はかかるからな。できるだけ細かく割ってもらえるなら助かるかな」
同じ魔石同士をぶつけても砕けないのだが、片方が割れた状態ならば、割れていない魔石を使って砕くことが出来るようになる。
「たぶん問題ないと思います。コタローたちも普通にバリバリ嚙み砕いて食べてますし……えっとこれぐらいで大丈夫ですか?」
「へ……? あ、ああ……十分だ、ありがとう」
ちょっと待て。これ完全に砂状になってないか? はは……規格外もここまで来ると笑えるな。
「これ一つだけで良いんですか?」
「え? あ、ああ……じゃあ悪いけど残りも頼むよ」
「はい」
あはは、信じられない。一週間はかかる作業が一瞬で終わってしまうなんて。
「実はね、もう一つ困っていることがあるんだ」
厳重に保管していたモノを取り出す。
「あ……これ」
「ソウクン知っているの?」
「はい、僕がダンジョンから持ち帰ってきたものだから」
「そう、夢神くんが発見した新種のアイテムなんだけど、正直お手上げなんだよね。私の『鑑定眼』でも、何かの種だということはわかっても正体がわからない。発見したのが他でもない夢神くんだし、もしかしたら、夢神くんが鍵を握っているような気がしてね」
あらゆる検査をしてみたけど手がかりすら見つからない。
「えっと、僕はどうすれば?」
「とりあえずキミが持っていてくれないか? ここに保管していても現状意味が無い。何かの変化や気付いたことがあれば知らせてくれれば助かる」
「はい、わかりました――――あれ? 今、種が光ったような?」
一瞬だったが、たしかに夢神くんが種を持った時、光ったように見えた。やはり鍵は彼か。
「それでだ。その種の経過も観察したいし、夢の魔境にも大いに興味があってね。今夜私も同行しても良いかな?」
「もちろん構いませんよ。焔さんも連れて来れば良かったって言ってましたし」
「よし、決まりだな。それじゃあ残りの仕事を片付けてから伺うとしよう」
「はい、お待ちしてます」
うむ、やはりかわいいな。疲れた心と身体が癒されてゆくのを感じる。
おっと、いかん。忘れるところだった。
「夢神くん、帰る前に私と婚約をしてくれないかな」
「か、楓さんっ!? ちょ、ちょっと待ってください、いきなりどうしたんです!?」
祷ちゃんがものすごく動揺しているな。もしかしてまだ婚約していなかったのかな?
「気が利かなくて悪かったね。先に祷ちゃんが婚約すれば良いよ」
「ふえっ!? な、な何で婚約が前提になっているんですかっ!?」
「おかしなことを言うね。だって同衾するんだから婚約するのが筋というものじゃないのかな?」
「うっ……たしかに……そう……ですね」
わかってくれたみたいだね。
「恥ずかしいなら私が席を外すよ。頑張って」
「えええっ!? ちょっと……まだ心の準備が……」
心の準備も何も、もう言ったようなものなんだし……
まったく若い子の気持ちは複雑だね。




