第六十二話 祷の憂鬱
―― 巫 祷視点 ――
「また……お告げの通りでしたね」
私は神子と呼ばれている。
ものごころがついた時から、時折声が聞こえてくるのです。
『それは神さまの声なのよ』
母からはそう教わりましたが、本当かどうかわかりません。
でも、聞こえた声の内容は必ずその通りになってきたので、やはり神さまに違いないと思うのです。
私自身、はっきり覚えているのは、ダンジョンの出現を聞いたことでしょうか。
周囲が私を公式に『神子』認定したのもその頃だったと記憶しています。
神さまの声が聞こえる――――といえば神秘的ですし聞こえは良いのですが――――
実際はそんなに神秘的でも有難い感じでもないのです。
数日前、久しぶりに声が聞こえたのですが、
『やっほー祷ちゃん久しぶり!! えっとね、もうすぐ祷ちゃん、運命の男の子と出会うよ。一学年下の夢神 創くん。とっても良い子だからよろしくね。あ、出会ったら三日以内に創くんの部屋にお泊りすること。じゃないと世界が滅んじゃうからね♡」
とってもフレンドリーかつ詳細極まりない預言? おまけに必ずやるべき行動がセットで付いてくるというのがいつもの仕様……。
ちなみに一方的に聞こえてくるだけで、会話は出来ない。
「ソウクン……可愛かったな」
昔から何度か神さまのお話に出て来た男の子。名前だけは知っていた。
そんな彼にとうとう会えるんだって思ったら、とってもワクワクしてしまって、実際に助けてもらった時は本当に嬉しかった。
まさか、あんなに可愛くてカッコイイ男の子だとは思ってもいなかったのだけれど。
「それにしても……三日以内にソウクンの部屋にお泊りって……」
神さまの無茶ぶりは今に始まったことではないけれど、今回のはちょっと次元が違い過ぎる。
どこの世界に出会ってすぐ泊まりに行く女の子がいるのかと問い詰めたい。
まあ、今時の子ならそれぐらいするのかもしれませんが……実際にそういう話も聞こえてきますし……。
でも私には無理……。
だって、
「ねえソウクン、今夜泊まりに行って良いかしら?」
「えええっ!? いきなりどうしたんですか巫先輩!?」
「ふふふ、神さまのお告げよ。世界を滅ぼしたくなければ私を受け入れなさい」
嫌あああああああああ!!! どう考えても頭おかしい人だと思われるに決まっています。
ソウクン優しいからきっと表には出さないかもしれませんが。
と、とりあえず、今夜か明日の夜しか残っていません。もう時間が無いです。
世界が滅んでしまうなら絶対にやらなければなりません。
あああ……一体どうすれば?
いや、悩んでいる場合じゃない。とにかくソウクンともう一度接触しなければ話にならない。
「あ……お母さまは今日は神社の日でしたね……困りました。一人では外出禁止ですし」
男子寮まで行ければ受付で呼び出してもらうことも出来たのですが……。肝心の連絡先もお母さまが管理していますし神事の最中は連絡も取れませんから。
明日まで待ってラストチャンスに賭けるというのはあまりにもリスクが高い。向こうにだって都合があるだろうし、何か不測の事態が起こるかもしれません。
「……一人で行こう」
目的が目的だけに友人に付いてきてもらうわけにもいきませんし……規則を破る事にはなりますが、世界の運命が懸かっているのです。
もしバレたら……葵ちゃんに頼み込んで何とかしてもらえばいい。彼女なら政府上層部にもコネがあるし。
場合によっては、そのままお泊りする可能性もありますからね。
お泊りセット一式をリュックに詰めて女子寮を出発です。
「……よし、誰もいないみたい」
人目が無いことを確認して外へ――――
「おお、巫じゃないか!!」
ひいっ!? あれは……クラスメイトの鳳くん。
「……」
「一人で行動するのは禁じられているはずだろ? どこへ行こうとしていたんだ?」
私はこの人が苦手だ。
学年トップの天才。卒業までに白金になる可能性があるって聞いた。
将来は有望、自信家で正義感が強くて女性にも人気があるらしいけれど――――
私はこの人の纏わりつくような偏執的な好意が苦手なのだ。
「……」
「まあいいや、行きたいところがあるなら一緒に行ってやるよ」
怖い……首を横に振る事しか出来ない。
「遠慮すんなって、いいから行くぞ」
強引に私の手を掴んで連れて行こうとする。嫌……離して!!!
「すいません先輩、巫先輩は僕と約束していたんです」
え……? ソウクン? どうして……?
「なんだ、そうだったのか。それは悪かったな」
表向きは爽やかに振舞っているが、内心はドロドロとした嫉妬心で一杯。もしかしたら、偶然居合わせたのではなく、出待ちをしていたのかもしれない……いや、間違いなくそうだ。
恐怖で全身がおかしくなりそうになる。
幸い、鳳くんはすぐに去っていったけれど、震えが止まらない。掴まれた場所が焼けるように痛い。
「大丈夫ですか、巫先輩」
そっと手を握ってくれるソウクン。
ああ……なんて温かくて優しい手なんだろう。
恐怖が上書きされて満たされた気持ちになる。これってソウクンが私の運命の人だから?
「ソウクン……どうして?」
「あはは、ごめんなさい、嘘ついちゃって。巫先輩が怖がっているってわかったから、咄嗟に……でも、用事があったのは本当です」
ああ……言葉が足りなかった。責めているわけではないのです。こちらこそごめんなさい。
「いいえ、でも丁度よかった……私もお話があったから」
これも神さまのお導きなのでしょうか? でも、さすがにこの場所で話せる内容ではない。
「私の部屋へ行きましょう。今日はお母さまが留守だから」
「は、はい」
ち、違う……これではお母さまが居ないことにかこつけて二人きりになりたいみたいじゃないですか!?
ま、まあでもソウクンが部屋に来るのは初めてじゃないし。仕方ない……ですよね?




