第五十六話 プロポーズは突然に
零と綾は、レッドドラゴン相手に圧倒的な戦いを展開していた。
「ハハハ、すごいなコレは!! まるで歯が立たなかったレッドドラゴンの装甲がすあまのようだ」
動体視力が十倍になるゴーグルと、最大十倍まで加速出来るブーツを装備した零にレッドドラゴンの凶悪な攻撃は虚しく空を切る。トドメとばかりに繰り出したパンチは、物理・魔法防御無効グローブによるもの。圧倒的な頑強さを誇る巨大なレッドドラゴンだが、サンドバッグのようにぶちのめされるしかない。
「相変わらず野蛮だな零、殴るなど大和撫子のすることではない。教わらなかったのか? 食べ物で遊んではいけませんと――――『噛み砕く螺旋』!!」
空中を含めて、任意の空間を蹴ることが出来る靴は、自在に空を歩くことすら出来る。綾はレッドドラゴンの死角からその背に降り立つと、両掌を当てる。
『GRUURUAA?』
触れられると動けなくなる手袋によって体の自由を奪われたレッドドラゴンは、綾に文字通り噛み砕かれて肉塊へと変わる。
「ふざけんな綾、何が大和撫子だ。お前の唾液が付いた肉なんて食えるかよ!!」
「安心しろ、お前にはやらんからな」
「最低ですね~」
「うん、最低だね」
ドン引きしているさくらと焔はといえば、箱を置いて放置しているだけ。
「おい、お前らやる気あるのか?」
零は呆れるが、二人は気にしない。
「ほら、来ましたよ~」
「おお、大漁、大漁!」
魔物が匂いに釣られて集まってくる魔法のホイホイ。
ものすごい数の魔物たちが殺到する。
「ば、馬鹿、いくらなんでも多すぎだ!? 逃げろさくら、焔!」
思わず綾が叫ぶが、それでも二人は余裕の表情を崩さない。
「はい、一網打尽なのです~!」
地面がパカッと開いて、魔物の大群が一気に落ちてゆく。
「ふふふ、飛んで火にいる夏の虫だね。みんな、レベルアップの時間だよ」
焔の掛け声に全員集まって来るが、罠に落ちた魔物の数を見て青ざめる。
「あはは……さすが四天王だな。何だコレ……」
「……ざっと五百体はいるでござるな」
あまりの数に呆れる菜々と冷静に数を数える影野。
「ご、五百ですか? あはは、これはさすがに死んでしまうのでは?」
こんな数を一気に倒したら天文学的な経験値が流れこんでくる。かつてないレベルアップ酔いに襲われるのは間違いないだろう。さすがの不知火も怖気づいてしまう。
「大丈夫ですよ不知火さん、桃を口に含んだ状態で倒せば良いのです」
「なるほど、さすがはお嬢様。その手がありましたか!」
葵のアイデアを褒めたたえる柴田。
『アハハ……ここにいる魔物、全部魔王クラスなんですけどどうなっているんでしょうね。さすが私のご主人さまといったところなのでしょうか』
ロキシーは自らの主の圧倒的な力を感じながら恍惚とした表情を浮かべて悶えている。
「そういえばロキシーは魔物を倒してもレベルアップしないんだよね?」
焔がロキシーに尋ねる。
『ええ、その通りですが、その代わりご主人さまがレベルアップするたびに、私にも力が流れこんで来るので、こうしている間にもどんどん強くなっているのがわかります。はうっ……また……来ました……これは、クセになる快感ですね。もうご主人さま無しの生活など考えられません……』
「あはは……そうなんだ。羨ましいような羨ましくないような……」
複雑な表情を浮かべながら、焔は合図を送る。
「よし、皆準備は良いかな? それじゃあ一斉攻撃スタート!!」
全員に桃が行き渡ったのを確認して、攻撃のGOサインを出す焔。
罠にかかった魔物たちは反撃どころか身動きもろくに出来ないので、一方的に蹂躙されるがまま。魔物たちにしてみれば、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。
一体倒せば確実にレベルアップ酔いに襲われる魔物を何百体も倒したのだ。桃が無ければそれこそショックで死んでいてもおかしくないギリギリの荒行。
「うわあっ!? く、黒崎先生、だ、大丈夫ですか!!」
「きゃああ!? さ、さくらさま、龍神さまが……」
菜々と不知火の悲鳴に、何事かとさくらが駆け付けてくる。
「愚かな……つまらないプライドで桃を使わなかったのですね……自業自得ですが、このままリタイヤされても困りますからね。四葉さま、桃を」
「はい、さくらさま」
さくらは、白目をむいて気絶している二人の口に容赦なく桃をねじ込むと、その万力のような握力で桃を握りつぶす。もちろん、搾りかすや種はそのまま口の中だし、顔中果汁で酷いことになっているが、気にするさくらではない。
「ひええっ!? 大丈夫なのですか、そんな乱暴にして?」
「心配ないわよ柴田さん。二人ともアホみたいに頑丈だし~」
「しかし不思議だな、夢の中なのに腹が減るっていうのは」
「うむ、闘い続けてさすがに空腹だな」
すっかり復活した零と綾のコンビが、今度は腹が減ったと騒ぎ出す。
「ふふ、お二人とも、もうすぐとっても豪華なお夕食の時間ですから楽しみにしていてくださいね?」
葵の言葉に目を輝かせる二人。
「うおおおおおおっ!!! な、なんだ……コレ……」
「美しい……食べ物を見てそう思ったのは初めてだ……」
メイドたちに案内されて夕食会場にやってきた零と綾は歓声を上げる。
美しい食器に盛り付けられた多種多様な料理がライトアップされて宝石のような輝きを放っている。
「素敵~。まさに食の舞踏会ですね~」
「あはは……サミットでもこんな豪華な食事は見たことがないよ……」
うっとりと目を輝かせるさくらに焔も興奮気味に同意する。
そして……何と言っても、ここではいくら食べてもカロリ―ゼロなのだ。
すでに昨日経験済みのメンバーも、大幅にグレードアップ&リニューアルされたメニューに大興奮。
デザートも昨日と同じものは何一つ無いという徹底したこだわりが嬉しい。
「楽しんでもらえてますか?」
夢神が狩りから戻ってくる。
「うむ、どの料理も絶品だ。夢神、私も婚約者にしてくれないか?」
「えええっ!? 僕なんかで良いんですか、綾さん?」
「もちろんだ。強くなれて、美味い料理が食べられる。これ以上の幸せなど考えられないからな。ああ、勘違いするなよ? 一番の理由はお前のことが気に入ったからだ。それ以外のことはオマケみたいなものだ」
「わかりました。僕も綾さんが大好きなので嬉しいです!」
「ば、馬鹿……人前でそんな恥ずかしいこと言うものじゃあない」
「自分からプロポーズしておいて何恥ずかしがっているんでしょうね~?」
真っ赤になって照れる綾をジト目で見つめるさくら。
「うわあっ!? 綾、貴様、抜け駆けは汚いぞ!! 夢神、私もだ、私も婚約者にしてくれ!!」
「えええっ!? は、はい……もちろん。嬉しいです黒崎先生」
「零ってば……色気も何もあったもんじゃないね……まあ、らしいっちゃらしいけど」
零のあまりの雑なプロポーズに、焔も苦笑いするしかない。
「あら~? 焔は良いの? 早くしないと手遅れになっちゃいますよ~?」
「……うっ!? た、たしかに……」
すでに四天王のうち、三人が婚約者になっている。夢神がモテまくっている現状、このままでは、さくらの言う通り物理的に焔の席は無くなってしまうだろう。
もちろんそんなことは焔も百も承知なのだが、会った初日にプロポーズ出来るほど非常識でもないし、出来ればもっとムードのある場所で、二人きりで告白されたいという乙女心も持っている焔にとって、ハードルが高すぎるのもまた事実。
「ううう……」
「まったく……しょうがないですね~。おーい、創にゃん!! 焔たんも創にゃんの婚約者にして欲しいって言ってますけど~?」
「うわあっ!? ち、ちょっとさくら……!?」
「もちろん良いですよ! 僕、焔さん大好きです~!」
「ほらね~? 創にゃんが断るわけないじゃない~」
「はわわ……だ、大好き!? ぼ、ボクを? っていうか、良いの? 婚約者?」
思っていたのとは違ったが、無事婚約者になれた焔。
「影野さん……これはチャンスですよ! この流れなら、いける!!」
「うむ、拙者もそう考えていたところでござった。一緒に行きますか柴田殿」
こうして夢神の婚約者がまた増えてゆくのであった。




