第五十一話 歌姫との邂逅
「でもやっぱり祷先輩最高だよな。俺、VIP会員だし、発売されているものはもちろん、非売品もコネやオークションで可能な限り手に入れてるんだよ。同じ高校の空気を吸える日が来るなんて感無量……」
食事会は、いつの間にか歌姫巫 祷先輩の話題へと移っている。
京吾くんと降矢くんは熱狂的かつコアなファンみたいで、いかに彼女が素晴らしい歌手なのかを熱弁している。
僕も入学式で初めて巫先輩のライブを聴いたけれど、たしかにあれはすごい体験だった。
「なにしろ祷先輩は忍だからライブなんてあり得ないんだよ、だから入学式は超レアなステージだったわけで――――って聞いているのか、赤牛」
「ん? ごめんなんの話だっけ? ドラゴン?」
「それはさっき終わっただろ……祷先輩だよ、歌姫の巫 祷先輩の話」
赤牛くんって……本当に食べること以外興味が無いんだなあ……
「ああ、そうだったね。そういえばこの地下モールにコンサートホールも出来るらしいよ。そこでライブやるんじゃないかな? 見に行ってみる?」
赤牛くんの提案で、急遽店の近くで準備中のコンサートホールを見学しに行くことに。
コンサートホールは定員千人ほど、最先端のダンジョン素材を使っていて、圧倒的な音響と音質を確保、全世界にリアルタイム配信も可能な最新型。
忍高生と学園都市関係者しか入ることが出来ないとはいえ、巫 祷の人気を考えれば、間違いなく抽選必至のプレミアムチケットになると京吾くんたちが力説している。
「痛いっ!? どうしたんですか京吾さま? 急に止まったりして?」
先頭を歩いていた京吾くんが急に止まったので、降矢くんが背中に激突して尻もちを付いた。
「祷……先輩……がいる」
固まっている京吾くんの視線の先には、関係者と設備の確認をしている巫先輩その人の姿が。
歌っているときとは別人のようで言われなければわからないレベル。京吾くんよくわかったなあ……さすがコアなファン。
「あら? あなたたち忍高生よね? これからリハーサルを兼ねてステージの確認をするんだけど、良かったら聞いて行ってくれない? 客席からの意見があったら遠慮なく言って頂戴」
僕たちを見てマネージャーさんらしい女性が声をかけてくる。
「も、もちろんです!! ぜひ!! お願いします!!」
「そ、そう? じゃあよろしくね」
土下座をしかねない京吾くんの勢いに若干引き気味のマネージャーさん。
そしてなんと案内してもらったのは、まさに特等席といえる場所。巫先輩の細かな表情まではっきり確認できるほどめちゃくちゃ距離が近い。
「夢神……俺、このまま死んでも良いかもしれない……」
「京吾さま……私もです」
夢心地で興奮している二人にたいして――――
「角ウサギジャーキー食べる?」
あくまでマイペースな赤牛くん。
リハーサルが始まり、ステージの中央へ向かって歩き出す巫先輩、本当に同一人物なのかと思うほど物静かで纏う空気は『静』そのもの。歩く音すら聞こえない。
――――でも、マイクを持った瞬間
――――空気が変わった
――――たった一呼吸で
――――神が降りた
これは……違う。歌じゃない……祈りだ。いや、そもそも歌は神さまに捧げるものだったから同じなのか。
圧倒的な声量、あの細い体のどこから声が出て来るのか?
それに……なんて優しくてせつない歌声、耳じゃなくて心に、魂に直接語り掛けてくるような……そうか……運命さんの念話に似ているんだ。
涙が……止まらない。これは……僕の涙? 違う気がする……ずっと聞いていたい……ずっと。
「素晴らしい!! 最高です!!」
「す……すごい……神懸っていますよ……これ」
「か、感動した……」
熱狂的なファンの二人はもちろん、あの赤牛くんまでスタンディングオベーションしている。
僕は少しでも余韻に浸っていたくて立ち上がれないままでいたけど、素晴らしい歌を称賛したくて立ち上がろうとした――――
『あはは、良いね、とっても良い!! アナタ気に入ったわ。連れて帰って魔王様に聞かせたらきっとお喜びになる』
ホール中に響き渡る濃厚な艶のある声。ホールの天井付近の機材に腰かけているのは、頭に二本の角を生やし、コウモリのような翼があるグラマラスな女。
すぐに直感した。黒崎先生が対峙したっていうコウモリ女だということに。
だとしたらヤバい……黒崎先生が本気で危険視していた存在、忍や魔人を操っていたのもコイツだって言っていた。
運命さんは居ない、四天王はダンジョンに入ってまだ戻って来ていない……。
「なんだてめえは!! 祷先輩に手を出すなら容赦しねえぞ!!」
京吾くんたちが戦闘態勢に入る。警備の人たちも駆け付けて、巫先輩の前に立ちはだかる。
でも――――
『あはは、無駄無駄――――『淫気解放』――――』
コウモリ女は指一本動かしていないのに、全員金縛りにあったように身動きが取れなくなっている。
『じゃあ、貰っていくわね』
天井からステージに降り立つコウモリ女が巫先輩にせまる。
「させませんよ」
間一髪間に合った。巫先輩を背にコウモリ女に対峙する。
『あら? まだ動ける人間がいたのね。ちょっと驚いたわ。それに……とっても可愛いのね、アナタ。ふふ、そうだ、アナタもついでに連れて帰れば良いじゃない』
このコウモリ女……あの魔人なんかよりもずっと強い。まだ全然本気を出していないのがわかる。
『あは、ちょっとは抵抗力あるみたいだけど、人間は逆らえないのよこの私にはね――――跪け!!』
油断しているのか隙だらけだ。
一気に距離を詰めて最小の動きで打撃を繰り出す。
『ぐぎゃあ!?』
避けられるかと思ったら、もろに当たって派手に吹き飛んだ。すぐに巫先輩のところに戻る。
黒崎先生の話だと転移みたいな力を使うって言ってたからね。
『くっ……ゲホッ……ガハッ!? ば、馬鹿な……なぜ支配が効かない……それに……このパワー……アナタ……本当に……人間……』
コウモリ女は力尽きたのかそのまま倒れて動かなくなった。
「祷っ!!」
それと同時に皆にかかっていた金縛りが解けて、一斉に駆け寄ってくる。
「あの、拡張リュックありますか?」
「あ、ああ、旧型しかないけどこれで良いかい?」
「はい、十分です」
気絶しているコウモリ女をリュックに入れておく。これで逃げられることはないだろう。たぶん。
「あの……キミの名前」
びっくりするくらい小さい声。振り返ると巫先輩が立っている。
「夢神――――夢神 創です。巫先輩」
「ムカミ――――ソウクン? ありがとう――――助けてくれて」
巫先輩は、耳の良い僕じゃなければ聞き取れないほどの小さな声で
見逃してしまいそうに小さく――――微笑んだ




