第四十九話 魔王女
『お前が新しい魔王か?』
『……いかにも』
ん? 待てよ……この声……聞いたことあるな。
『その声、お前……もしかしてザイオンか?』
何度か会ったことがある。魔族の王子で武のトップ、魔戦将軍ザイオン。
特徴的な声ということもあるけど、やたらと私に執着していたから忘れようにも忘れられない。
『ホウ……我のことを憶えてくれているとは光栄だな。この世界にやってきて、キミが居ることを知った時は興奮したよ。柄にもなく神にすら感謝したね』
げっ……やっぱりか。魔王が神に感謝とか冗談キツイ。
『こんな大掛かりな罠まで用意して、私をどうするつもり?』
まあ、聞くまでもなく大体予想できるけど。
『ハハ、わかっているくせに。こうしてまた会えたんだから、もう少し喜んでくれても良いんじゃないか? だが何度でも言おう、サダメ、我の伴侶になれ』
『ヤダ』
『……即答か。ずいぶんと嫌われたものだな。だが我は無様に打ち負かされた以前とは違う。サダメ……キミすら凌駕し、世界を滅ぼすほどの力を手に入れたのだ』
はあ……自己陶酔するのはまったく変わっていないな。むしろ悪化している。
『だからどうした? 力で何でも思い通りにしようとする奴は一番嫌いだよ』
『そうか……相変わらずだな。だがそこが良い。どうせここからは出られんのだ、何年かけてでも、あらゆる手を使ってでも必ず手に入れて見せるさ』
コイツの執着にはウンザリしているんだよな。くそ、やっぱりあの時殺しておけば良かった。
それにしても……どうなっているんだこの結界、制限は一切なくて、逃げることだけが出来ないように特化しているという感じか。
『逃げようとしても無駄だ。この日のために作り上げた特別な結界。まさにサダメ専用結界なのだからな。刺激すればサダメのことだから絶対にやって来ると思ったんだ。上手く行って嬉しいぞ!』
興奮気味に語るザイオン。この変態め。
『おいザイオン、まさか……先日の襲撃はそのために?』
『イグザクトリー!! もちろんそれだけではないが、我の最大の関心事はキミだからな。他のことなど些事にすぎん』
くそ、何がイグザクトリーだ。ぶん殴りたい。
『まあそんなに熱くなるな。我とてキミを迎えるにあたって、相応しい条件を用意しているんだ』
『……条件?』
『そうだ。サダメが我の伴侶となるのなら、キミの故郷、二ホンには手を出さないというのはどうだ? キミの大切な仲間や愛する故郷には指一本触れないと約束しよう。もちろんいつでも好きな時に里帰りしてもらっても構わない。どうだ、悪い条件だとは思わないが?』
『……ダンジョンはどうなる?』
『当然我ら魔族も利用させてもらうが、そのまま人間が使い続けることは許可しよう』
なるほどね……たしかに悪い条件じゃない。条件だけなら。
『だが断る!』
『なぜだっ!!』
私には愛しの創くんがいるし、何よりコイツは生理的に受け付けない。
『……そうか、なかなか強情だな。ならば作戦変更だ。イエスというまで少しずつ二ホンを滅ぼしてゆくことにしよう。どこまで耐えられるのか見物だな、ククク』
この野郎、日本を人質に取って、私を落とそうとしているのか。やっぱりクズだな。
『でもザイオン、お前もここから動けないんだよね?』
『気付いていたか……さすがだなサダメ。その通りだ。この結界を維持するために我のすべての力を使っているゆえ、こちらからも何もできないが、それでも配下を使って二ホンを滅ぼすことくらいは出来る。まあ我も悪魔ではない。考える時間ぐらいは与えよう。そうだな……十日間だけ待ってやる。それを過ぎたら――――』
『キミの大切な故郷は……滅ぶことになる。よく考えることだな、サダメ』
魔王ザイオンの気配が消えた。
おそらくは、思っている以上に結界の維持には力を消耗するのだろう。私をここに閉じ込めておくのが精一杯といったところだね。
そして十日間待つと言ったのは、優しさでも何でもなく、単に配下の強化に必要な時間だろう。
先日の襲撃で四天王の戦闘力を把握して、確実に勝てるレベルまで時間が欲しいだけ。それまでに私がOKすれば良し、そうでなくとも、余裕をもって私に絶望を与えて心を折ることが出来る。
大方そんな風に考えているんだろうね。
でもさ、人間を舐めるなよ?
幸い創くんのことは魔族に知られていない。
ザイオンは、私さえ居なければ人間なんて相手じゃないって思っているんだろうけど。
創くんならきっとやってくれる。私はそう信じているから。
とはいえ、このままじゃあマズい。
動けない私と違って、ザイオンは自身を配下の手を借りることで強化を続けることが出来る。
味方は転移が使えないし、私がここにいることすら知らない。助けが来ることは期待できないだろう。
残り十日、なんとしてもここから脱出する方法を考えなければ……
――――三日後の夜
『……サダメさん、起きてらっしゃいますか?』
ん? ザイオンの声じゃない……それにこの声――――
『まさか……ルシフィーナ?』
『良かった。私のこと憶えていてくれたのですね』
『当たり前だよ、私たち友だちなんだから』
魔王の娘、魔族のプリンセスではあるけど、心優しい女の子。
魔族と言っても、全員が極悪な人類の敵というわけではないんだよね。子どものうちは、むしろルシフィーナみたいな穏健派の方が多いらしいし。ただ、成長にしたがって力こそすべてみたいな連中ばかりになってしまうのは……やはりルシフィーナが言っていた『呪い』ゆえなのかもしれない。
『トモダチ……嬉しいです。今は兄が寝ているので、こうして会いに来ることが出来ました。こんなことになってしまって本当に申し訳ないです……』
『気にしないで、ルシフィーナが悪いわけじゃないし。それより、この結界どうにか出来ないかな?』
『ごめんなさい、私の力ではどうしようもなくて……』
やっぱり駄目か……。でも待てよ、それなら――――
『ねえルシフィーナって行動は監視されていたりするの?』
『いいえ、自由に街へ行ったり、この世界を楽しませてもらっています』
『日本へは行ったこと、ある?』
『サダメの故郷ですね、はい、何度かモフモフパラダイスへ行ったことがあります』
マジか……まさかのモフパラ。上級者じゃないか。
『ルシフィーナにお願いがあるんだけど、聞いてくれる?』
『はい、私に出来ることでしたら何でも言ってください』
相変わらずの可愛らしい声に癒される。この三日間、あのザイオンの声しか聞いてなかったからね……
『日本へ行って欲しいんだ。それでね――――』
ルシフィーナは、一生懸命私の話を聞いて、頑張ってみますと約束してくれた。
ごめんねルシフィーナ。私のためにこんなお願いしてしまって。
頼んだよ。




