第四十八話 新たなる魔王
「やっぱり居たか……魔族」
広大な皇宮内に侵入すると巨大な広場があった。
そこへたくさんの人々が整然と列をなして入ってゆく。まるで夢遊病患者の群れのよう……あれはどうみても正気じゃない。そして……その様子を眺めている巨大な魔力の塊がちらほらと確認できる。
禍々しい双角とコウモリのような羽……間違いない――――
やはり帝国には魔族がいた。
裏で操るつもりなら人に見た目を変えているはずだけど、そうしていないということは、もはや隠す気はゼロ……つまり帝国全体をすでに支配下においているということかもしれない。
――――と、ここまで来ればこの後の展開は容易に想像がつく。
魔族は――――人を喰うんだ。
異世界で散々見て来た光景が脳裏によみがえってくる。
喰うと言っても、物理的にバリバリむしゃむしゃ食べるわけではない。魔族も人間と同じように普通の食事をする。
ただ、魔族は種族特性として生命エネルギーを吸収して自分の力にすることが出来る。
つまり……帝国の人々を集めてここで行われているのは、さしずめ魔族が強くなるための修行会ってところだろう。
まあ……魔物を倒して経験値でレベルアップする人間と本質的な違いはない。ただ成長の糧とする対象が、人間と魔族では異なるだけの話だ。
ということは、道中見て来たゴーストタウンは、すでに喰い尽くされた後だったのか?
生命力を奪われた人間は、存在を維持できなくなって文字通り消えてしまうから、それなら死体が無かったのも説明がつく。
問題はいつから魔族が帝国に来たのかだけど……
おそらく十年前、日本にダンジョンが出現したタイミングでやってきた可能性が高い。
魔王城と創くんの夢の場所が融合していたことを考えると、一部がこちらの世界と繋がっていたとしても不思議ではないし。
十年かけてこちらの世界に馴染みつつ、人々を糧として成長を続けてきたのだとしたら……相当に危険な状況だ。
異世界の人口は、こちらの世界の百分の一以下だった。
魔族としても、成長の糧が無くなるのは困るので、襲うことはあっても、滅ぼすようなことはしなかった。だから常に戦いはあってもバランスがギリギリ保たれていた。人間側が抵抗できていたんじゃない。生かされていただけ。滅ぼすつもりなら人間の国など、魔王クラスなら一晩もかからないだろう。もっとも魔族には魔の領域から離れるほど弱体化するという制約があるから、言うほど簡単な話ではないと思うけど。
そして人口が百倍いるこちらの世界。魔族の感覚なら、この国の人口が十分の一になったとしても、まだまだ沢山いるから問題ないと考えているだろうな。
この世界は食べ物も美味しいし、衛生環境やインフラも向こうの世界とは大違い。その上、糧になる人間まで食べ放題出来るほどうじゃうじゃいるわけで……。
それはもう……さぞ居心地が良いことだろう。
そして――――一番の問題はこいつらがめちゃくちゃ強いということ。異世界に居た時とは比べ物にならないほどパワーアップしてる。
ここにいる魔族のレベルだけみても、一番弱い奴でも四天王を凌駕するほどの力がある。おそらくは十年間人間を喰い続けて馬鹿みたいに強くなったんだろう。想像しただけで吐き気がしてくるね。
いやあ、やばいやばい。創くんが居なかったら本当にヤバかった。
あの日、魔王を倒してくれていなかったら……世界はどうなっていたかわからない。
さてと、ある程度状況はわかった。連中が十分力を付けて帝国の人々を喰い尽くしたら……おそらく日本にやってくるはず。
これまでやって来なかったのは、おそらく魔族の制約による移動限界だろう。そう考えれば、帝国内にある異世界との繋がりはここ帝都にあると考えていい。
少しずつ転移を使って一度行動範囲を広げてしまえば、襲撃自体は転移を使うことでいつでも出来るわけで……多少弱体化したとしても凌駕出来るだけの力を付ければ済むこと。
先日の襲撃はいよいよその準備が整いつつあるということなのだろう。
ダンジョンさえ押さえてしまえば、魔族の新たな拠点となってしまうのは目に見えている。
これはもう……時間はあまり残されていないと考えた方がいいな。
成長の糧となる人間そのものを滅ぼすつもりは無いだろうけど、魔族にとって脅威となる私たちは真っ先に狙われることになるだろうな。連中は長く生きている分、異常なまでに慎重で用心深い。確実に優位な状況を作ってリスクを極力を減らすまでは仕掛けてこないという種族特性に助けられているのも変な話だけど。
後、もう一つ気になっているのは――――
皇宮の奥に潜んでいる巨大な魔力の存在。
おそらくは魔王亡きあとの新たな王だろう。
魔族はシンプルに、一番強いものが王となり魔王と呼ばれるから、出来れば実力を確認しておきたいところだね。
どれどれ……うわあ……遠めに見てもヤバい。
アレは別格だわ。しかも四本角、完全に魔王覚醒してるじゃん。
うーん、でもどうだろ、勝てるかな?
一対一で邪魔が入らなければ条件次第では勝てるかもしれないけど……何ともいえない感じ。ここは敵の本拠地だし、魔王ほどじゃなくとも、それに近い側近クラスの魔族を同時に相手にするとなったらしたらちょっとどうなるかわからない。
ここでそんなリスク犯すぐらいなら、創くんとこで修行して強くなった方が確実で安全だし、可能であれば魔族が弱体化する日本で個別に迎え撃ちたいところだね。
帝国の人々は本当に気の毒だと思うけど、今後のことを考えたら、今日のところは引き上げさせてもらったほうが良い。
――――転移!!
……あれ? おかしいな? 転移が出来ない!?
しまったあ……空間隔絶型の罠だこれ。
マジか、帝都全体に結界張るとか……どんだけ気合入れて造ったんだ? 入り口がデカすぎて逆に気付かなかったよ。
『ようこそ……勇者サダメ』
突然脳内に響く声……相手は、考えるまでもないな。
――――魔王




