第四十七話 帝国の状況
「美味いっ!! 戦闘の後の食事は最高だな!!」
ステーキ大に切り分けたブルードラゴン肉に生でかぶりつく零。
「同意する。これで醤油とワサビがあれば至高だが、そのままで十分美味い」
綾は豪快に骨付き肉から嚙みちぎっては、幸せそうにうっとりとした表情を浮かべる。
「まったく野蛮よね~。いくら生で食べられるからって、あれじゃ原始人だわ~」
「うむ、同じ四天王として……いや人間として恥ずかしいよね」
一方のさくらと焔は、きちんと包丁で捌いたものを、醤油とワサビ、ショウガなどの薬味を使って優雅に楽しんでいる。
「って、おい、薬味とか調味料持ってきているんなら私たちにも分けてくれよ!!」
「うむ、同じ四天王として分けて欲しいぞ」
「あのね、毎回持ってきた方が良いって言ってるじゃない? なんで学習しないんだよ、ニワトリなの?」
焔は思い切り嫌味を言うが、これは仕方がない。一体何度目なのかわからないくらい恒例のやり取りになっているのだから。
「えへへ、ニワトリで良いから、くれよ」
「コケッ! コケッ!! クレッ!!」
美味い物を食べるためならプライドなどかなぐり捨てる零と綾の姿に、焔は盛大にため息をつきながら手招きするのだった。
「それにしても、今回は思っていた以上に早くドラゴンを倒すことが出来たな」
前回は丸一日、しかも最後は運命の手を借りてだったが、今回はなんと四時間ほどで倒すことが出来たのだ。零は満足そうに笑う。
「まあ、前回から各自それなりにレベルも上がっているからな。今回倒したことで更にレベルアップ出来たから、二体目はもっと早く倒すことが出来るはずだ」
綾の言う通り、四天王クラスになると、滅多なことではレベルアップしなくなるが、ドラゴンの経験値は膨大で、一体倒せば彼らでもレベルが複数上がる。
ダンジョンの百階層まで来なければならないので、お世辞にも効率が良いとは言えないものの、運命は転移という裏技を使って、四天王を鍛え上げてきたのだ。
もちろん国のためということもあるけれど、自分の代わりを育成しない限り、自由になれないことがわかっていたから、運命は才能があるものを選抜し、四天王として効率よくエリート育成を進めたという事情もある。
「なあ焔、今回は上には行かないんだよな?」
零が言っている上とは、更なる上層階のことだ。四天王が揃ったこのメンツであれば、もう少し上の階層でも戦うことは可能。
「うん。ドラゴン三体だと、四人のリュックには入りきらないからね。ドラゴンの素材を抱えた状態じゃ戦うどころじゃないでしょ。それに……レベル上げなら、例のカレにお願いした方が効率が良さそうだしね」
焔の言う通り、ここで粘るよりも、早く戻って夢神創の下で修業した方がはるかに早い。
「運命さまの話が本当なら、レッドドラゴンが最弱とかいう魔境らしいからな……」
四天王だからこそ、その出鱈目さがよくわかる。レッドドラゴンは同じドラゴンでもブルードラゴンとは強さの格が違う。なにせ四天王が束になっても歯が立たないのだ。
「ずっとレベルが上がっていなかった運命さまですら毎日レベルアップしているそうですから~」
あまり戦いに関心を示さないさくらまで興奮気味に食いつく。もっとも、早く戻って夢神と混浴したいというのがさくらの本音の大半ではあるのだが。
すっかりお腹も膨れた四人は、二体目のドラゴンに挑む前に、しばし身体を休めるのであった。
―― 異世界から帰還した勇者 世渡 運命視点 ――
さて、帝国の様子を探るなんて言葉では簡単だけど実際は結構厄介。
実は帝国本土へは行ったことが無いんだよね。国民全員の動きが完全に監視されていて、未登録の人間が帝国領内に侵入すると感知される『監獄』という面倒なシステムがあるから。
気配遮断を使えば見つかることはないけど、システム上侵入したという記録は残ってしまう。
別に感知されたところでどうってことはないんだけど、あまり派手に動きまくって私のような存在が日本にいるという情報自体を与えたくなかったし、単純に忙しくてそれどころじゃなかったというのもある。
まあ何が言いたいかというと、転移は行ったことがある場所じゃないと使えないから、ダイレクトに帝国中枢までは飛べないわけで……。
とりあえず対馬へ飛んでから旧朝鮮半島経由で帝国に侵入、そのまま目視で転移を繰り返して、一気に帝都(旧北京)へ――――
――――というつもりだったんだけど……
なんだ……コレ? 一体何があった?
半島に人の気配が無い。街はそのまま残っているけど、まるでゴーストタウンみたいだ。
いや……正確に言えばほとんどいないだけで、無人というわけではないけど……いくらなんでも少なすぎないか?
少なくとも出歩いている人影は見当たらない。
なんとなくだけど……嫌な予感がするな。
どうする……戻った方が良いか?
いや……駄目だ、少なくとも何があったのか確認してからじゃないとかえって危ない。そもそも単身で来たのだって、余計な犠牲を出したくなかったからだしね。
さて、鬼が出るか蛇が出るか――――
「うーん、特に変化なし……か」
帝都を目指してひたすら転移を繰り返してきたけど、道中見える景色は大きくは変わらない。相変わらず生活感のないゴーストタウンばかりが続いている。
最盛期の帝国人口は二十億を超えていたはず……食糧危機が続いて餓死者が大量に出ているとは聞いていたけど、まさかそこまで酷かったとでもいうのだろうか?
でも、そのわりには倒れている人や遺体も見当たらないし……うーん?
――――とにかく進んでみるしかないか。
「目的地到着っと……ふーん、ここが帝都か」
元の状況は知らないけど、近づくほどに人の数は増えていて、少なくともここ帝都はいたっては普通の都市の光景が残っている。変な話だけど、少しだけほっとしている自分がいる。人が居ない都市って不気味だからね。
「うーん? そうすると汚染で住めなくなった土地を捨てて強制移住でもさせたのかな?」
少なくとも放射線による汚染ということではなさそうだったけど……ね。
せっかく帝都までやってきたんだし、さっそく街で情報収集……と行きたいところだけど、この国の場合、どうせ機密事項は隠ぺいされているから正直あまり意味ないんだよね。
あまり時間もかけたくないし、直接中枢に乗り込んだ方が早い。
ついでにどの程度のセキュリティ強度なのか調べられれば一石二鳥だしね。
いっそのこと大元の監視システムをぶっ壊してしまえば早いんだけど、どこにあるのかわからないからなあ。いっそのことお偉いさん拉致して吐かせてしまおっかな……。先に手を出してきたのこの国だし、そのくらい文句ないよね?
まあ、どちらにせよここまで来た以上、こっちも好きにやらせてもらうけどさ。




