第四十六話 未来のためにできること
「皆さん、お疲れ様でした。たくさん作ったのでいっぱい食べてくださいね」
「「「「「うわあああああ……」」」」」
修行が終わって、夢神の家……というかお城へ戻ると、どこぞの王さま……いや、皇帝でも食べたことが無いような豪華な料理が所狭しと並んでいる。
料理が盛り付けられている器も、値段を聞いたら目玉が飛び出るであろう代物に見えるし、見ているだけで満足してしまいそうになる。
「むこうの部屋にはスイーツと各種ドリンクバーが用意してありますからね」
この部屋だけじゃなかったのか……部屋って言うよりも、舞踏会が出来そうな広さだけどな。
「う、美味い……!?」
とりあえず一番無難そうな唐揚げを口に入れてみたが、次元が違う。弾力のある皮、ぷりぷりの身、蕩けそうなほど美味い肉汁……。
何も付けなくても素材の味だけで十分過ぎるほどだが、レモンっぽい何かを付けたら神の味になった……。
ここで倒したモンスターの素材は最高級の食材になると聞いてはいたが、ここまで違うものなのか?
スイーツもまるでプロのパティシエみたいな見た目の仕上がりで、味は想像をはるかに超えてくる絶品なんだが……?
「お、おい、夢神。こんな大量の料理どうやって作ったんだ? そんな時間なかったよな?」
そうだ、夢神だってずっと修行していたはず。
「うん、人数も増えてきたからね。有能なメイドと世界一の腕を持った料理人アンドロイド、それから自動で料理が出来る装置を描いたんだよ」
そうだったな……この場所に関しては、夢神は神さま同然なんだった。その可能性の幅がヤバすぎてちょっと言葉が見つからないけど。
「ふう……自分でも信じられないくらい食ったな……」
食後、広大な露天風呂に浸かりながら変な笑いが出る。
いくら食べても実質カロリーゼロだというのが素晴らしい。それなのに経験値はちゃんと現実の身体に反映されるのだ。これがチートというヤツだな。てっきり小説の中だけの話だと思っていたよ。
身体以外持って帰れないのが残念だけど、それを望むのはさすがに欲張り過ぎというものだろう。
「……ずっとこんな日々が続くと良いですね」
「……葵」
いつの間にかすぐ隣に来ていた葵。
その少し寂しげな横顔がライトアップされた湯面に照らされて恐ろしいほど綺麗だ。本当に同じ人間なのかといまだに慣れない。
「帝国が攻めて来るのか?」
「帝国は正直厄介ではありますが、まだ対処できる範囲です。しかし……もし運命さまが仰っていた魔族、という存在が帝国の背後にいるのであれば――――」
葵はそこで言葉を止める。
「……ど、どうなるんだ?」
「わかりません。少なくとも現状のままでは滅ぶしかないのかもしれません」
「そんな……そんなの……嫌だ」
せっかくできた仲間たち、生まれ育った街、これから先、未来に待っているたくさんの夢、失いたくない。
「そうですね……私も嫌です。だからこれまで全力でそうならないために死に物狂いで頑張ってきました」
なんだろう、葵の言い方……まるでこうなることを知っていたみたいだな。
「な、何とかならないのか?」
縋るような思いで葵に問いかける。
「ふふ、大丈夫ですよ、菜々。私は現状のままでは、と言ったのです。ここから先の未来は、私たちが変えられるのです。いいえ、変えなければいけないのです。この国を……大切な人々を……生まれ育ったこの世界を守るために……」
どうしてだろう……決意を語る葵はまるで――――
「強くなりましょう! 私たちが! それしかないのですよ……菜々」
葵の微笑みは光の洪水に飲み込まれて――――
私は朝陽が差す部屋の中、夢神のベッドで目を覚ます。
◇ ◇ ◇
フジヤマダンジョン九十九階
「遅いぞさくら、焔!!」
「うむ、やる気を出してもらわねば困る」
零が後からやってきた二人を怒鳴りつけると、綾もその通りだと呼応する。
「貴方たちのペースが速すぎるんですよ~。本当に仲が良いんですね!!」
「さくらの言う通りだね。君たち競争か何かと勘違いしていないか?」
さくらたちも黙ってはいない。嫌味たっぷりに言い返す。
「ば、馬鹿な、仲が良いわけないだろ!? ふざけんなさくら」
「然り、こんな脳筋と一緒にされたら迷惑極まりない」
「なっ!? ふざけんな、お前の方が脳筋だろうが!!」
「いいや、貴様の方が脳筋だ!!」
「はあ……小学生みたいな言い合いやめてください~」
「さくら、それはさすがに小学生に失礼だと思う」
とまあ、ダンジョンに入ってからずっとこんな調子の四人だったが、そこはさすがに四天王、口喧嘩はしながらでも、やることはちゃんとやっている。
「ところで……運命さまが仰っていた集めなければならない素材ってなんだ?」
「おいおい……零、本当に今更だな。そんなことも知らずにここまで上がって来たのか? この愚か者に教えてやれ、さくら」
「なんだよ綾、結局お前も知らねえんじゃないのか?」
「え……? 私が知っているはずないじゃないですか~。私は回復役ですし~。真っ先に飛び出して行くから当然知っているのかと思ってましたよ~?」
まさかの誰も知らないオチなのか……四天王に激震が走る。
「はぁ……なるほど、運命さまが僕を同行させた理由がわかったよ」
これ以上ないほどのため息をついて焔が三人にジト目を向ける。
「あはは、まあ……ほら、どうせ私が聞いても忘れるしな?」
「うむ……我らは戦闘要員ゆえ雑念は極力排除しているのだ」
「頼りになるわ~。よっ、総理大臣!!」
三人に反省の色はゼロだ。そんなことは焔自身よくわかっているし、気にしたら負けだと思っているので、殊更ツッコんだりはしないが。
「集めるべき素材はね――――ドラゴンだよ」
「「「ど、ドラゴン……?」」」
あからさまに嫌そうにする三人。
ドラゴン――――ダンジョンに生息するモンスターの中でも最上位に君臨する文字通り最強クラスの化け物だ。高い物理・魔法耐性を持ち、当たれば防御無視の致死級の攻撃に加えて、広範囲の属性攻撃まで放って来る。高速で空まで飛べるオマケ付きである。
現在確認されているドラゴンで一番低階層に出現するのが、百階の階層主として出現する、ブルードラゴンとなるのだが――――
「マジか……アイツめっちゃタフなんだよな……」
「前回倒したときは丸一日近くかかったと記憶しているが……」
戦闘が好きな零と綾でさえうんざりするほど、その戦いは過酷な記憶として刻まれている。
勘違いされがちだが、零と綾は強くなることが好きなのであって、いわゆる戦闘狂ではない。
「最後、運命さまがトドメさしてくれなかったら、間違いなくもっと時間かかってましたよ~」
さくらがゲッソリした表情で補足する。
「まあまあ、別にドラゴンをたくさん狩れってわけじゃないんだからさ。二体……いや、余裕をみて三体も倒せば十分おつりがでるよ。それに、前回戦った時よりもみんなレベル上がっているんだから自信持ちなよ」
「そうだな……前回戦ったおかげで、闘い方はわかっているし、そこまで長引くことはないだろ」
「うむ、手に入る経験値も莫大だからな。一気にレベルを上げるなら一石二鳥ともいえる」
常に上昇志向の零と綾はすぐに気持ちを入れ替える。切り替えの早さはさすが四天王といったところだ。
「それに……ドラゴンのお肉めっちゃ美味しいですからね~!!」
さくらの発言に皆のお腹が鳴る。
「お腹も空いてきましたし、僕も久しぶりにドラゴン食べたくなってきました」
焔の言葉が合図となって四人は一気に戦闘スイッチが入る。
「晩御飯は……ブルードラゴンの刺身で決まりだな」
他のドラゴンと違って、ブルードラゴンの肉は生で食べることが出来るのだ。
「とはいえ、空腹のままでは戦えまい? これでも食べておけ」
四葉のカロリーチャージを零に投げる綾。
「おう、サンキュー綾」
ドラゴンを倒すには時間がかかる。四人はカロリーチャージで腹を満たし、階層主の部屋へ踏み込んでゆくのだった。




