第四十三話 影の末裔
注文したスイーツが次々と運ばれてきたので、夢神と半分こして食べる。
美味しそうに食べる夢神を眺めながら美味しいスイーツを食べる……これに勝る幸せなどあるだろうか? いや、ない。
「忍高の最高なところはどれだけ食べても飲食無料ってところだよな。八百屋も良いけど、将来はスイーツの店をやるのも良いかなって最近は思っているんだ」
八百屋は兄貴が継ぐから好きにして良いって言われてるしな。忍は自由業だから、その気になればいくらでも兼業出来るし。
「それは面白そうだね。甘いモノ好きだし、僕も興味出て来たかもしれない」
「おっ! 良いね、だったら共同経営っていうのもアリかもな」
夢神と一緒に店をやる……か。悪くない……っていうかめっちゃ良いな、それ!
あ……でも夢神は運命さんの婚約者なんだよな。
運命さんといえば……一緒に風呂に入らないかって誘われていたっけ。あまり独占欲とか無い感じだったからそういうのは気にしないのかな?
「なあ、夢神、運命さんは、その……お前が他の女性と仲良くしていても気にしないみたいだけど、実際のところどうなんだ?」
「え? ああ……たしかに気にしない、というかもっと婚約者を増やせって積極的にすすめてくるよ」
苦笑いする夢神。あはは、それはすごいな。斜め上に次元が違う。
「夢神はどうなんだ? その……運命さんの他にも婚約者にしたい女性とかいるのか?」
「ええっと、僕は運命さんがいれば十分幸せなんだけどね。でも那須野さんみたいな素敵な女性ならとは思ってる。他の人に取られたくないって思っちゃうんだ。性格悪いよね……僕」
「ふえっ!? お、おま……それ、本気で言ってる?」
「……うん」
ヤバい……なんでこんなところでこんな話しているんだっけ!? ああ……私が聞いたんだったな。
参ったな……私が変なこと聞いたせいで夢神が落ち込んでいるじゃないか。
なあ、顔を上げろよ。
私はさ――――めちゃくちゃ嬉しかったんだから。
「し、仕方ないな……夢神がそこまで言うなら、こ、婚約者になってやっても良いぞ? 幸い特に予定も無いし相手もいないからな」
心臓がバクバクして顔が熱い。どうにかなってしまいそうだ。
「本当!? ありがとう那須野さん!!」
ちょ、その笑顔反則……って両手で握るな、汗がヤバいから。ああもうっ!! 我慢できない。
「これくらい良いよな? 婚約者なんだし」
個室なのを良いことに、夢神をぎゅっと抱きしめる。見た目華奢なのにめっちゃ締まった身体、安心するお日さまみたいな匂い……なんかたまらなく……幸せだな。
「あの……なんでそんなに離れて歩いてるの?」
やめろ、そんな子犬のような目で見ないでくれ、柄にもなくイチャイチャした反動で今になって恥ずかしいんだよ。わかれ。
カフェを出て一緒に夢神の男子寮へ向かう。そういや男子寮のスイーツはまだ試していなかったな。お昼ご飯食べたら一通り試してみるのも良いかもな。ふふふ。
「ここが僕の部屋だよ」
案内されたのは、男子寮の最上階。
なんだこれ……明らかにこのフロア……VIP用だよな? 造りが全然違うじゃねえか!?
うう……高級ホテルに来たみたいで落ち着かねえ。
「「「「お帰りなさ~い!!!」」」」
部屋の中から複数人の女性の声。ん? 不知火さんだけじゃないのか?
「那須野さま、これからよろしくお願いします」
おおう……なんで四葉葵が夢神の部屋にいるんだ? 眩しすぎて目が潰れるかと思ったじゃないか。
でもそういや昨日から妙に二人とも距離が近いなとは思っていたんだよな……なるほど。
「四葉お嬢様の案内人兼侍女の柴田でございます」
うわあ……さすが日本屈指のお嬢様……侍女がいるとか、しかもめっちゃ美人さんじゃねえか。不知火さんもそうだけどこの部屋極上の美女しか居ねえ……。なんかいい香りするし。
「那須野さま、いらっしゃいませ。ゆっくりくつろいでくださいね」
聖母のようににっこり微笑む不知火さん。
ああ……なんか良いよな不知火さんって。知的な大人の女性って感じですげえ頼りになりそう……私の案内人とは大違いだよ。っていうか、私の案内人本当に仕事してんだろうな!? どこでなにやってやがる。
「よろしくお願いします。私も柴田さんや不知火さんのような素敵な案内人が欲しかったです」
「えっ!? あ、ああ……那須野さんの案内人って……ま、まあある意味で影が薄いというか、存在感が希薄というか……ねえ、影野さん?」
『……影が薄くてすいません』
「ひぃっ!? か、影野さんっ!? いつからそこに?」
『……最初から。女子寮のカフェでお二人がイチャイチャしているときからですが――――』
「わあああっ!? わ、わかったから!! ごめんなさい、気付かなくて!!」
マジか……全然気付かなかった。っていうか居たのかよ。恥ずかしくて死ねる……。
影野さんは透き通るような白い肌と淡いグレーの髪をした見るからに幸薄そうな人だ。このメンバ―だと華が無くて目立たないけど、実は相当な美人さんなんだよな。
「あら、那須野さま、影野さんは本物の忍びの末裔ですよ。体術や隠密活動でしたら案内人トップクラスの凄腕なんですよ」 、
四葉さんが微笑みながら教えてくれる。そうだったのか……全然知らなかった。ただの残念な人だと思っていたよ。
でもコミュニケーション能力ゼロに近いし、いくら凄腕でも普段ほとんど役に立たないんですけどそれは……。
不知火さんみたいに勉強教えてくれたり、アドバイスして欲しいと思うのは贅沢な望みなのだろうか?
『……前向きに精進いたします』
ひいっ!? 読心術!? もしかして心の中が読めたり?
『御意』
御意じゃねえよ。プライバシーゼロじゃねえか!?
『ご安心を。知り得た秘密は墓場まで持ってまいりますので……』
なら安心……なのか? ま、まあ、仕方ない。こっちが慣れれば済む話だしな。
むしろ口に出さなくても通じるなら、そっちの方が楽だしな。
『単純……いえ、前向きポジティブで助かります』
影野さん……やっぱり喋らない方が良いんじゃないのか!?
『御意』
もうツッコまないぞ。これ以上は不毛だ。
「えっ!? じゃ、じゃあ四葉さんも夢神の婚約者に?」
マジか……四葉グループどころか、直系本家の一人娘だぞ? そういや運命さんも勇者だったし……。メンツキャラ濃すぎるだろ、私なんてただの八百屋の娘だぞ? 少しは手加減してくれ。
「はい、那須野さまもこれからは同じ婚約者同士なのですから、私のことは、葵、とお呼びください」
「それなら葵も私のことを菜々で」
「かしこまりました菜々」
何かがツボに入ったのか、クスクス笑っている葵。
へえ……葵ってこんな風に笑う子だったんだ。もっと気位の高い違う世界の人間だと勝手に思っていたよ。
その後、夢の世界の話を皆から色々聞いたけど、聞けば聞くほど信じられない。
でも、なんだかワクワクしてきた。夜が待ち遠しいぜ。特にデカにゃんこ!!




