第四十一話 夢のお部屋
「すごいですよお嬢様、肩こり、腰痛、冷え性まで治っちゃいました!!」
「気のせいかスタイルが良くなってお肌の張りが良くなったような……」
うーん、レベルアップによる効果もありますから、どちらが影響したのかわかりませんが、おそらくは両方なのでしょうね。
「元気になって良かったです。じゃあ続きをしましょうか」
にっこり笑顔で狩りを促す創。意外にスパルタなところありますね。私は大歓迎ですけれど。
「も、もう駄目……も、桃をください……」
レベルアップ酔いで死にそうになりながらも、桃を食べて狩りを続ける私たち。
「じゃあ最後は火トカゲを倒してステーキパーティにしましょう」
「……あの、これドラゴン……」
小山のような巨体に凶悪な牙と爪、鎧のような真っ赤な鱗に絶望を形にしたような異形の翼。どの辺がトカゲなのか問いただしたいところですが、倒さないと終わらないらしいですね。
「あ、葵はこの剣使って。斬るとステーキになる剣だから後が楽になるし」
斬ったらステーキになる剣……意味がわかりませんが、ドラゴンを捌くのはたしかに骨が折れるでしょうから、文句はありません。
「四葉神速流奥義 氷華の閃光!!」
「柴田疾風流 疾風の斬撃!!」
「不知火紅蓮流 紅蓮の舞!!」
『Grurururuaaaaa!?』
可愛そうな火トカゲ……いえ、レッドドラゴンは、大量のステーキになってしまいました。
「あああ……も、桃おおおおお!?」
「おええ……は、早く、桃をくださいいいいい」
ここにいる魔物の経験値はとんでもないので、毎回レベルアップ酔いに襲われるのは正直かなり辛い。奇跡の桃が無ければとても実行不可能な荒業です。
「あの……なんでトラックがあるんですか?」
私たちは大量のステーキと戦利品を荷台に積んだトラックで移動中。
「それ運命さんにも言われた。必要だから描いたんだよ」
なるほど、出鱈目な話ですね。ここまで来ると、自家用ジェットが出てきても驚きませんよ。
「あ、ほら、僕の家が見えてきた」
「先ほども思いましたが、あれは家じゃなくてお城ですよ」
「あはは、葵も運命さんと同じこと言うんだね。面白い」
いいえ、私たちだけじゃなくて、誰でもそう言うと思いますが。
「創、早く早く!!」
コタローたちがでっかい肉球グローブみたいな手にナイフとフォークを持ってお皿をチンチン鳴らしている。実に器用で可愛らしい光景ですね。
「お待たせ、焼きたてステーキ、じゃんじゃん焼くからお替りしてね。いくら食べても太らないから」
創が良い感じに焼けたレッドドラゴンのステーキを運んでくる。
香ばしい香りとあふれる肉汁が食欲を刺激する。
「太らないんですかっ!? お、お替わりください!!」
柴田……貴女食べるの速すぎませんか?
「うんまい……む、夢神さま、私もお替りください……」
不知火さんも速いですね……私はゆっくり食べるように躾けられてきたので羨ましいです。でも本当に美味しい……このお肉にも何らかの効果がありそうですね。あの桃といい持ち帰って研究できないのが残念です。
「え? お部屋をいただいてもよろしいんですか?」
「うん、まだまだいっぱいあるしね。運命さんの部屋もあるんだよ」
創が城内に私たちの部屋を用意してくれるらしい。
「やったあああ!! これで私もお姫様になれます~!!」
「私は創さまの近くの部屋が良いですね」
しまった……不知火さんに先を越されてしまいました。
「僕の部屋ってたくさんあるから……」
良かったです。それならまだ大丈夫でしたね。
残り時間は、各自自分の部屋を飾り付けたり忙しい。
このお城には、創が描いて持ち込んだ色んなものや、見たこともないような素材が山のように倉庫に眠っている。自由に使って構わないということだったので、私たち三人は宝探し感覚で必要なものを選んで自分の部屋へ持ち込むのだ。
足りないものは、創が次に来る時までに用意しておいてくれるという至れり尽くせり。
「うわあ……さすがファンタジー世界、現実じゃ無理ですよね、こんなの」
最後にやってきたのは、お城の最上階にある展望露天風呂。
すでに辺りは夜の時間帯になっているが、燃え盛る炎、発光する石や岩、光り輝く湖、まさに息を飲むような異世界のパノラマが眼下に広がっていて、そのあまりの絶景に皆息をするのも忘れてしまう。
それにしても、ゆうに千人はは入れそうな巨大な温泉施設ですが、一体どうやってここまでお湯を汲み上げているのでしょう? 当たり前のように電気水道、完備なのでシャワーも使えるし、ライトアップされた岩肌が幻想的な雰囲気をこれでもかというほど演出している。
創の能力はどこまで出鱈目なのだろう? これがアリならば、その気になれば街だって作れそうなものだが。
「夢神さまは入らないのでしょうか?」
柴田が不満そうに口を尖らせる。
柴田……? 創は私の婚約者なんですが。
「夢神さまは少しでもレベルを上げるために目が覚めるギリギリまで狩りをするそうですよ。私たちが一緒では危険な場所に行っているんだとか」
……ここですら異常なレベルの魔物が出現するというのに、さらに危険な場所とは一体……?
「創はここで五歳の頃から狩りをしているそうです。一体どれほどの高みに達しているのか想像もつきませんね」
あの勇者運命さまをして自分よりもはるかに強いと言わせしめたのは決して大げさでもなんでもない。夢転移という特殊な能力を持っているがゆえに、普通のスキルはほとんど使えないらしいですが、それによって不利になることはないでしょうね。
「あ……もしかして夢神さまが目覚めるのかも?」
突然の浮遊感覚、気付けば全身が宙に浮いている。入浴中で全裸だが、現実世界にはまったく反映されないので安心だ。身体を拭く必要すら無い。
名残惜しいけれど、また明日来ればいいのだと気付いて嬉しくなる。
景色が光に溶けてゆく――――
追いかけるように意識も光の中に吸い込まれて行った。




