第四十話 夢の世界でレベリング
「……本当に来れちゃいましたね」
古代の神殿を思わせる石造りの壁面には見たこともない呪文のような文字が刻まれていて、空が無いのに明るいのはダンジョン内部と似ている。
「うわあ……まるでファンタジーの世界に迷い込んだみたいですね」
「やった……これで私もレベルアップ出来るかもしれない……」
柴田と不知火さんも無事転移出来たみたいで、一先ずは安心というところでしょうか。
私はいつもの制服、柴田と不知火さんは案内人の服装。創にどんな服装が良いか聞かれたんですけど、どんな場所なのかイメージ出来なかったので、普段の動きやすい格好を選んだのですが――――
「良かった。みんな来れたみたいですね」
創は西部劇に出てくるガンマンのような恰好。とても似合っていてカッコいい。
本当にどんな格好でも出来るなら、もっと可愛い恰好にすれば良かったとちょっぴり後悔です。
「にゃああ! 創、待ってたぞ」
「創ちゃん遊びましょう!」
「創くん遊ぶのにゃあ!」
猫……なのですよね? ライオンよりも大きい喋る猫ちゃんがこちらに向かってまっしぐらにやってきました。柴田と不知火さんも目を輝かせていますね。わかります、大きい猫ちゃんは夢ですから。
「キジトラがコタローで、白猫がしらたま、白黒のブチがごましおだよ」
「「「よろしくにゃああ」」」
はうう……何という天国。大きい猫ちゃんのお腹に埋もれて寝ることが出来るなんて夢のようです。
創が猫ちゃんたちのお腹にダイブしたのを見て、私たちもたまらず後に続きます。
「お嬢様、私、ここで暮らします。長い間お世話になりました」
柴田……残念ですが創が目覚めれば強制的に戻されてしまうのですよ。気持ちはわかりますけれど。
「うにゃん? レベリングって何だ?」
「えっとね、ここにいる魔物を倒して安全にレベルアップしようと思っているんだ。コタローたちにはギリギリ死なない程度に弱らせてから連れてきて欲しいんだけど」
創が猫ちゃんたちにレベリングの説明をしている。運命さまから一刻も早く仲間の強化をするように言われているらしい。状況を考えれば正しい判断だと思います。
「にゃはは、それなら任せるにゃ! 弱らせるのは得意にゃ」
「私も頑張るにゃあよ」
「にゃっふ、ワクワクして来たにゃあ」
ふふ、それにしてもおっきな猫ちゃんたちが張り切っている様子は癒されますね。
事実として私たちは弱いのですから、弱らせなくても戦えます、なんて格好つける必要はない。ここに来たのは一刻も早く強くなるため。手段を選んでいる時間は無いのですから。
「にゃああ! ネズミを捕って来たにゃあ!」
コタローがネズミ型の魔物を咥えて帰って来た。
これが……ネズミ!? 魔王じゃなくて?
弱らせられていて瀕死の状態ではあるものの、その魔力、覇気は明らかに異次元。私は四天王の皆さまに同行して50階のエリアボスを見たことがありますが、このネズミは比較にならないほど強いことがわかります。ここまで格上だと正確にその強さを比較することは出来ませんが、エリアボスが自転車だとするとこのネズミは大型トラックくらいの差を感じます。
「でかしたよコタロー。じゃあみんなで倒そう」
このレベルの魔物だと私たちの攻撃などダメージにもなりません。例えば至近距離から弾丸を撃ち込んだとしても弾は通らない。傷口から直接撃ち込んでようやくといったところかもしれません。
「ふふふ、この柴田の奥義を見せるときが来ましたか」
「ふふ、不知火家秘伝の抜刀術、その身でとくと味わうと良いです」
それにも関わらず彼女たちがノリノリなのは、創からもらったチート武器があるから。
日本刀をモチーフにした刀は、どんなものでも両断する凄い刀とかいう出鱈目な効果が付与されているそうなのです。
最初は半信半疑でしたが、創の持っている敵をお菓子に変えてしまう銃の威力を実際に見せられたら信じざるを得ません。
私も事前に頼んで、免許皆伝である薙刀モチーフの武器を作ってもらいました。巨大な敵が多いと聞いたので、少しでもリーチがあった方が有利だと思ったのですが――――
「……ここまで弱っているとあまり関係ないですね」
身動きすら出来ないほど弱っているネズミ魔王。
「早くしないと死んじゃうぞ」
コタローちゃんに促されて、三人呼吸を合わせて武器を振り下ろした。
「大丈夫ですか?」
心配そうにのぞき込んでくる創。
私たちは、創のお屋敷に運び込まれて休ませてもらっている。
「わ、私は何とか……ですが、二人はもう少し休んだ方が良いかもしれません」
「ううう……気持ちが悪いです~あああ、全身が筋肉痛みたいに~!?」
「おええ……眩暈と頭痛が……関節が痛いいいい……」
あまりにも急激なレベルアップによって、私たちはいわゆる『レベルアップ酔い』を味わっていた。
レベルアップ酔いとは、身体能力の向上の変化に脳が適応しきれず、心身に影響を及ぼす現象で、酷い場合には数日寝込んでしまう場合もある。
今回私たちが経験したレベルアップは、おそらくこれまで誰も経験したことが無いほどのものだったであろうと断言できる。
なぜなら――――
「まさか……一気に白金ランクになるなんて……」
そう、金色だった私のランクが白金に変わっていたのだ。あり得ないと言いたいが、現実……まあ夢の中ではあるものの、実際にそうなっているのだから認めざるを得ない。
白金ランクと言えば、中級忍、いわゆる中忍としてベテランの忍が到達できる一つの目標地点。組織に所属すれば、多くの下忍を従えるリーダー的な存在。忍高の教師は白金ランク以上でないと務まらないが、逆に言えば、白金以上であれば、望めばどんなところへも入れるのだ。
私はある程度のレベルに到達していたおかげで、柴田や不知火さんよりかは相当マシではあるはずだが、いまだに立ち上がる事すら出来ない。
柴田や不知火さんも案内人として特殊な訓練を積んでいるからこそなんとか耐えられているが、普通の人間ならショックで死んでいてもおかしくない。
「気分が悪いときはこれを食べると良いですよ。この近くに生えている果物なんですけど、食後とかに食べるとスッキリするんです」
創が差し出したのは、桃に似た果物。
甘く芳醇な香り――――もうこれだけで気分がかなり良くなった気がする。
「ありがとうございます。いただきますね」
起き上がることが出来ないので、創が一口サイズに切り分けてくれた果物を口に運んでくれる。
ちょっぴり恥ずかしさを覚えながらも思い切って食べてみると――――
「お、美味しい……」
いや、美味しいとかいう次元を超えている。食べた瞬間、眩暈や頭痛はもちろん、疲れや怠さ、あらゆる不調がわたがしのように溶けて無くなってしまった。
もしかして……この果物、とんでもない効果がある国宝級じゃないんですかね……。
死者が蘇ったり、失った手足が生えて来るとか言われても信じられるレベルです。
「うほおおお!! 復~活っ!!」
「きゃああ! 嘘みたいに気分がいいです~!」
死にそうだった二人も見事に復活。やっぱり普通じゃないですね……その果実。




