第三十九話 ドッキドキ 同衾
「あ、葵、もう大丈夫? そう、良かった元気そうで。柴田さんもいらっしゃい」
結局、柴田と二人で創の部屋にお邪魔することになってしまった。
「お誘いありがとうございます。この柴田、喜んで夢神さまの熱い欲望を受け止めますので、何なりとお申し付けください」
「え? あ、うん……葵?」
「柴田のことは気にしないでください。床の掃除でもさせておけばいいと思います」
「あはは、葵もそういう冗談言うんだね」
いえ、冗談ではなく本気です。
無駄話もそこそこに私たちは創のベッドへ。
一緒にお風呂に入ったとはいえ、ものすごくドキドキしてきました。柴田が居てこれですから、もし二人きりだったら……心臓が止まっていたかもしれません。
「もう少しだけ待ってね。もうすぐ来るはずなんだけど」
え? 他にも誰か来るのですか? 聞いてないんですけれど……
「夢神さま、遅くなりました!!」
「不知火さん、いらっしゃい」
部屋に入って来たのは、創の案内人、不知火さん。
「不知火さん、安静にしていなくて良かったのですか?」
日向さまから今日は安静にしているように言われていたはずですが……
「どうせ寝るなら夢神さまと寝た方が治療になりそうだと思いまして」
なるほど、これ以上ないほどの正論ではある。たしかに癒されることは間違いない。
「これで三人……夢神さま、恐ろしい子」
柴田がなにやら勝手に戦慄していますが、放っておきましょう。
「じゃあ今夜のことを説明するね」
三人が集まったところで創が説明を始める。
「えっと……そうすると一緒に寝るというのは……」
「うん、みんなをレベルアップさせて強化するためだよ」
めちゃくちゃ気合入れて来たのに……勘違いが恥ずかしい。
なるほど、だから柴田や不知火さんも誘ったのですね。
「あの、私たち案内人には紋章はありませんが、そんなことが可能なのでしょうか?」
「うん、それは僕も運命さんも経験がないから何とも言えない。運命さんはたぶん大丈夫だって言ってけどね。でも、もし成功したらすごいでしょ?」
たしかにそんなことが可能になるのであればとてつもない。紋章が無い人間でもレベルアップや強化することが出来るなら安全保障のあり方すら変わってしまう。絶対に外部には洩らせない機密となる。
「私は駄目元でやってみたいです。魔人相手に勝てなかった自分自身が許せないんです。少しでも可能性があるのならぜひお願いします」
不知火さんはもちろんそう言うと思っていました。向上心の塊のような人ですからね。
問題は――――
「え? 私ですか? もちろんチャレンジしてみますよ。こんな風ですけど、いつだって悔しい思いをしていたのですから。もっとお役に立ちたいとずっと」
意外だった。いつも飄々としていて何も考えていないように見えたのに……。
もしかして創はたった一度の食事で、柴田の思いに気付いたのでしょうか? ずっと一緒に居た私が気づかなかった彼女の葛藤に。
案内人は過酷な選抜と訓練を乗り越え、絶え間ない向上心が求められる仕事。軽い気持ちで成れるような甘いモノではない。つまり――――そういうことなのでしょうね。
「えええっ!? 私が……正面……ですか?」
創の力によって転移するためには、同じベッドで寝るだけでは駄目で、彼に密着した状態で寝る必要があるらしい。
となると三人同時の場合、正面と左右となるのだが……
「そりゃあそうですよ。お嬢様が正式な婚約者なんですから。嫌なら私が正面いただきますけど?」
「葵さま、ご無理なさらなくても大丈夫ですよ。私が代わりに正面でも構いませんから」
くっ、柴田も不知火さんも明らかに正面狙いですね……。しかし背が高い二人が創の上に乗ったら何となく申し訳ない気がします。やはりここは婚約者で一番体格が小さい私が正面を務めるしかないでしょうね。
「創……重くないですか?」
横になっている創に覆いかぶさるように、というか完全に抱き合う形になるのですけれど。
「うん、全然重くない。むしろ柔らかすぎて気になる」
「ば、馬鹿っ! 恥ずかしいです!!」
とても薄手のネグリジェですからね。柴田に負けるわけには、と気合を入れすぎたかもしれません。
「ふふ、お嬢様お可愛いです。それでは私も失礼しますね」
柴田が右側から創に抱き着く。あの……柴田? それは密着というよりも、押し付けているのでは?
「はあはあ……夢神さま、し、失礼します!」
不知火さん……なんか呼吸が荒いですけれど大丈夫ですか? やはり安静にしていた方が……
創の心臓の音が聞こえてくる。密着している部分があったかい。
この異常ともいえる状況に慣れてきたのでしょうか? ドキドキよりも安心感が強くなってきました。
「あの、夢神さま、私すぐには眠れそうにないんですが……?」
「恥ずかしながら私も……」
落ち着いてきた私と違って、柴田も不知火さんも興奮状態でたしかに眠れそうじゃないですね。
「大丈夫ですよ。運命さんによると、どうやら僕が眠ると強制的に全員夢転移するみたいなので。すいません、先に言っておくべきでしたね」
それを聞いて安心しました。眠れなくて置いて行かれたらどうしようかとひそかに心配していたのです。
「そうなんですか!! だったら思う存分夢神さまを味わえますね!」
「ちょっと柴田さん、夢神さまが眠れなくなったらどうするんですか! 味わうのは自由ですが、黙ってやってください」
ふと創と目が合いました。柴田と不知火さんのやり取りが可笑しくて二人でふふふと笑います。
ああ……なんだか良いものですね。こうして人肌の温もりを感じながら眠りにつくというのは。
高確率であの時の悪夢を見てしまう私にとって、夜はとても恐ろしい時間でしたから。
でも創とこうして一緒に居れば、未来はきっと変わるのだと信じることが出来ます。
「創……ありがとう。おやすみなさい」
思い切って頬に唇を落とすと一瞬驚いたように目を見開いて――――
「おやすみなさい葵」
チュッと額にキスをしてくれた。
きゃああああ……こんなの眠れません。
「……夢神さま、私にも! 眠れるようにおまじないください」
……柴田、貴女は台風が来ているときでもスヤスヤ眠っているではありませんか。
「ちょっと柴田さん、夢神さまは私の担当ですよ」
「良いじゃないですか減るわけではないんだから。それにお嬢様の旦那さまなら私の旦那さまでもあります」
……柴田、なぜ私の旦那さまが貴女の旦那さまになるのでしょうか?
「くっ、夢神さま? 私にもおまじないお願いします。出来れば鼻に」
「えええっ!? 鼻で良いの? わかりました」
不知火さんが思わぬ要求をしていますね。
鼻にキス……悪くないかもしれません。私もお願いしても良いのでしょうか?
それにしても全然眠れませんね……こんな調子で大丈夫なんでしょうか?




