第三十六話 四天王
「なるほどね、魔人の方はわかった。楓ちゃんの方はどう?」
「はい、運命さま、バトルスーツに関しては戦闘データを元に改良を進めております。一月ほどあれば忍ではない案内人でも十分魔人の攻撃に耐えうるレベルのものは作れると思います」
運命の問いかけに四葉グループ開発責任者、四葉 楓が胸を張る。
楓は葵の従姉にあたり、その優秀さから若くして四葉グループの開発責任者に抜擢されている天才科学者だ。
「そっか。たしか忍用スーツも同時に開発してくれているんだよね?」
「はい、ですが、素材が足りておらず量産は難しい状況です」
一般人が装着するものと違い、忍用は求められる耐久性、即応性が段違い。作れなくはないが、高価で希少な素材を使用するため実用段階には至っていない。
勇者である運命はもちろん四天王が使えるレベルではないとはいえ、低ランク下忍の戦闘力および生存率底上げ効果は期待できるので、対帝国戦という意味では非常に重要になってくる。
当然、忍高の生徒たちには最優先で着用させることはすでに決定事項だ。
「うん、それじゃあ今後の方針だけど、四天王は今からダンジョンアタックしてね。レベル上げとスーツに使う素材集めよろしく」
「「わかりました、お任せください!!」」
運命の指示に、黒崎 零と龍神 綾が競うように返事をする。
「あの……四天王ってことは……もしかしてボクも行くの?」
「当たり前でしょ? 国家存亡の危機なんだから、総理自ら動かないでどうする。政治なんて代理に任せておけばいいじゃない」
「うっ……わかった。行くよ、行けば良いんでしょ! はあ……ボク、戦うの好きじゃないんだけどな」
四天王最後の一人、史上最年少二十代で総理大臣となった『総理』こと弥勒院 焔が諦めたように項垂れる。
「あの~、運命さま? 私、明後日大事な用事があるんですけど~?」
日向さくらがゆる~く手を上げる。
「大事な用事ねえ……何となく想像つくけど言ってみなさい」
ジト目でさくらに続きを促す運命。
「創にゃんと混浴する約束したんです~」
えへへと照れながらしれっと言い放つさくら。
「「「こ、混浴っ!?」」」
この場には既婚者どころか彼氏持ちすらいない。刺激が強すぎるワードに動揺が広がる。
「ち、ちょっと待てえっ!! さくらお前、私の可愛い生徒に何してやがる!? っていうか、創にゃんって何だよ」
「あら~? 零ったら羨ましいのかしら~。ふふふ~」
真っ赤になって怒鳴りつける零だが、さくらは零の圧などまるでそよ風といったように動じない。
「創にゃんとは、夢神のことか? なかなか見所のある少年だったな。うむ、私もダンジョンから戻ったら混浴を所望するとしよう」
「ちょっと待て綾、おかしいだろ!? 順番からしたら私が先だ!! 混浴したければ担任であるこの私に許可を取れ!!」
「零ちゃん……さすがに担任関係ないんじゃないの? っていうかこの場合は婚約者の運命さまに許可をもらうべきでは?」
取り乱す零とは対照的に至極もっともなことを言う焔。
「くっ、たしかに。運命さま、私も夢神と混浴――――」
「運命さま、私も混浴してよろしいでしょうか?」
「龍神、きさまあああ!!!」
「良いよ~。綾も零もウエルカム。でも創くん人気あるから早めに予約した方が良いかもね」
むふふと笑う運命。
「む~、ボクだけ創くんに会ったことないなんて不公平じゃないの? 色々無理目の手続きしたのボクなんだけど……」
仲間外れになった形の焔がぷくーっと頬を膨らませる。
「焔もダンジョン行くついでに会っていけばいいんじゃない? ついでに混浴の予約もしてさ。紫ちゃんと楓ちゃんもどう?」
「こ、混浴っ!? ぼ、ボクはちょっと……恥ずかしいかな」
燃えるような髪色に負けないぐらい真っ赤になる焔。
「なるほど……たしかに興味深いですね。運命さま、ぜひお願いします」
一方で好奇心旺盛な敏腕調査官は動じることなく予約を依頼する。
「うえっ!? ち、ちょっと紫!? こ、混浴だよ!? 本気?」
予期せぬ流れ弾に楓は大いに動揺し、パニックになっている。
「あはは、実はもう予約してあるんだよね、当然全員参加でよろしく」
「「「「えええっ!?」」」
運命の言葉に悲喜こもごもの反応をするメンバーたち。
「ところで運命さまはダンジョンへ行かれないのですか?」
残念そうに運命を見つめる綾。
「うん、私はちょっと帝国を探ってくるつもり。後手に回って手遅れになったら洒落にならないからね」
「なるほど、運命さまならば心配ないと思いますが十分お気を付けください。しかし、そうなると万一何かあった時の戦力が不安ですが……」
四天王と運命が居ない状況で今回の襲撃事件と似たようなことが起こらないとも限らない。
「ああ、それなら大丈夫。何かあれば転移ですぐ戻れるし。零には言ったけど、創くん私よりはるかに強いし、留守中に仲間の戦力強化するようにお願いしてあるから」
「なっ!? あの少年が運命さまより強い……?」
運命に心酔する綾は信じがたい言葉を本人から聞かされ愕然とする。
「へえ~そうなんですね! うふふ、これは混浴が楽しみになりました~!」
ゆるい空気を纏いつつ、強者に目が無いさくらは大喜び。
「運命さま? 戦力強化とは一体……夢神に何をさせるつもりですか?」
「あ、そうか……零にはまだ言ってなかったっけ。えっとね――――」
◇◇◇
会議が終わり、四天王メンバーはダンジョンへ向かう。
四天王とは言っても、チームというわけではなく普段一緒に行動しているわけではない。緊急性が高い案件の時や更なる高層へ挑むときなど、限られた条件の時だけ一時的に手を組むことがある程度の関係。全員運命の教え子だという共通点はもちろんあるが。
それでも生死をかけた死線をともに潜り抜けた時間と積み重ねは伊達ではない。性格的な相性はともかく、互いに認め合っている存在が四天王なのだ。
「ねえ焔、運命さまはああおっしゃっていたけれど、本当にあり得るのかしら~? 寝ている間にレベルアップするなんて……」
さくらはいまだに信じられないといった様子で焔に尋ねる。
「創くんに会ったことないボクに聞く? でもまあそんなこと言い出したら運命さまやダンジョンの存在そのものが本来ならありえないでしょ? 実際に運命さまのレベル、ここ数日で一気に上がっているみたいだし、事実だと思うよ」
「あの年齢であの強さははっきり言って異常だ。寝ている間に経験値を積み重ねていたと仮定すれば納得がゆくな」
零は謎が解けたといった様子で焔に同意する。
「くっ……ということは運命さまは毎晩夢神と一緒に寝ているのだな……羨ましい」
運命に心酔している綾の関心はその一点だけだ。
「あはは、まあボクたちもその力の恩恵に与りたいけど、今はダンジョンで素材を集めるのが最優先だよ。創くんに会ってみたかったけど、今はわずかな時間も惜しいからね」
「仕方ないですね~。明後日までに戻ってこなくちゃいけませんから~」
混浴の予定があるさくらも渋々同意する。
「ふふ、このメンバーでダンジョンアタックするのも久しぶりだな。よし、遅れるなよ龍神!!」
「ふん、誰に言っているのだ零? お前こそ遅れるな」
競うように走り出す黒崎 零 と龍神 綾。
「はあ……相変わらずあの二人は暑っ苦しいですね~。私たちはマイペースで行きましょうね、焔」
「あはは、そうだね、さくら」
顔を見合わせて苦笑いするさくらと焔であった。




