第三十四話 お見舞い
「ところで不知火さん。つかぬことをお伺いしますが、夢神創くんというのは、そんなに可愛らしい男の子なんですか~?」
夢神さま? ああ、運命さまに聞いたのですね。
「はい、もう食べちゃいたいくらい……はっ!? い、いえ、とっても素直で可愛らしいお方ですよ」
うっかり本音がでてしまいました……。
「ほほう……不知火さんもそう評価しますか~。さすがあの運命さまが惚れこんでいるだけのことはありますね……」
……日向さまの目が完全に獲物を狙う野獣のそれになっているんですが……。
「不知火さん、お見舞いに来ましたよ!」
コンコンと病室の戸を叩く音がする。きゃああ! この声は間違いない、噂をすれば夢神さまですね。私なんかのためにお見舞いに来てくださるなんて……ああ……もう夢のようです。
「夢神さま! 少々お待ちくださいね、今鍵を開けますので――――」
起き上がろうとしたら、休んでいろと日向さまに制されて、代わりに鍵を開けてくださいました。
何というスピード……いつの間に戸の前まで瞬間移動したのでしょうか?
「不知火さん!! ああ、元気そうで良かったです!」
「こんにちは、四葉 葵です」
おやおや、これは想定外……まさかのツーショットですね……四葉さまとご一緒とは驚きました。しかも……むむ、手を繋いでいるのはなぜなのでしょうか? ま、まあ、私は膝枕してますからその程度気にもなりませんよ。ええ気になりませんとも。
「あ、もしかして診察中でしたか?」
日向さまがいらっしゃるのを見て、慌てる夢神さまが可愛すぎて尊い。
「いいえ~、丁度終わったところですよ~創にゃん」
「「創にゃんっ!?」」
私と四葉さまの声がシンクロする。
日向さま……!? 創にゃんって一体……初対面なんですよね?
「それは良かったです。あ! もしかしてさくらさんですか? 運命さんから聞いてます」
「はい~、日向 さくらです~私も運命さまから創にゃんをよろしくと頼まれて来たのですよ~」
えっと……夢神さま? 創にゃん呼びは良いのですか!?
「やっぱり! 僕、不知火さんがいないと何も出来ませんから、治療してくださって本当にありがとうございました」
「ふふ、良いのですよ~。お役に立てて嬉しいです~」
うっ……夢神さま……ありがとうございます! 私のことそんなに頼りにしてくれていたなんて……こちらこそありがとうございます!!
「さくらさま、お久しぶりです」
黙って二人のやり取りを見ていた四葉さまが、頃合いとみて話しかける。
「あらあら~葵ちゃん大きくなったわね~触ってみてもいいかしら~?」
「前回お会いしてから二週間しか経っておりませんが……駄目です」
日向さま!? どこを見て言ってらっしゃるんですか? たしかに四葉さまの御年齢にしてはご立派ですけれども……
現在の忍制度が出来る前、ダンジョン出現の最初期からあらゆるバックアップを惜しまなかったのが四葉グループ。運命さまはもちろん、四天王の皆さまも四葉とは極めて近い関係にあるはずだと推測していましたが、やはり思った通りのようですね。
「不知火さまもご無事で何よりです。今回の不知火さまの戦闘データを元にスーツの性能をさらに高める所存ですので、今後ともよろしくお願いいたします」
はふう……やっぱり美少女は絵になりますね。
艶やかな葵色の髪、透き通るような白い肌、切れ長で知的な光を宿した瞳……はあ……理想を体現したような美少女ですよね。なんて可愛らしいのでしょうか。運命さまとは違った意味でお人形さんみたいでたまりません。
「ありがとうございます。あのスーツが無ければ、今頃私はこの場には居なかったでしょう。私のデータが性能向上の一助になれば光栄です」
案内人の着用している強化スーツは、リアルタイムでデータが共有され四葉グループにフィードバックされる。いわば新製品のモニターとしての意味を持っているのです。
四葉さまは幼いころから四葉グループの開発部門に携わってきたと言われておりますし、その分思うところも色々とあるのでしょうね。
それにしても……こうして見ると、夢神さまと四葉さまって美少年と美少女で本当にお似合いのカップルですね……悔しいですが認めざるを得ません。
家柄、容姿、性格、若さ、そして胸のサイズ、くっ……何一つ勝てるものがないですね。あ……一応身長と年齢だけは勝ってますが……
まともに張り合っても勝負になりませんし、ここは大人げないと言われてもきっちりアピールしておいた方が良さそうですね。もう二度と後悔しないためにも。
「そうだ夢神さま、例の個室風呂の件ですが、こうして日向さまに治していただきましたので、予定通りということで明日ご一緒出来るのを楽しみにしておりますね」
周りに聞こえるように先制のジャブを放つ。
ふふふ、私と夢神さまは一緒に混浴できる信頼関係をすでに構築しているのですよ。
あらあら驚いていますね。四葉さまと日向さまをこんな表情にさせるなんて、私もつくづく罪な女です。
「そ、創にゃん、まさか不知火さんと一緒に混浴するのですか?」
これにはさすがの日向さまも語尾を伸ばす余裕がないほど動揺してらっしゃるご様子。
「え? そうですけど何か問題ありましたか?」
「そうじゃないのよ~。実は私、温泉旅行中に運命さまに連れて来られたので、穴埋めというわけじゃないんですけど、創にゃんと一緒に入りたいな~なんて?」
くっ……さすがは『桜花』そう来ましたか。上手く私をダシに使うとは。
「なんだ、そんなことでしたらもちろん構いませんよ。不知火さんの件もありますから、喜んでお背中流させていただきます!」
「ほ、本当!? じゃ、じゃあさっそく今夜なんてどうかしら~?」
やられましたね……ですが日向さまには怪我を治療してもらった恩がありますから、ここは我慢しましょう。
「あ……ごめんなさい。今夜は四葉さんと一緒に入るので、明後日以降でしたら――――」
「「……えっ!?」」
今度は私と日向さまが完全にシンクロしてハーモニーを奏でる。
「ち、ちょっと夢神さまっ!?」
真っ赤になった四葉さまがあわあわしてらっしゃいますが……まさか先を越されていたとは……四葉さま……なんて恐ろしい子。
「し、仕方ないですね~。それでは明日は不知火さんと三人で。明後日は二人で入りましょう」
「明日は二人風呂なので三人は定員オーバーですよ、日・向・サ・マ」
噓ではない。少しでも距離を縮めたかったから、あえて二人風呂を予約していた私、グッジョブ!!
「くっ……それでは仕方ありませんね。それなら放課後のお勉強は私がやらせていただきますね~。不知火さんには安静が必要ですから~」
さすが四天王……ただでは転びませんか。ま、まあ一日ぐらいなら譲るのもやぶさかではないですが……。本当にお勉強するんですよね? なんだか心配です。
それにしても、やはり運命さまのおっしゃっていた通り、夢神さまのモテ具合半端ではないですね。本気で席を押さえておかないと大変なことになりそうです。




