第三十二話 合流と解散
「お待たせしました夢神さま。あら、お邪魔でしたかしら?」
「いや、大丈夫ですよ四葉さん、今終わったところですから。実は僕の案内人の不知火さんが大怪我をしたって聞いたので、ちょっと様子を聞いていたんです」
運命さんが大怪我って言っていたから気が気じゃなかったんだけど、思ったよりも元気そうで良かった。
「そうだったんですか!? それで、不知火さまは?」
「四葉製のスーツのおかげで命拾いしたって言ってました。四葉さんに御礼を伝えておいてほしいって不知火さんが」
「結果的に大怪我しているのですから複雑ですが……それだけ衝撃が大きかったということですね。安全のためにも、更なる改良を進めなければ……」
悔しそうに唇を噛む四葉さん。本当に責任感の強い人なんだな。
「相手は複数の忍に加えて例の異形だったらしいですから。スーツのおかげで対等に戦えたし、この程度の怪我で済んだんだって、感謝していましたよ」
「……ありがとうございます。ですが、製品の改良は必ずやってみせます。たとえ異形が相手でも後れを取ることが無いようにしなければなりませんからね!」
四葉さんが時折見せる愁いを帯びた横顔は、とても悲しそうで、大人びていて……僕が見ているところよりもずっと……はるか遠くを見ているような……僕にはわからないずっと先の未来を見てる。なぜかそんな気がする。
だからかな……四葉さんには、もっと笑っていて欲しいと思ってしまうんだ。
「じゃあ、そろそろ戻りましょうか? 黒崎先生や皆が心配しているでしょうし」
「はい、夢神さま」
「夢神、四葉、二人とも無事で良かった。鬼頭先生と武富も幸い命に別状は無いようだから最悪の事態は避けることが出来た。課題も無事クリアしたのもよくやったぞ。何があったのかは、運命さまから念話で大体聞いているが、詳しいも聞きたい。疲れているところ悪いがな。まあ、なんだ……とにかく無事でよかった」
僕と四葉さんが五階にいる皆に合流すると、黒崎先生がギュッと抱きしめてくれた。心配してくれていたんだとわかってなんだか嬉しくなる。
「……ズルいです先生」
「ん? ああ、心配するな次はお前の番だからな」
「えっ!? あ、違います、そういう意味じゃ――――ひゃうっ」
ふふ、四葉さんも黒崎先生に抱きしめられてあわあわしている。
「えっ!? 五階でそんなことがあったんですか?」
今回、忍や異形を操っていた黒幕のような存在。黒崎先生が本気を出さなければならないほど得体のしれない相手だったという。しかも運命さんと同じように目の前で姿を消した――――つまり転移のような力も持っている可能性がある、ということ。
「ああ、私だから何とかなったが、今回の襲撃、かなり時間をかけて準備された手口だったのは間違いない。幸い全員無事だが、少なからず怪我人も出ているし、生徒たちの精神的なケアも必要になりそうだ。あっさり撤退したところをみると、今回の襲撃はもしかすると前哨戦、もしくはこちらの力を探るための捨て駒に過ぎなかったのかもしれん。まったく厄介なことになった……」
黒崎先生はどこか遠くを見ているようで、静かに怒りを燃やしているように見える。
「夢神」
「はい先生」
「状況によっては私もここを離れる可能性がある。万一の時は……頼む」
黒崎先生の真っすぐな視線から強い意志が伝わってくる。
「はい、全力を尽くします」
僕の信じてくれていることに嬉しさと責任を感じる。そうだ、運命さまも黒崎先生も居ない状況で今回のようなことが起きないとも限らないのだから。
「私も期待してもいいですか?」
四葉さんがそっと手を重ねる。
「うん、四葉さんは僕が必ず守るよ」
重ねた手を握り返すと真っ赤な顔して逃げてしまった……僕、変なこと言ったかな?
「夢神!! 無事だったか?」
先生との話が終わったのを見計らって、那須野さんが駆けつけてくる。
「うん、僕たちは大丈夫。それより那須野さんは怪我とかしてない?」
「ああ、私は幸い軽症だから問題ないけど……赤牛や降矢たちはかなりの重症みたいだ……降矢は嫌な野郎だが、それでも前に出て身体を張ってくれたからな。正直ちょっと見直したよ。ただ……赤牛は誘拐されかけたから精神的なダメージも相当あると思う。他の皆も、相当怖かったんじゃないかな」
えっと……降矢くんって誰だっけ? あ……思い出した。京吾くんの腰巾着の人だ!
それにしても赤牛くんも重症なのか……聞いた感じだと思った以上に深刻かもしれない。
ただでさえダンジョン内という特殊な空間で肉体と精神が消耗していたところに、味方であるはずの忍に襲われたんだ。トラウマを抱えてしまってもおかしくない状況だよね……。
そう考えると全員無事だったのは本当に幸い、せめてもの救いだったのかもしれない。
もし運命さんが入学していなかったら
もし黒崎先生が担任じゃなかったら
もし十階に行ったのが僕じゃなかったら……
きっと被害はこんなものでは済まなかっただろうし、四葉さんは攫われていただろう。
犯人たちにとっては想定外中の想定外が重なったようなものだよね。一切同情はしないけど。
「今日の授業はこれで終わりとする。明日以降については案内人を通して学校から連絡が行くと思うが、それまでは各自ゆっくりと身体を休めろ。好きなことをしてリラックスするのも良い。ただし、単独行動は禁止だ。常に複数で行動をして、常に連絡が取れる状態を確保すること。いいな?」
怪我をした生徒が運び出された後、直接被害を受けた特別クラスは、学校に戻り短い説明の後、臨時解散となった。
なにせ副担任が倒れて意識不明の重体、クラスの半数以上が怪我や精神的なショックでここには居ない。さらに担任の黒崎先生も事件の後始末と調査のため、運命さんのところへ合流するらしいから授業どころではなくなってしまったのだ。
僕と四葉さんだけは、居残りで黒崎先生に詳しい経緯を説明させられた後、ようやく解放されたんだけど……
「夢神さまもお疲れ様でした。この後はどうなされるのですか?」
「不知火さんのお見舞いに行こうと思っています」
面会出来るかわからないけど、会って顔を見たいという気持ちはある。
「ああ、そうでしたね。よろしければ私もご一緒しても?」
そうか、さっき四葉製スーツのことを気にしていたから……。
「もちろんです。でも予定は大丈夫なんですか?」
「はい、急に時間が出来てしまいましたし、柴田が迎えに来るまでは特にしなければならないことも無いのです……それに」
何か言いかけて口をつぐむ四葉さん。
「それに?」
「な、なんでもないのです。さあ、まいりましょう夢神さま」
手を取ってぐいぐい引っ張ってゆく四葉さん。こういう時のリーダーシップというか積極性はさすがだと思うし、僕も見習いたい。
「は、はい!」
あ……そういえば僕、不知火さんが居る医務室の場所を知らなかった……。
四葉さん……ありがとう。




