第二十九話 強力な助っ人
―― 四葉 葵視点 ――
「大丈夫、敵は僕と京吾くんで止めて見せるから、四葉さんはその間に黒崎先生に!!」
「ですがっ!!」
不意打ちとはいえ、白金ランクの鬼頭先生を一撃で戦闘不能に倒してしまった異形の化け物。戦って勝てるとは思えない。そして、敵の目的は私だ。少なくともすぐに殺される可能性は低い。
であれば今はこれ以上の犠牲を避けるべき――――
「大丈夫、言ったよね、僕はめちゃくちゃ運が良いって。だから……大丈夫だよ」
夢神さまの表情を見て、はっ、とする。
この方は強がっているんじゃない。心から自分自身を信じている……そんな目をしている。
ならば――――
「っ!! わかりました、どうかご武運を」
私に出来ることは、一秒でも早く先生に知らせることしかない。
だが、敵が待ち構えている以上転移陣は使えないから、階段を使って五階まで降りるしかない。
「京吾くん、今だ!!」
「おう――――火遁・豪火滅却!!」
武富さまの炎が異形の視界を遮る。チャンスは今しかない。
『ニガサン!!』
だが異形の能力は想像以上に高い。力づくで炎の壁を突破しこちらへ向かってくる。
っ!? 速いっ!?――――追いつかれる!
異形の手が私の身体に届いて――――
『ギャアアアアアアアア!?』
突然異形が倒れた?
「四葉さん、今のうちに!!」
夢神さまの声を背に、無言で走り抜け、そのまま通路に飛び込み転げ落ちるように階段を下る。
一瞬の差が命取りになる、彼らが身体を張って作ってくれたチャンスを無駄するわけにはいかない。
私が出来ることは一刻も早く先生に知らせること。残ったところで役には立たない。悔しいけれどそれが今の私の実力なのだから。
九階へ降り、八階へ降りる階段を目指す。
それにしても……夢神さまの力……あれは一体?
異形の男を止めたのはまぐれではなかった。私にはほとんど追えなかった異形の動きが、夢神さまには完全に見えていたのだろうか?
しかし異形の恐ろしさは、スピード以上にそのパワーだ。動きが見えているだけでは戦えるとは到底思えないのです。
仮に避け続けることが出来ても敵の目的は私の確保だ。階段への通路に入れないようにするならば、当然大きなリスクを背負わなければならない。ましてや鬼頭先生や武富さまを巻き込まないようにするとなれば、その難易度は考えたくもないほど高い。
つまり――――これ以上の足止めは期待してはいけないということ。
すでに私を追いかけてきていると考えるべきだ。そして異形のスピードは私よりも速い。
このままでは――――途中で追いつかれる。
使うしかない――――
ペンダントを引きちぎって、取り出した薬を飲み込む。
四葉グループが極秘に開発中の新薬。一時的に身体能力を飛躍的に高めることが出来る。
ですが、良いことばかりでもないのですよね……。
コントロールが難しくて精密な動きが求められる場面では使えませんし、肉体への負担が大きいのです。
くっ……視界が歪みます……やはりまだまだ改良の余地は大きいですが、走るだけなら何とかなります。今はコンマ一秒でも時間が欲しい。
八階……七階……六階……あと少し……お願い……このまま――――
「おっと、ここから先は通行止めだ」
五階へ降りる階段が封鎖されている!?
そんな……まさかここまで敵の手が……?
目の前が真っ暗になる。せっかくここまで来たのに、通れなければ先生に知らせることが出来ない。
「なんでも五階でテロリストが暴れているらしくてな。一時的に上下階段を封鎖したらしいよ」
五階にも……敵が……?
私を確実に捕えるための二段構えということか……五階は黒崎先生と運命さまがいらっしゃるから大丈夫だとは思いますが、とにかく一刻も早く上の異形のことを伝えなければ。
「お願いします! 緊急事態なんです、十階にも、転移陣の外にも敵がいます。五階に居る黒崎先生に会わなければならないのです!!」
「あんたもしかして四葉のお嬢様か、困ったな、勝手に通すわけにもいかないんだよ。おまけに危険すぎる。何人も忍がやられているんだ」
「ですが!!」
「通してあげなさい」
フロア中に響き渡るような凛とした張りのある声。
私は――――この声の主を知っている。
「あんた、突然現れて何勝手なことを……って、りゅ、龍神!?」
「……龍神? 呼び捨てを許可した覚えはないが?」
その長身から見下ろされて係の男が狼狽える。龍神さまといえば、黒崎先生と双璧を為す武闘派忍の頂点の一角……可憐な外見からは想像もできないほど畏怖されている存在。
「りゅ、龍神さま……ですが……」
「今、見てきたが五階はすでに零の奴が制圧を完了している。それに、お嬢様には私が付き添うから危険は無い。それよりもまだ他にも敵がいるならば、そちらが手遅れになる前に排除すべきではないのか?」
「た、たしかに……わかりました。どうぞ」
「急ぐぞお嬢様」
「お待ちください龍神さま。ならば先に十階へ行っていただけませんか? 私を逃がすために……身体を張って残ったクラスメイトたちが残っているのです!」
「あの……重くはないのですか?」
「いいやまったく。お嬢様はもう少し食べた方が良いんじゃないのか?」
龍神さまが私を小脇に抱えて風のように階段を駆け上がってゆく。まるで重力を感じていないかのようなスピードで。
「それより、十階にいる敵の数とクラスメイトの名は?」
「十階のボス部屋に異形の男たちが三名、副担任の鬼頭先生が不意打ちで異形にやられてしまって……。それから転移陣の出口にも大勢仲間がいると言っていました。クラスメイトは二名、武富京吾さまと夢神創さまという殿方です……」
皆さま……ご無事でしょうか?
「鬼頭? 奴なら同期で知っているが、不意打ちとはいえ、やられるとは情けない。だが……鬼頭がやられるのならその異形の男たちは相当な実力はあるのだろう。少なくともパワーだけは。とにかく見所がある男たちだ。必ず助けてやらねばな、お嬢様」
「はい、必ず」
龍神さまのスピードは恐ろしいほどで、強化された私の数分の一の時間で十階のボス部屋に到着する。私を抱えたまま、しかもまだ本気を出していないのがわかる。これが……天空ランクの……上忍の力なのですね。
「……ボス部屋が復活しているな。つまりすでに転移陣で外へ出た後だという可能性が高い」
ボス部屋が復活する条件は――――全員が部屋から出る
もしくは――――全員死亡した時。
どちらにしても、すでに戦闘は終わっているということになる。
「龍神さま、彼らはきっと生きています……」
「わかっている、行くぞお嬢様」
全滅している場合、遺体はボス部屋にそのまま残されているはず。
覚悟を決めて私たちはボス部屋に入る。
「遺体は……無いようですね」
ひとまずは最悪のシナリオを回避できた。もちろん敵に連れ去られたり、回収されている可能性の方が圧倒的に高いわけだが。




