第二十八話 強さの秘密と四天の『桜花」
―― 世渡 運命視点 ――
はあ……自己嫌悪だよ……いくらやることが一杯あったからって、不知火ちゃんに大怪我させてしまうなんて本当に最悪。創くん……本当にごめん。
でも不知火ちゃんが言っていた本命はダンジョンの中というのはその通り。
途中でテロリストたちが話していたお嬢様というのは、おそらく葵ちゃんのことだろう。
だけど――――それほど心配はしていないんだよね。
むしろ他の生徒たちの方がよほど心配。零がいるから大丈夫だと思うけど、思ったよりも敵の規模が大きかったから……
それにしても、四葉 葵を狙ったのはわかるけど、運がなかったね。
まさか、私よりも強い子が一緒に居るなんて、夢にも思っていなかっただろうし。
創くんが負けることなんて万一にもないだろうけど、それでもきっと創くん困っているだろうし……早く行ってあげないと。
敵はおそらく転移陣の出口を押さえて網を張っているはず……実行犯は創くんに任せるとして、他の奴らは一発ぶん殴らないと気が済まない。
あの見たこともない異形に関しては気になるけど今考えても仕方がない。
転移――――!!
お? いるいる……白金ランクの中忍が一名、金色の下忍が十名か……あと例の異形も三体。他にも操られている可能性は考えていたけど……まさかこんなに大勢いるなんて完全に想定外。ということは……昨日今日の話では無くて、かなり以前から少しずつ準備を進めていたのかもしれない。参ったなあ……あ! 創くんが来た!
四葉ちゃんが居ないっていうことは、そういうことだよね。まあ当然か。
あら、怒っている創くんも可愛い……ちょっとだけ様子を見てみようかな。ふふふ。
お、いきなり不意打ち! やるじゃん創くん。あっという間に二名戦闘不能になっちゃった。しかもリーダー格の中忍秒殺されるとか油断しすぎ(笑)
残りは下忍九人、私なら逃げるけどね。勝ち目ないし。一斉に逃げれば、何人か逃げられるかもしれないよ。私が逃がさないけど。
あちゃあ~取り囲んじゃったか。まあ所詮下忍だし、創くんの強さって独特だからわからないのも無理ないけど……
一斉攻撃ね……悪くはないけど、創くんに対しては悪手。まとめて倒してくれって言っているようなものだよ?
ほらね。言わんこっちゃない。言ってないけど。
それにしてもあっという間だったなあ……創くんってばカッコいい!
さてと、異形に関しては私が処分しておきますか。
「創く~ん!! 大丈夫だった?」
「あ! 運命さん、来てくれて良かったです。この後どうしようって……」
はうう……こんなに強いのに捨てられた仔犬みたいに不安そうな創くんかわいい……
周りには私たち以外には誰も居ないので、思い切り抱きしめる。居ても抱きしめるけど。
「よく頑張ったね、創くん。お手柄だよ」
実際、結構ヤバかった。私と零だけだったらかなり被害が出ていた可能性が高い。まったく……せっかくのイチャラブ高校生活がスタートから台無しじゃない。許せんな犯人ども。
「いえ、本物の忍かと思って焦りましたけど、僕でもなんとかなったから偽物だったんでしょうか?」
あ……そうか、創くんって自分が強いこと認識してなかったんだっけ。
その方が面白いし、本人の成長のためにもあえて言わなかったけど、今後のことを考えたら言っておいた方がいいかもしれないね。残念だけど。
「えええっ!? 僕が運命さんよりも強い? そんな馬鹿な……だって僕はまだダンジョン入ったばかりですし、紋章だっていまだにランクアップしていないですけど……?」
「あはは、創くんの紋章はね。零の紺碧のさらに上の漆黒ランクなんだよ、私とお揃いのね。ほら」
偽装を解いて紋章を見せるとようやく理解してくれたみたい。
「でもどうして……?」
創くんが疑問に思うのも当然だ。でも私はすでに理由に目星を付けている。
「創くんの夢の世界。あれってね、夢を介して現実に存在するどこかへ行っているんだと思う。だって、実際に私と夢の中で会ったわけだし、この二日間連れて行ってもらった夢の中で得た経験値で、実際に私がレベルアップしているのがその証拠。創くんが異常なまでに強いのは、幼いころから強力なモンスターを夢の中で倒しまくってあり得ないぐらいレベルアップしているからだと思うんだ」
「……そうだったんんですね。そうか、だからあの異形にも勝てたんだ」
「ん? もしかしてダンジョン内にも異形が居たの?」
なぜあの異形がダンジョンに入れたんだ? あいつらは忍じゃないはずだけど……?
「実は、十階の階層ボス部屋で、いきなり異形に襲われたんです。鬼頭先生や京吾くんもやられてしまって……四葉さんを連れ去るのが目的だって言ってました」
……おそらくは不意打ちだろうけど、それでも白金ランクの鬼頭先生がやられたとなると……異形の戦闘力はやはり侮れない。そしてやはり目的は葵ちゃんだったか。
「創くん、鬼頭先生たちはどこに?」
「リュックの中に」
創くんのリュックの中には、たしかに意識を失っている鬼頭先生たちの姿が確認できた。そして三体の異形の姿も。
これは……思っていたよりもマズい状況かもしれない。
「……ねえ創くん」
「はい、運命さん」
創くんの真っすぐでキラキラした黒い瞳。思わず吸い込まれそうになる。ずっとこのまま二人で……そう思ってしまうのは私の弱い心。
「不知火ちゃんが敵に襲われて大怪我したんだ。私が間に合わなかったら危ないところだった」
「えええっ!? 不知火さんが? それで……だ、大丈夫なんですか!?」
「うん。命に別状はない。でも何人も亡くなって大勢の人が生死を彷徨う怪我をして治療を続けている状況。だからね創くん――――」
私は一時学校から離れることになる。
今回の事件は間違いなく国全体を揺るがすほどのものとなるだろう。
背後関係や敵がどうやって忍を集めて動かしていたのか? 早急に調査が必要で、同時にフリーで活動している忍たちへの注意喚起と対策もしなければならない。
敵がここまで大胆な行動を仕掛けてきた以上、事態は一刻の猶予もないと思った方が良い。
名残……惜しいな……一刻も早く目途を付けて戻ってくるからね。
「創くん、私は君のことが――――大好きだよ」
「はい運命さん……僕も大好きです。早く戻って来てくださいね」
胸に顔を埋めて創くん成分をたっぷりと補給する。
今は――――迷うな――――私の大切な人と場所を守るんだ。
「じゃあ行ってくる。創くんも例の件、よろしくね」
「は、はい……上手くできるかわかりませんが、精一杯、が、頑張ります!!」
本当はもう少し先の予定だったんだけど、こうなった以上仕方ない。創くんなら私が居なくてもやってくれるはず……だからね!
さてと、それじゃあ行く前に、創くんのためにも不知火ちゃんの怪我をなんとかしておかないと。
転移――――
「おーい、さくら、悪いけど今からちょっと付き合って」
「きゃああっ!? な、なんですか~運命さま」
日向さくら。この子、回復特化型の能力持ちなんだよね。
「さくらの力を借りたいんだけど」
「嫌ですよ、見ての通り私は今休暇中で温泉を楽しんでいる真っ最中なんですから~」
温泉に浸かっているさくらの艶肌はほんのりさくら色に染まっていてやたらと艶めかしい。
それにしても相変わらず凶悪なモノを持ってるよね……スイカが浮いているのかと思ったじゃないか。
「緊急事態。ダンジョンシティが爆破テロで被害を受けた。忍高が襲われて死傷者多数、今すぐ全裸で転移するか、急いで服を着るのか決めてね。はい、十、九、八……」
「えええっ!? わ、わかりましたよ~、す、すぐに着ますから!!」
慌てて脱衣場へ駆け込んでゆく、さくら。
「なるほど~。そんなことになっていたんですね~」
服を着ている間に一通り説明をしたおかげで、口調は相変わらず緩いけど、表情はすっかり忍モード、四天王の『桜花』の顔に切り替わっている。
「時間無いから、送った後は念話でフォローするよ」
「はあ……私の癒しの時間が……」
がっくり肩を落とすさくら。
気持ちはわかるよ。私だってせっかくの癒しから離れなくちゃならないんだしね。
「まあまあ、さくらってば、絶対創くんのこと気に入ると思うよ。なんたってあの堅物の零が一瞬でふにゃふにゃになってたからね」
「えっ!? 創くんってさっき仰っていた運命さまの婚約者ですよね?」
「うん、年下好きで美少年好きのさくら的にはドストライクだと思う」
私も人のことは言えないけど、さくらの年下好きはガチだ。でも……こう見えて零と双璧の超奥手だからちょっとだけ背中押しておいてあげないとね。
「マジですか……運命さま? やります! なんだかやる気がみなぎって来ました~! 手取り足取り創くんを治療します~!」
「張り切っているところ申し訳ないけど、治療するのは女性だけどね。創くん強いから怪我しないし」
一気にテンションが落ち込んださくらを医務室に放り込んで、首相官邸へ飛ぶ。
さて、お仕事始めますか。




