第二十六話 異形との戦い
「ぐへえっ!?」
「京吾くん!!」
吹き飛ばされた京吾くんが壁に激突する寸前でキャッチする。
良かった……意識は無いみたいだけどまだ生きてる。
『キサマ……ヨクモニガシタナ……コロシテヤル』
一体は戦闘不能に追い込んだけど、まだ無傷の異形が二体も残っている。
だけど……逃げるわけにはいかない。
先生と京吾くんを見捨てるなんて出来ないし、四葉さんが逃げる時間を少しでも稼がないと。
身体は動くし動きも見える。見た目ほど恐怖は感じない。でも階段へ通すわけにはいかない以上、逃げ回ることも出来ない。僕は魔法やスキルが使えないから、体術で戦うしかないけど、果たして通用するのかわからない。
どうする――――?
『ガアアアアアッ!!』
考える間も与えてくれない。二体の異形が同時に攻撃――――いや、一体は階段へ抜けるつもりだ。
まただ……なぜだろう――――?
不思議と異形の動きが良く見える。
さっきと同じ感覚だ……動きがまるでスローモーションのよう。
「はああああっ!!」
先程と同じ要領で、僕の脇を抜けようとした異形の足首を砕く。
『ウギャアアアア!?』
『バ、バカナ……!?」
すぐさま攻撃を仕掛けてきたもう一体の攻撃をかわして無防備な脇腹に膝を入れる。
『ゲボッ!?』
異形の身体がくの字に跳ね上がり動きが止まった瞬間を逃さない。
素早く懐に入り、背負い投げの要領で壁に叩きつける。
ドガアッ!! ビキビキッ――――
すさまじい音がして壁に大きなクレーターが出来る。
「……やった……のか?」
異形は動く様子が無い。というか動けないだろうなって思う。これで動き出したらゾンビだよ。
余計な想像にゾッとしながら、足首を砕いてろくに動けなくなっている残りの二体も戦闘不能にする。
「はぁ……とにかく勝てて良かった……」
無我夢中に戦っている間はそれどころじゃなかったんだけど、こうして冷静になってみると、どうしてこんなことが出来たのかわからないし、異形のこととか、四葉さんのこととか先生や京吾くんの容態も心配だし。色んなことが気になって来る。
とりあえず異形をこのままにしておくわけにはいかないので、念のため両足を砕いてからロープで拘束し、拡張リュックに入れる。
一度リュックに入れてしまえば、中から出てくることは出来ないらしいけど、出すときに暴れられたらたまらないからね。
「えっと……どうしよう……」
先生も京吾くんも意識を失っていて重傷だし、四葉さんは居ない。
正直どうしていいかわからないけど、とりあえず先生と京吾くんもリュックに入ってもらう。
リュックの中は入れた時の状態が保存されるし運ぶ時の振動もないから、怪我人を運ぶには適しているって昨日説明を受けた。この場に置き去りにしたり、無理に背負うよりはマシだろう。
問題はこの後だ。四葉さんを追って階段を下りる――――のが一番安全なのかもしれないけど、異形たちは転移陣の先に仲間が待っていると言っていた。
もし、僕がこのまま降りてしまったら、次にここへ来た人たちが危険な目に遭ってしまう可能性があるし、そもそも出口が占拠されている時点で、ここだけじゃない各層の転移陣からの被害者が増え続けているはず。
狙いは四葉さんだって言っていたから、敵はきっと僕のことは知らないはずだし、異形でも四葉さんでもない僕が転移陣から現れてた場合、少なくとも油断はする可能性はある。
なにより、一刻も早く先生たちを治療してもらわなくちゃならないし……。
よし、転移陣に入ろう。
外へ出てしまえば、最悪逃げるだけなら出来る可能性は高い。
それに……四葉さんから黒崎先生たちに状況が伝われば、下には運命さんだっているから転移ですぐに駆けつけてくれるはずなんだ。
こんな危険な奴らは絶対に野放しに出来ないし、逃がすわけにはいかない。
、
大丈夫、動きは負けない。弱気になるな。
僕なら……出来る!
◇◇◇
―― 案内人 不知火 伊吹視点 ――
夢神さまは今頃頑張ってらっしゃるだろうか?
昨夜、一所懸命予習をされていた姿を思い出すと、思わず口元がにやけてしまう。ああ……頑張り屋さんの夢神さま尊い。
思った以上に特別クラスのペースが速いから、今夜もまた補習が必要になるでしょうね。しっかり資料を集めて準備しておかなければ。
資料を集めるために職員用の資料館へ向かう。ここにはまだ一般には公開されていない情報が先行して蓄積されているので、教科書に載っていないような知識も手に入れることが出来るのだ。
「夢神さまだけじゃない、私だって案内人として成長しなければ」
ダンジョンに入ることが出来ない以上、せめて情報だけでも最新のものをお伝えしなければ何のための案内人なのかわからないですからね。
「あら? 何かあったのかしら」
資料館の入り口に警備の兵士が複数集まって何か大声でやりとりしている。普段は警備員がのんびり一人立っているだけなので、かなり異様な光景だ。
「あの……何かあったんですか?」
「ああ、ご苦労様です。実は先ほどダンジョンシティで連続爆破事件が起きました。警備レベルが4に引き上げられましたので、外出は控えて安全な建物の中で待機してください」
緊張した面持ちの兵士からそう告げられる。
なんてこと……ダンジョンシティで連続爆破事件? もしかしなくてもテロか何かよね?
「あの……ちょっとだけ資料館を利用する……なんて無理ですよね……?」
「申し訳ありませんが……現在すべての施設は利用停止となっております。警戒はしておりますが、危険ですので単独行動は避け――――」
ドサッ――――
「きゃあっ!?」
目の前の兵士が血を吐いて倒れる。駄目……即死だ。
「早く逃げて!!」
「はい!!」
何が起きたのかわからないが、考えるよりも先に走り出していた。
ここに居たら殺される――――本能がそう告げている。
背後から銃撃の音が聞こえてくるけど振り返る余裕はない。
とにかく安全な場所へ身を隠して――――でも……どこへ?
敵がテロリストなら狙うのは重要施設。戦力だけなら学校内が充実していて距離も近いが、戦闘に巻き込まれる可能性が高い。
私も特殊な訓練を受けているから簡単に後れをとることはないけれど、もし敵が銃火器を装備した相手となれば正直厳しい。敵の正体や規模がわかっていない以上、戦闘は最後の手段、今は安全なところへ退避すべきだ。
ならば男子寮へ――――
ガガガガガガガ!!!!
駄目だ、すでに戦闘が始まっている。
なんでこんなことに……平和だった通りには被害者と思われる人々が倒れている。
遮蔽物の無い通りを抜けるのは難しそうね……
このまま移動することは断念し、近くの物陰に転がり込む。
「はぁ……はぁ……」
おかしい……ここは国内でも最高レベルのセキュリティレベルを誇る中心部。ダンジョンシティよりもはるかに厳しいセキュリティ体制が敷かれているはず。
テロリストたちは一体どうやって侵入したのだろう?
それに忍を中心に構成された特殊部隊もすぐに到着するはず。制圧目的ならそれこそ核ミサイルでも撃ち込んで廃墟にするくらいでなければ不可能。となると目的は別にあるのだろうか?
――――っ!? 誰か来る。
「ダンジョン転移出口制圧完了」
「よし、ターゲットを回収したら撤収だ。ダンジョンシティで派手にやってくれたから、予想通りこっちはまだ手薄だな」
……ダンジョン転移出口? ターゲットはダンジョン内部にあるモノ、もしくは人ということ?
それにあの人たち……間違いない、忍だ。まさか忍内部に工作員が入り込んでいたの?
「おい……あそこに誰か隠れているな」
くっ!? この距離でバレた!? 忍の感覚が常人離れしていることは知ってはいるけど、敵にするとこれほど厄介とはね……。
マズい……複数の忍相手に交戦は無謀……なら――――逃げるしかない。
覚悟を決めて深く息を吸い込む。
3,2,1,スタート!!!
ゴウッ!!!
爆発的な加速によって地面が抉られ疾風が巻き起こる。
四葉グループが開発した特製シューズ。脚力を数倍に増幅し地面に伝えると同時に、その反動による衝撃を更なる脚力に変換する特殊構造。市販されていない案内人特別モデル。スピードだけなら忍相手でも引けはとらない。
「くぅっ……」
周りの景色が歪むほどの加速で物陰から一気に飛び出す。
「あ、逃げたぞ!!」
背後から聞こえる声が小さくなる。
行ける……このまま逃げ切る!!




