第二十四話 連続失踪事件
―― 龍神 綾視点 ――
「龍神様、新たな失踪情報です。場所はダンジョンシティ郊外」
「これで三人目か……しかも全員現役の忍。同一犯の可能性が高いな」
「はい、手口も同じようですし間違いないかと」
バーで声を掛けてホテルへ誘う手口か……古典的だが効果的と言わざるを得ない。
しかし解せないのは失踪しているのが全員現役の忍、しかも白金ランクの手練れだということ。
このクラスになれば、普通の銃火器ではまともなダメージも入らなくなり生半可な毒など効かなくなってくる。たとえ酔っていたとしても、力づくで誘拐することなど不可能に近いはずなのだ。
まさか……自ら同意して……いや、それはどうだろう。少なくとも金や女には不自由していないはず。
強いて言えば名誉欲だが、その気になれば現状でいくらでも出世することは可能だ。
……嫌な予感がする。
何か見落としているのか?
ダンジョンシティのセキュリティに今のところ不備はない。つまり、失踪した三人はまだ外へは出ていないはず。
どんな事情があるにせよ、一刻も早く身柄を確保しなければなるまい。何かが起きてからでは手遅れになる。
龍神 綾
「ここがその場所か?」
「はい、失踪した三人はこのバーで飲んでいたそうです」
「映像は残っていないのか?」
「それが……肝心なところだけ画像が乱れて映っていないのです」
ふむ……何らかの力で干渉したのか。
「中へ入るぞ」
営業は夕方からだが、オーナー立会いの下店の中へ。
「……何かわかりますか?」
「……濃密な魔力の残り香がするな」
なんだこれは……人間の持つものとは明らかに異質。まるでダンジョンの高位モンスター、いや……それ以上の何かを感じる。
まさか……男を幻惑魅了するサキュバスがバーに現れたとでも? 魔物はダンジョンから出られないはずだが……。
しかし、万一そうだったとしてもダンジョンからそんなものが出てきたのであれば、とっくに報告されているはず。
どうなっている? ここは運命さまにお伺いを立てておいた方が――――
ドガアアアーン!!!!
突然の轟音で店が小刻みに揺れて、パラパラと白い粉が降って来る。
「何があった!?」
店の外へ出ると、遠くで火柱と爆発によるキノコ雲が立ち上がっている。
「た、大変です、ダンジョンシティ中心部で爆破テロ発生――――」
爆破テロ? しかも中心部だと? 有り得ない……一体どうやって!?
「――――犯人は……現地の映像から失踪している三人組で間違いないと思われます」
なるほどね……たしかに忍ならばセキュリティにかからず中心部まで侵入可能だ。しかも失踪した三人は警備担当所属。武器の保管場所や警備の手薄な場所も把握している……か。
「私が行く。白金ランク三名相手ではかえって被害が拡大するだけだ。美月、お前は運命さまに連絡を。あまり想像したくないが、この爆破テロすら陽動の可能性がある」
「は、はいっ!! お気をつけて」
「はは、私を誰だと思っている?『龍神』の名は伊達ではないのだ」
やはり運命さまの懸念は当たっていた。未然に防げなかったのは私の力量不足。
背後で暗躍しているのがどこの誰かは知らないが――――
私の庭で好き勝手してタダですむとは思うなよ。
―― 黒崎 零視点 ――
「零……なんか変じゃない?」
「たしかに……空気が変わりましたね……」
運命さまのおっしゃる通り、先ほどから感じる違和感。ダンジョン自体に変化はない……が、なんだこの胸騒ぎは……?
トゥルルルル……
「はい、黒崎だ。何っ!? 爆破テロ? しかも同時多発? わかった、こちらは大丈夫だ。生徒たちの安全を確保しながら指示を待つようにする」
学校からだ。ダンジョンシティで同時多発爆破事件が発生したらしい。事故とは思えないからテロか?
「こっちにも美月ちゃんから連絡が来た。どうやら失踪事件の被害者が暴れているみたい。綾が鎮圧に向かっているから、そちらは大丈夫そうだけど、そっちが陽動でもっと大規模なテロもしくは軍事攻撃の可能性があるから、ちょっと外の様子確認してくる。生徒たちは頼むね」
『私も加勢した方が?』
転移で姿を消した運命さまに念話で確認する。
『いや、外は私だけで十分。それに……』
「それに?」
『失踪した人間が三人だけとも限らない。敵の標的がダンジョン、もしくはダンジョンに居る人間の可能性だった場合、生徒に危険がおよぶかもしれない。零……誰が相手でも油断するな』
「はい、肝に銘じます」
なるほど、たしかにその可能性はある。どうやったのかはわからないが、忍を操って厳重なセキュリティが敷かれているダンジョンシティに攻撃を仕掛けてくるほどの連中だ。動かせる駒が三人だけというのも楽観的すぎるか。しかしダンジョン内には多数の現役忍がいるからな……すべてを敵だと疑ってしまっては何もできなくなってしまう。
これは……思ったよりもマズい状況かもしれない。
「特別クラスは全員すみやかに集合!!」
余計なことは考えるな。今は、この子たちの安全を確保することが最優先。集中しなければ。
「全員集合したか?」
「赤牛くんが居ません」
ちっ……最悪な予想は当たってくれるなよ。
「いいか、全員固まって絶対にこの場から動くな、誰が何を言っても信用するな。すぐに戻る」
気配察知――――
見つけた……四階か。
「おい貴様、何をしている。うちの生徒を返してもらうぞ」
「……ちっ、手を出すな。出したら生徒の命、ぐぼへっ!?」
倒した忍をリュックに放り込む。
やはり忍か……敵は何らかの方法で洗脳もしくは操っているのか?
まあいい、取り調べは後だ……早く生徒たちのところへ戻らなければ――――
―― 那須野菜々視点 ――
「おい、一体何があったんだろうな?」
「赤牛くん無事だと良いけど……」
先生が居なくなってみんな不安そうにしている。無理もない、私だって不安だ。あんなに真剣な表情の先生は見たことがない。きっと大変なことが起こっているに違いない。
「ああ……何という事だ、よりにもよって京吾さまが居ないなんて」
「せめて四葉さまが居てくださったら……」
武富と四葉さんの取り巻き連中が早速騒ぎ始めている。
まあ気持ちはわかるけどな。特別クラスの最大戦力である四葉さんと嫌な野郎だけど金色ランクである武富が居ないのは正直痛い。強さはもちろん、今は皆をまとめるリーダーシップが必要な局面だから。
「君たち、忍高の生徒だよね? 学校から保護するように頼まれたんだ。一緒に来てくれ」
十名ほどの忍が私たちのところへやってきた。皆、ホッとしつつも、どうしていいかわからず困惑している。
「ご苦労様です。じゃあみんな行くぞ」
武富の腰巾着の降矢か。あの野郎、先生の話聞いていなかったのかよ。
「駄目だ、降矢、先生から動くなと言われているだろう」
「大丈夫だ那須野、お前は知らないかもしれないが、何名かは私も知っている忍の方々だ。怪しい人じゃあない」
そうなのか? いや、だがしかし……先生は誰であろうが聞くなと言ったんだ。それに私の直感が、何かおかしいと告げている。
「降矢、先生が戻るまであと少しだけ待て。それから動いても遅くはないだろう? 何より……怒らせると怖いぞ黒崎先生は」
「むっ……そ、それもそうだな。べ、別に先生が怖いわけじゃないからな?」
黒崎先生の殺気を思い出したのだろう。冷や汗をかいている降矢。
「……ちっ、黙ってついて来れば良いものを。仕方ない……やれ!!」
リーダー格の忍が指示を出すと、十名の忍たちが私たちが逃げられないように包囲網を狭めてくる。
やっぱりこいつら……
「何をするんだ、やめろ!!」
降矢がクラスメイトを守ろうと前に出る。
「邪魔するなガキが」
「ぐはっ!?」
降矢が一瞬でやられて膝から崩れ落ちる。
「きゃああああっ!?」
女生徒から悲鳴が上がる。
ここにいるメンバーで一番レベルが高いと思われる降矢ですらアレだ。特別クラスと言ったって所詮は学生。人数はこちらの方が多いが、すでにプロとして活動している忍の相手では勝負にもならない。
一番強いはずの降矢がやられたことで、クラス中に動揺が広がっている。泣き出した生徒もいるな。
マズい、心まで折れたらますます差が開いてしまう。
「皆、一秒でも良い、時間を稼げ!! 先生が戻ってくるまでで良いから!!」
不安な気持ちを抑え込んで、声の限りに叫ぶ。
勝つ必要なんてない。黒崎先生はすぐに戻ると言っていた。ならばほんの少し時間を稼げば私たちの勝ちだ。
「ちっ、まずはその女から黙らせろ」
「――――しまっ」
気付いたら忍の一人が目の前にいた……駄目だ反応できない……やられる
「ぐはっ!?」
え? 目の前の忍が消えた? いや、吹き飛ばされたんだ。誰にって、そんなの決まっている。そんなことが出来る人は一人しかいない。
「……せ、先生!!」
「よくやった那須野、後は……任せておけ」




