第二十三話 第十階層 エリアボス
その後もそれとなく夢神さまの実力を観察しておりましたが、正直低層階の下部階層ではモンスターが弱すぎて参考になりませんね。
それでも、初めてのダンジョンで不安がある中でも、私のことを守ろうとしてくれていることには気づいています。彼が隣に居ることで感じるこの安心感こそ、表には現れないその実力の裏返しなのかもしれません。
ダンジョン十階までの道のりは順調そのもの。正直私一人でも問題ないレベル。私ほどではなくとも同じ金色ランクの武富さま、実力未知数とはいえ、九階層のスケルトンの群れを瞬殺する夢神さまもいらっしゃいますからね。
私自身、仲間のことに気を遣わずルート選択のみに集中できたことが大きかったです。
「夢神さま、十階の階層主のことはご存じですか?」
「いいえ、まったく知らないです」
さすがに十階に居る下層下部の階層ボスは簡単ではない。私も単独で倒したと言っても倒すには少々……いや、かなり苦労しましたからね。
「トレントという木のモンスターです。攻撃力や耐久力もそれなりに高く、厄介なのは刃物のような葉を遠距離から飛ばしてくること、そして複数の枝を使った広範囲同時攻撃でしょうか。弱点は火ですが、夢神さまは使えないのですよね?」
「あ~、えっと、炎系は使えないです」
私の予想が正しければ無属性のメリットは計り知れないですけれど、誰でも使える属性スキルが使えないというのは決して小さくないデメリットですね。それでもメリットがはるかに上回るとは思いますが。
「問題ありません。炎は私も武富さまも使えますので、夢神さまは私たちの炎でトレントが怯んだ隙を突いて本体を叩いてください」
炎を嫌うトレントは、炎を使うものを真っ先に排除しようと私たちに攻撃が集中するはず。その間に夢神さまが本体に接近して叩くという単純ですけれど効率の良い作戦です。
ダンジョンの守りすら苦にせずオークを瞬殺したほどの夢神さまでしたら、エリアボスのトレントにも問題なく通用するはずです。もちろん万一危険な場合に備えて私も万全のフォローをするつもりですけれど。
「三人ともずいぶん早かったですね。さすが特別クラスの優等生といったところでしょうか」
黒崎先生の言っていた通り、十階のボス部屋の前で鬼頭先生が待っていた。
「四葉さんと京吾くんが凄いだけです」
「武富さま、夢神さまが助けてくれましたので」
「俺の足を引っ張らなかったのは評価できる」
「あはは、そうですか、うん、チームワークも良さそうですね。それでは早速ボス部屋に入りましょうか」
鬼頭先生の後に続いてボス部屋に入る。
当然先生は手助けしてくれません。万一に備えて入口付近に立って腕組みをして見ているだけです。
「夢神さま、武富さま、準備はよろしいですか?」
「はい、バッチリです」
「ああ、いつでも良いぞ」
おや? なんでしょうか……夢神さまの意味深な笑みは……? まさか……
入口の扉が閉まると同時に床に刻まれた魔法陣が輝き始める。
五階のフロアボスとは比較にならないくらい巨大で大規模な魔法陣。
ズズズ……
まるで地鳴りのようにダンジョン全体が震えているような……
光の中から姿を現し始める黒い影が、徐々にトレントの姿となって――――
「!? 夢神、何をするつもりだ?」
突然ダッシュを決める夢神の行動に鬼頭先生が驚いて叫ぶ。
やはり……そう来ましたか!!
五階のボス、オーク戦と同じことをしようと思っているのでしょう。
駄目で元々、試したくなる気持ちはわかります。本音を言えば私からお願いしたいところでしたが……夢神さまのリスクを考えると言い出しにくかったのですが、ふふふ、これは興味深い展開となりましたね。
魔法陣の中で出現中のモンスターは、攻撃をしてこないので、トレントは完全無防備な本体に夢神さまの蹴りを喰らうことになります。さて……どうなりますか。
『URRRRRRRAAAAAAAAAA!?』
トレントの巨体が一瞬で砕け散る。何が起きたのかわからないまま倒れてゆくモンスター。
「…………」
先生も武富君も唖然として固まっている。信じられないといったところでしょうか。
お気持ちはわかります。階層ボスを出現する前に倒すなんて不可能ですからね。
普通は――――ですけれど。
それに加えて、いくら無防備な状態だとしても、あの耐久力のある丈夫なトレントを、炎を使わずに素手の一撃で粉砕したけた外れの破壊力もやはり普通ではない。先生たちもさぞや驚いたことでしょうね。
夢神さまの持つ『無属性』の真価はダンジョンルールの無効化だと私は仮説を立てています。
そして、たった今目の前で起こった事実は、それを裏付けています。
問題は――――その効果が本人だけに限定されるのか、共に行動するメンバーにも適用されるのか――――ですけれど、
『レベルアップしました』
少なくともこうしてエリアボス討伐の経験値が私たちにも均等に入ってきていることは今後のダンジョン攻略においては大きいですね。
何もしていない私たちまで経験値をいただいてしまうのは少々心苦しくはありますけれど。
「あはは、もしかしたらと思ったら、上手く行ったみたい」
頭を掻きながら照れくさそうに笑う夢神さまを一瞬可愛いとか思ってしまったのは……内緒です。
「階層ボス撃破おめでとう。それにしても……驚いたな。まさかそんな方法で倒すなんて……」
プロの現役忍である鬼頭先生であれば余計に衝撃は大きいでしょうけれど、そこまで驚いていないところを見ると、運命さまから何らかの情報は聞かされていると思って間違いないでしょう。まあ当然といえば当然かもしれませんが。
「実に興味深いけど、あまり詮索すると怒られてしまうからな。さあ三人とも、宝箱を回収して戻ろうか」
鬼頭先生の言葉に夢神さまが宝箱に向かう。
私も武富さまも手を出すつもりは無い。
前回宝箱で起きた事が本当に偶然だったのか、それとも必然だったのか――――
確認してみたいという気持ちが強かったこともあるし、倒すにあたって自分たちが何もしていないということももちろんある。
「……ん? なんだろう、コレ……種みたいに見えるけど」
宝箱に入っていたのは種のような粒。枇杷の種を一回り大きくしたようなサイズと形で、私も見たことが無い。ということは、これまでダンジョンで見つかっていない新種だということになりますね。
「これは……見たことが無いな。四葉さん、わかるかい?」
「いいえ、おそらくは新種だと思われます」
ダンジョンから回収されたものはすべて政府経由で四葉グループの研究所で分析されることになっている。
その分析機関のトップが私。上がって来る報告書にはすべて目を通している以上、漏れはないはず。
「おいおい、まさかの新種かよ……夢神お前のくじ運どうなってんだよ」
さすがの武富さまも苦笑いするしかないようですね。
実際、転移石なんかよりもはるかにレアだと言わざるを得ません。やはり夢神さまの力……ということなのでしょう。これは大変なことになりましたね……。




