第二十二話 四葉 葵の秘密
―― 四葉 葵視点 ――
『いやああああああ!?』
はあ……はあ……
夢……でしたか……。
あの日……たしかに私は死んだ。
それなのに、こうして過去に戻って二回目の人生を過ごしている。
私は最悪の未来を阻止するために行動してきた。未来を知っているからこそ先手を打つことが出来る。将来敵になる者は早めに退場してもらう。味方を増やし、四葉グループの力を最大化することで、政府を動かそうと考えていた。
でも私の計画は早々に路線変更を強いられることになった。
ダンジョンの出現――――
こんなものは私の知る世界では存在していなかった。
一体どういうことなのか? この世界は私が居た世界とは似ているけれど違う世界なのか?
だが、私がこうして生きていることと、ダンジョンが出現したことが無関係とは思えない。
直感だが、あのダンジョンこそが世界を救う鍵になるはず。
まずは情報を集めなければならない。
金に糸目は付けず、最初期から積極的にダンジョンに関わり、協力を惜しまなかった。幸い四葉グループには紋章持ちが私を含めてそれなりに人数がいたので、グループの全面的なバックアップの下、忍の育成に注力した。
そして――――
私の予想通り、ダンジョンには未来を変える可能性が詰まっていた。
これならば……最悪の結末を防げるかもしれない。
私は歓喜した。
だが、これは諸刃の剣にもなり得る。
絶対にダンジョンを諸外国の干渉から死守しなければならない。
忍を中心とした独自の組織を立ち上げ、攻略に役立つ製品の開発にも力を入れた。
私自身、ひそかに小学校卒業前から時々ダンジョンに入って鍛え始めた。最後にものを言うのは、やはり自身の力。中学時代には、念願の金色にランクアップすることが出来た。相手が高ランクの忍でなければ、十分身を守れる強さを手に入れたことは大きい。
そして、自分の眼、自分の手でダンジョンの情報に触れることが出来るのは最大のアドバンテージとなる。
だが、まだ足りない。私自身が少しでも早く、白金にランクアップして、同時に強力で信頼のできる仲間を集める必要がある。神ならぬ身、個人で出来ることなどたかがしれているのだ。
前世と同じであるならば、世界の崩壊までまだ時間はあるはずだが、ダンジョンという変数がある以上、何が起こっても不思議ではない。現に私の知らない出来事が徐々に増えているのは間違いなく、どうしても焦ってしまう。
時間が無い、もっと時間が欲しい。睡眠以外の時間は極力研究開発と鍛錬にあて、モデルの仕事も大幅に減らした。
四葉の令嬢という立場と、モデル活動によって知名度を上げることは必要なことだから続けてきたが、もう十分なほど有名になった以上続けるメリットはあまり無い。
ようやく念願の忍高に入学することが出来た。
これで毎日気兼ねなくダンジョンに入ることが出来る。レベルアップもこれまでよりも捗るはずだ。
鍛えることは目的の一つだが、それは第一義ではない。紋章を持つ生徒たちを在学中にまとめ上げ、その中からともに戦える同志たる仲間を見つけることもしなければならない。
特別クラスに入って驚いたことがある。
一つは国内最強忍の一角である天空ランクの黒崎零が担任だったということ。
黒崎零ほどの実力者であれば、億単位の稼ぎなど遊びながらでも可能だ。金銭が目的ではないことは確実だろう。
目的はすぐにわかった。
世渡 運命――――
異世界から帰還した勇者。素顔を知るものは国内でも一握りしかいないが、私はその中の一人。忍育成計画も、この学校を創設したことも、彼女と私が深く関わっているから当然だ。
しかし、なぜ運命さまがここに居るのか? 黒崎 零以上に意味がわからない。今更学校で学ぶことなどあるとも思えないが……?
「運命さま、なぜこの学校に?」
「やあ葵ちゃん、しばらく見ないうちに大きくなったね~。うん、私異世界飛ばされてしまったでしょ? だから高校生活やり直そうと思ってさ」
久しぶりといっても、二週間ぶりなんですけれどね。
なるほど、高校生活のやり直し……私も人生をやり直しているようなものだから似たようなものかもしれませんね。
くだらない嘘をつくような方ではないですし。これまでの十年間、この国のためにどれほど尽力してきたのかも知っておりますから、私としては好きなようにしていただいてなんの文句もございません。
それに……本当にそれだけが理由かどうかはわかりませんけれど、頼れる味方であり同志でもある運命さまが近くにいてくださるというのは、私にとってメリットしかないですから大歓迎です。
「それじゃあ、四葉葵、武富京吾、夢神創の三人は協力して階層主を倒してくること」
ありがたい……一刻も早くレベルアップしたい私にとっては別メニュー願ってもないこと。
そして……夢神創。
入学以来、ずっと気になっていた。
ダンジョン未経験者のはずなのに、なぜ特別クラスに居るのか?
そして勇者である運命さまと知り合いらしく、とても仲が良い。手作り弁当を授業中に食べさせるほどには。
間違いない。ただものであるはずがない。もしかすると、運命さまが入学してきたのも、あの夢神創と関係があるのかもしれない。
接近する機会を伺っていましたが、これはチャンスですね。この機会に親しくなって出来れば秘密を探りたいところです。
武富京吾さまに関しては……まあ根が悪い方ではないのですが、あまり積極的に関わりたいタイプではないのですよね。決して前世で受けた嫌がらせを根に持っているわけではないのですよ。ええ、決して。
「よろしくお願いします夢神さま。昨日初めてダンジョンに入ったのでは不安でしょう? でも大丈夫、十階までは何度も行ってますからお任せください」
昨日の様子だと、ダンジョンに初めて入ったことに間違いはないようですが。少なくとも表向きは。
『ブヒイイイイイ!!!!』
フロアボスが魔法陣から出てくる前に倒した……!?
「……出てくる前に瞬殺するとは……正直驚きました」
「え……? もしかして出てくるまで待っていないと駄目でした?」
「いえ……駄目ではないのですが、完全に出てくるまではダンジョンに守られているので、攻撃が通らないのです。ですので、普通はそんな戦い方はしない……というか出来ません」
やはり……これまでの研究理論は間違っていなかったようですね。もっとも無属性の人間などこれまで存在していなかったので、確認しようがなかったのですけれど。
「なあ……もしかして、今のって夢神が無属性っていうのに関係があるのか?」
「あら……てっきり脳みそに筋肉が詰まっているのだと思っていましたが……」
ヒントをあげてしまいすぎましたね。やはり歪んではいても馬鹿ではない。
内心武富さまの評価を少しだけ上げる。
「あはは、僕、昔から運が良いみたいなんです」
「そういうレベルの話じゃないんですけどね。とにかくそれは夢神さまのものですから、大切になさってください」
……低層階しかも五階の宝箱から転移石が出現ですか……そんな例、この十年で一度も無いんですけどね。
やはり無属性の影響なのでしょうか? それとも本人が言うように強運ゆえなのか。
夢神創――――
15年前の航空機墜落事故で唯一奇跡的に生き残った赤ちゃん。
奇しくも事故現場はこのフジヤマダンジョンが出現した場所だった。
偶然なのかそれとも……判断は出来ませんね。今はまだ。




