第二十一話 フロアボス戦
ズズンッ――――
初のボス部屋にドキドキしつつ中に入ると、後ろで重い音がして扉が閉まったことが背中越しに分かる。
扉が閉まった瞬間、部屋の中央の床に刻まれている魔法陣のようなものが輝きだし、光の中から大柄の影がズルズルと這い出して来るのが怖い。
『ブヒイイイイイ!!!!』
まるで本物の豚みたいな雄叫びを上げながら棍棒を振り上げ襲ってくる――――
――――前に、先手必勝、オークを蹴り飛ばす。
まだ魔法陣から身体半分程度しか出てきていなかったオークは光の粒子となり、コインと肉塊をドロップして消える。
ドロップ品は……ダンジョンコイン五枚か。これだけだと割に合わない気がするけど、お肉があるからな。オークの肉は高級品として有名だから僕も知っている。こんな風に塊で出て来るとは知らなかったけど。
床の魔法陣の輝きが消えると、何もなかったはずの場所に、上の階へと続く階段が出現する。
「……出てくる前に瞬殺するとは……正直驚きました」
珍しく四葉さんが固まっている。
「え……? もしかして出てくるまで待っていないと駄目でした?」
もしかしたら出てくるまで攻撃が通じないかもしれないと思っていたんだけど、大丈夫だったから問題ないよね?
「いえ……駄目ではないのですが、完全に出てくるまではダンジョンに守られているので、攻撃が通らないのです。ですので、普通はそんな戦い方はしない……というか出来ません」
そ、そうなんだ……ま、まあ結果オーライということで。
「なあ……もしかして、夢神が無属性っていうのに関係があるのか?」
「あら……てっきり脳みそに筋肉が詰まっているのだと思っていましたが……」
意味深に微笑む四葉さん。京吾くん……なんでニヤニヤしているの!? 貶されていたんだよ!?
「実に興味深いですね……夢神さまは」
なんだかジッと見つめられて恥ずかしい。
「やるな夢神」
肩を組んでくる京吾くん。え? よくわからないけどいきなり距離近くない?
同性の友だちってほとんどいたことがないからとまどってしまう。
「ほら夢神、次が詰まっているんだ、早く宝箱回収して行くぞ」
「宝箱?」
「フロアボスやエリアボスを倒すと宝箱が出現するんです。たまにレアなものが入っていることもありますが、低層階ですからあまり期待しない方が良いですけれど」
おおっ!! なんというワクワク感。もらえるなら何でも嬉しい。
「これは……? 何だろう」
宝箱の中に入っていたのは……石?
「……驚きましたね。まさか……低層階で転移石が出るなんて……聞いたことないです」
「て、転移石ってマジかっ!? 夢神、お前それ億単位で取引されている超レアなアイテムだぞ……」
えええっ!? よくわからないけど、なんかすごいものを手に入れてしまったらしい。
「あはは、僕、昔から運が良いみたいなんです」
「そういうレベルの話じゃないんですけどね。とにかくそれは夢神さまのものですから、大切になさってください」
「おう、闘ったのは夢神だからな。俺たちに遠慮はするなよ?」
さすがは超が付くお金持ちな二人。分け前を寄こせなんてプライドが許さないんだろうな。僕としては三人で分けた方が気が楽なんだけど、先手打たれてしまった。はあ……。
「今回の目的は十階の階層主を倒すことだから、なるべく戦闘は避けて最短距離で行きます」
そう、時間制限もあるし、各階層をじっくり攻略している暇も余力もない。
偶発的な戦闘を除いて、ほとんど戦うこともなく、僕たちは第九階層まで到達する。
正直言って、四葉さんと京吾くんが優秀すぎて僕の出番が無かったとも言う。
「……スケルトンですか。丁度よい機会です。夢神さま、闘ってみますか?」
「スケルトンは厄介だが……夢神の無属性とやらの力を確認するのにちょうど良いかもな」
通路をふさぐように集まっている骨だけの剣士。落ち窪んだ眼球部分だけが怪しく光っているのが不気味で怖い。
アンデッド系モンスタースケルトン。僕に倒せるだろうか?
「夢神さま、スケルトンの弱点は他のアンデッドモンスター同様火ですが、それですとせっかくの素材が台無しになってしまいます。彼らの魂である剣を奪うことが出来れば無力化します」
「そうなんだよな……倒すだけなら燃やしてしまえば良いんだが、無力化するのは骨が折れる。スケルトンだけに……」
そもそも炎は使えないし、ここは剣を奪うしかないよね。
動きは……速くない。
狙いは手首……剣が振り下ろされる前に懐に飛び込んで手首を捻じり上げる。
バキャッ!!
骨が砕ける音がして、剣を失ったスケルトンが崩れ落ちてゆく。
スケルトンに驚きや恐怖といった感情は無いようで、仲間が目の前で倒されてもまるで動揺はみられない。次々と斬りかかっ来ようとするけど……遅い。
振りかぶってくる分隙が出来る。飛び込む勇気さえあれば何という事もない。
バキャッ!!
バキャッ!!
バキャッ!!
バキャッ!!
「ふう……これで最後」
最後の一体の剣を奪って戦闘終了。終わってみれば一方的な結果だったけど、弱点を教えてもらっていなければ、ここまで楽にはいかなかったはず。
「あら……スケルトンじゃあ物足りなかったみたいですね」
ふふふと微笑む四葉さん。
「っていうか四葉さん、スケルトンの骨って、あんなに簡単に砕けるものかよ!?」
「簡単そうに見えますけど、相手の勢いや重量を使って力を一点に合わせているのですよ。夢神さま自身はほとんど力を入れていないはずです」
……見られながら戦うのって恥ずかしいよ。
「スケルトンの骨は骨粗しょう症などに効果が高く、健康食品にも多く取り入れられています」
骨を拾い集めている間、四葉さんが教えてくれる。
「……この古い剣は?」
「そちらは観賞用の骨董品としての価値、それから……柄の部分の宝石や金属も素材として価値があります。物理攻撃がほとんど効かないので倒すのは大変ですが、その価値は十分にありますよ」
なるほど、価値があるならリュックに入れておこう。不知火さんに喜んでもらいたいし。
「さあて、次はいよいよ十階だな。俺もたった三人で階層主倒したことないが、まあなんとかなるだろ」
「ご安心を、私は単独で倒したことがありますので」
えええっ!? 一人で階層主倒せるの四葉さん!?
ちょっと引きつった表情の京吾くんと相変わらずあまり感情を出すことのない四葉さん。
僕たちは十階への階段を登り始める。




