第十七話 黒崎 零の本音 後編
やばい……これは……本物だ。
握手した瞬間に理解した……いや正確には理解できないことを理解させられたのだが。
あまりにも力量に差がある場合、相手の強さを把握することが出来ない。たとえば私と運命さまが握手した場合、運命さまからは私の力量は丸裸だろうが、私の側からは運命さまの力量はわからないように。
夢神という少年の強さの上限がまったく見えない。まるで富士山と握手しているような感覚になる。
試しに思い切り手を握りつぶしてみたが、涼しい顔でニコニコしている。私は装甲車ですら握り潰せる握力なんだがな……。
そういえば……男性の手を握るなんていつ以来か覚えていない。冷静になったら急に恥ずかしくなってきた。手汗がヤバい。変に思われていないだろうか?
「お、おい、夢神、も、もう大丈夫だ、離していいぞ」
頬が熱い……体中が熱を持っているみたいだ。
「どう? わかったでしょ。じゃあ創くん次は私と手を繋ぎましょ」
「はあ……信じられませんがどうやら本当のようですね」
何とか冷静さを取り繕うので精一杯。
仲良く手を繋いでいる二人がなんだか微笑ましいな。強さは化け物並みなんだけど……。
なまじ手を繋いだことでどうしても意識してしまう。はあ……本当に可愛いな。頭撫でたいなんて言ったら駄目だろうな……。
「あの……手を繋ぎますか?」
「え? 良いの? って、先生をからかうんじゃない」
しまった!? 私としたことが表情に出てしまったか。しかも無駄に反射神経が良いから手を差し出してしまった。今更引っ込めるわけにもいかないし恥ずかしいこと極まりない。
それにしても夢神は最高だな。
可愛いし、強いし、気がつくし。
いやいや、何を考えているんだ私は。私と夢神はあくまで先生と生徒。年齢だって結構離れているし……でも、それを言うなら運命さまだって……ひいっ!? 殺気が……殺される!?
「特別クラスは今日からダンジョンへ入るぞ」
経験者ばかりの特別クラスは当然初日からダンジョンへ入る。座学も大切だが、ことダンジョンに限れば実戦と経験に勝るものはないからだ。この子たちを在学中どこまで引き上げられるかは、私の力量にかかっている。
「先生、夢神はまだダンジョンに入ったことないんだ。大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ、問題ない」
那須野よ、あの子は私よりも強いんだ。問題などあろうはずがない。
ふむ……ダンジョン三階レベルならまったく問題ないか。
ここまで実習を見させてもらったが、思った以上にレベルが高い。
明日からはもう少し階層を上げてみても良いだろう。
「最後はお前たちだな。課題はそうだな……ストーンテイルリザードを協力して倒してみろ」
運命さまと夢神が居る時点で意味があるのかわからないが、先生として何もしないわけにもいかない。運命さまによれば、夢神は強さに自覚が無いらしい。那須野には悪いが許せ。
「えええっ!? この階層最強のモンスターじゃないですか!? 無理ですよ先生」
「大丈夫だ那須野、なんのために私がいると思っているんだ。さあ、時間が無いから急ぐぞ」
おそらく地球上で最強クラスの人間が三人もここに居るんだ。私はストーンテイルリザードに同情しているよ。
ストーンテイルリザードは、その名の通り尻尾の先端に大きな石が付いているオオトカゲ系のモンスターだ。その分厚い鎧のような皮膚に守られた防御力と尻尾の振り下ろし攻撃はなかなかの威力があるので、低層階とはいえ、若干の注意が必要ではある。
『グルルル……』
二メートルほどあるストーンテイルリザードが姿を現す。
「いいか、ストーンテイルリザードは尻尾攻撃だけ注意すれば問題ない。背中に攻撃は通らないから、ひっくり返して柔らかいお腹を狙え」
「「はいっ!!」」
運命さまは見ているだけか。当然だな。那須野は初めて戦うようだが、度胸が良いな。よく相手の動きが見えているしセンスを感じる。経験を積めば良い忍になりそうだ。
夢神は……なるほど、那須野のサポートに徹している……というよりも那須野に万一のことが無いように気にしているという感じだな。
「よし、ひっくり返せ」
「はいっ!!」
夢神がストーンテイルリザードをひっくり返す。勢い余って何回転もしていたのは見なかったことにしよう。
「よっしゃあ!! これで終わりだ」
無防備なお腹に那須野が腹パンを決めるとストーンテイルリザード動かなくなる。
うん、無駄のない良い戦いだったな。
「ストーンテイルリザードは肉も皮も全身素材になる。夢神が持ってやれ」
かなりの重量になるが、夢神なら余裕だろう。
「先生、尻尾の先端の石も素材になるんですか?」
「漬物石として使うと美味しくなると評判らしい。もっとも買い取り単価も安いうえに重いし嵩張るから持って帰る人はあまりいないがな」
初日のダンジョン実習としてはまあまあだったか。怪我人も出なかったし、生徒たちの力量も把握できた。
それは良いんだが……
「運命さま、さっき聞こえましたよ、どういうことですか婚約者って!!」
聞こえないふりをしたが、ばっちり聞こえてしまった。いや、運命さまのことだから、私が居るのを知っていて話していたのだろうが。
「なあに? もしかして気になっちゃう? 零ったらもしかして創くんのこと……」
「うわあああっ!? ち、違いますって、か、可愛いとは思ってますけど……」
……我ながら何の誤魔化しにもなっていないな。反応でバレバレではないか。
「あはは、私は気にしないから零もその気があるのなら頑張りなさいよ。創くんさえOKなら私は構わないと思っているし」
そんなつもりはなかったんだが、冷静になって考えてみると、私もそろそろ真剣に結婚を考えなければならない年齢だ。レベルアップ効果で肉体は若いままで維持出来ても、いつまで子どもを産めるのかまではわかっていない。
「どうしたんですか、先生?」
「な、何でもない」
くっ、油断も隙もない可愛さだな。あと数年もしたら相当な美男子になることは間違いない。
そうなったらライバルも増えるだろうし……。何とかアピールしたいところだが、経験が無いからどうしていいかわからん。今度さくらに聞いてみようかな……。
「あの、先生」
「ひゃうっ!? な、なんだまだ居たのか!? どうした?」
「僕の紋章黒いままなんですけど、どれくらいで紅蓮になれるんでしょうか?」
なるほど……クラスメイトは全員紅蓮以上、中には金色のものまで居るからな。可哀そうに気にしていたのか。
だが困ったな。夢神の紋章は初期状態の黒じゃなくて、運命さまと同じ伝説クラスの漆黒なんだがな。
運命さまに止められている以上、事実を伝えるわけにもいかないし……。
「とりあえず運命さまに相談してみると良い」
丸投げさせてもらった。




