第十五話 暗闇エリアのアンデッド
「他にも行っておいた方が良いエリアってあるの?」
「まあな、でもなあ……あんまり気が進まないというか……行ったことないというか」
歯切れの悪い那須野さん。
「暗闇エリアだね。アンデッド系モンスターが居る場所だよ。人気はないけど行ってみる?」
那須野さんに代わって運命さんがニヤリと笑う。
うええ……アンデッド系か……正直行きたくないけど、経験しておいた方が良いんだよね?
那須野さんは嫌がっていたけど、運命さんがごり押しして結局行くことになった。
「うわあ……なんか薄暗くてジメジメしてますね……」
日がほとんど入って来ない暗闇エリアは人気がないのか、忍の姿もまばら。それに……変な匂いもするしたしかにあまり好んで来たい場所ではないかもしれない。
「このエリアにはミイラが出るよ」
運命さんが教えてくれる。ミイラってあの包帯グルグル巻きのやつだよね?
ゾンビとかじゃないだけマシなのかな。
「ゾンビはもう少し上の階だね」
うええ……やっぱり居るんだ。触りたくないしできればスルーしたいところ。
でも、アンデッドってどうやって倒すんだろう?
「倒し方は主に二種類。火で燃やすか、包帯をぐるぐる回して取ってしまうか。燃やすと経験値は入るけど、素材は手に入らない。ミイラの素材は包帯、一体分の包帯で十万円はくだらない」
包帯か……買い取り価格は高いけど、ミイラの包帯を剥がして回収するって精神的に来るものが……。
「ミイラから取れる包帯は大怪我でも治せる貴重な医薬品になるからね。常に品薄なんだよ」
足りないときは医師や看護師の忍が直接ミイラを狩りにくるらしい。高級なポーションでも代わりにはなるけど、高級ポーションも品薄だから結局は入手しやすいミイラの包帯の方が現実的なんだとか。
「でも、燃やすってどうやって?」
「そうだね、ほら、あんな感じだよ」
少し離れたところでミイラと戦っている生徒がいる。あれは……武富くんと名前の知らない取り巻きくんだったかな?
「ふん……汚らわしい屍どもが。灰燼に帰せ、喰らえ『紅蓮の炎』!!」
武富君の手から炎が噴射されて、ミイラは文字通り灰燼となった。
「さすが武富さま!! もはや敵なしですな」
「ふふん、この程度で騒ぐな……おや? おおっ!! 運命さんじゃないですか!! ここで会ったのも運命的なものを感じますね、運命さんだけに。どうでしたか俺の力は?」
「……寒いギャグだな武富」
那須野さんの辛辣な言葉はまるで聞こえていないみたい。僕たちも一緒にいるんだけどまるで見えていないみたいに無視している。
それは別に良いんだけど、普通なら言えないようなことも堂々と言える京吾くんのアピール力は本当にすごい。
「え? ああ、まあ良かったんじゃない? 包帯が勿体無い気がするけどね」
「ははは、そうでしょう? 俺クラスになると十万程度のはした金じゃ動かないんですけどね」
単に嫌なだけじゃないのかと思ってみたりするけど、僕も嫌だから気持ちはわかる。
「おい武富、のんきにお喋りしている場合か! 次はお前の番だ。ミイラの包帯を剥げ!!」
「せ、先生っ!? そ、そんなあああ!?」
突然現れた黒崎先生に捕まってしまった哀れな武富君に合掌……。
「他人を憐れんでいる場合じゃないよ。二人とも」
運命さんが意地悪そうに口角を上げる。
「え……? 私もやるのか?」
「……僕も?」
「ふふ、もちろんだよ。ミイラごときでビビっていたら、この先やってられないからね」
「いやあああ!?」
「うわあああっ!?」
……無事、ミイラの包帯をゲットした……暗闇エリアで良かったのかもしれない。日の下で中身を見たくないからね……。
「そういえば武富君が使ってた『紅蓮の炎』ってもしかして魔法なの?」
忍はさまざまな魔法を使うことが出来ると聞いたことがある。
「あはは、あれはただのファイアだよ。炎系の初級スキルだね。レベルアップするとその人の特質に合わせて魔法……というかスキルが使えるようになったりする。炎系統はほぼ全員使えるようになるノーマルスキルだから、創くんも使える……あ、ごめん使えないみたい」
え……? ほとんどの人が使えるのに僕は使えないの? ということは、ミイラは包帯剝ぐしかないの!?
「運命さん……僕はこれからどうやってアンデッド系モンスターを倒せば……?」
「……殴る蹴るしかないね」
えええっ!? そんな……何その無理やり感……。
「運命さん、アンデッドに物理攻撃はあまり効果が無いのでは?」
那須野さんが当然のツッコミを入れる。
「普通はね。でも創くんは特殊系スキル持ってるから大丈夫だよ菜々ちゃん」
「特殊系スキル?」
首をかしげる那須野さん。
特殊系スキルってなんだろう? それ僕も初耳なんだけど。
「スキルっていうか……創くんの攻撃はわかりやすく言うと無属性なんだよね。普通は何らかの属性を持っていて、モンスターにも属性の相性とかあるんだけど……ものすごく雑に言えば、得意不得意が無くて、何にでもそこそこ効果があるってこと。これってめちゃくちゃレアなことなんだよ」
なんだか凄いんだかそうじゃないんだか微妙な感じだけど、ようするに普通の攻撃ってことじゃないのかな? 勇者である運命さんが言うなら大丈夫なのかもしれないけど、不安になってきた。
ただでさえ一人だけ未経験者で皆の足手まといになりそうなのに、誰でも使えるようなスキルさえ使えないなんて申し訳ない気持ちで一杯だ。才能が無いならせめて誰よりも努力をして迷惑をかけないようにしないと。
「那須野さん、運命さん、僕、皆の迷惑にならないように頑張りますね!!」
「おう、私も負けてられないな」
「ふふ、さっすが創くん。そういう前向きなところ大好き」
運命さんが我慢できないという風に僕を抱きしめる。
「ふわっ!? な、なな何してんだお前ら!?」
真っ赤な顔で動揺している那須野さん。僕も同じくらい動揺しているけど。
「ええ~? だって私たち婚約者同士だからね~内緒だけど」
「こ、ここ婚約者!? 本当なのか夢神?」
「え? う、うん……」
運命さん秘密にするって言ってたのに何で自分からバラすんだろう?
「そ、そうか……それなら仕方ないな」
なぜかショックを受けている様子の那須野さん。もしかして自分が邪魔だと思ってしまったのかな? 全然そんなこと無いのに。
「何も気にしなくて良いんだよ。僕には那須野さんが必要なんだから」
「ふえっ!? わ、私が必要!? そ、それって……」
今度は真っ赤な顔してる……もしかして都合のよい奴扱いをされたと思って怒らせちゃったのかも。言い方が悪かったかもしれない。うーん、どうすればいいんだろう。
「あはは、創くんの言う通りだよ。菜々ちゃんになら話しても良いかなと思ったから。私は気にしないから菜々ちゃんも遠慮することないからね」
「え、遠慮って、わ、わわ私は別にそういうつもりは……あ、ほら、先生が来たぞ」
気まずい雰囲気になりかけたタイミングで、黒崎先生が僕たちのところにやってきた。ふう……なんとか誤魔化せた……かな?
「最後はお前たちだな。課題はそうだな……ストーンテイルリザードを協力して倒してみろ」
ストーンテイルリザード? そんなモンスターいたっけ?
「えええっ!? この階層最強のモンスターじゃないですか!? 無理ですよ先生」
「大丈夫だ那須野、なんのために私がいると思っているんだ。さあ、時間が無いから急ぐぞ」
なぜかこの階層最強のモンスターを倒す羽目になった。那須野さんは心配そうだけど、黒崎先生もいるし、運命さんだっている。一番問題なのは僕なんだけどね。
せめて那須野さんに迷惑かけないように……いざとなれば僕が那須野さんを守るんだ。




