第十四話 ダンジョン三階 肉と亜人エリア
「次は肉を手に入れようか」
「いいね! お肉大好き」
野菜の時と違って、運命さんもノリノリだ。
それにしてもお肉か……赤牛くんの顔が頭に浮かぶ。
「うおおおおおお!!!」
肉素材モンスターが出現するエリアには、やはり赤牛くんが居た。中型犬くらいある大きなウサギやネズミと格闘している。
「あれは一角ウサギと吸血ネズミだ。見た目は愛らしいけど獰猛で人間を見ると襲ってくる。毒は無いけど刺されるとそれなりに痛いし、血を吸われると痒くなるから気を付けて」
血を吸われると痒いのか……蚊みたいでちょっと嫌かもしれない。
「うおお、これで終わりだ!!」
赤牛くんが一角ウサギの角を折ると動かなくなった。なるほど、角を折れば良いんだね。
「吸血ネズミは尻尾を切れば良い」
那須野さんが吸血ネズミの尻尾を引っ張ると、根本から簡単に切れて動かなくなる。
そうか、なんで武器も持たないでと思ったけど、三階くらいだと武器は必要ないってことか。
下手に武器を使って素材を傷つける必要なんて無いしね。
「おお!! 夢神くんたちも来たのかい? たくさん獲れたからステーキ祭りが出来そうだよ」
どうやら赤牛くんは最初からずっとここで肉を集めていたようだ。
「さすがだね、赤牛くん。手慣れているというか職人技みたいだった」
「あはは、まあね。実家の方針でずっとここで肉を集めさせられていたから……」
苦笑いする赤牛くん。なるほど、子どもでも容赦なくこき使うとは赤牛グループおそるべし。
「実家が商売しているのも大変だね」
那須野さんもそうだけど、やはり手伝わされるものなのだろうか。
「あはは、でも自分の食べる分くらいは自分で、というのもわかるからさ。現場を知ることも経営者の大事な仕事だっていつも言われているんだ」
なるほど、お金持ちなのに、それを鼻にかける所が無いのは、やっぱり苦労しているからなんだな。
「じゃあ早速夢神もやってみな」
那須野さんに促されて、僕も肉素材モンスターに挑戦する。
一角ウサギは目が合うと一直線に襲ってくるので追いかける必要が無いのはありがたいけど、さすがに角が生えているので普通に怖い。
あれ? でも思ったよりも動きが遅い。
ほとんどスローモーションに見えるから難なく一角ウサギをキャッチ。
角を折れば良いんだよね?
いかにも固そうな角だけど根元から綺麗に折れるって言っていたっけ。
パキッ
あれ? 簡単に折れた。全然力入れてないのに。
「おお!! 華奢なのに結構力あるんだな夢神」
「うそだろっ!? 夢神くん本当にダンジョン初めてなのかい!?」
目を丸くして驚いている那須野さんと赤牛くん。
そうやって僕の緊張をほぐそうとしてくれているんだと思うとありがたくて泣きそうになる。
同じ要領で吸血ネズミも捕まえてみる。
こちらも思った以上に簡単に仕留めることが出来た。
「角と尻尾はどうするんですか?」
「一角ウサギの角と吸血ネズミの尻尾は薬になるから、もちろん回収するぞ」
へえ……やっぱり捨てる所は無いんだ。素晴らしい。
「赤牛くん、僕たちは次のエリアに行くけどどうする?」
「ボクはここで時間まで肉を集めるよ。頑張ってね」
赤牛くんには実家からの肉ノルマが課されているらしい……君こそ頑張ってね。
心の中でエールを送りながら赤牛くんと別れる。
次にやってきたのは、洞窟が多くある場所。
「ここは亜人系モンスターが出る」
「亜人系モンスター?」
「この階だとゴブリンだな。素材にはならないんだが、ダンジョンコインを落とすんだ」
「ダンジョンコイン?」
那須野さんによれば、ダンジョンコインにはわずかに金が含まれているらしい。
「ゴブリンが落とすダンジョンコインじゃ大した稼ぎにはならないけど、もっと高レベルの亜人系モンスターが落とすダンジョンコインの中には、純金のものもあるんだよ」
えええっ!? それはすごい。
「運命さん、それは本当なのか? そんな話聞いたことなかった……」
那須野さんの目の色が変わる。
「あ……そ、そうだね、でも最低白金クラスにならないと無理らしいけどね」
「そうなんだ……やはり一攫千金はそんなに甘くないな」
厳しい現実に肩を落とす那須野さん。
金色までは時間をかければ誰でも到達可能だと言われているけど、その上のクラス……白金になるにはとてつもない経験と努力に加えて才能が求められる。誰もが到達できるわけではないらしい。
紅蓮から金色までが大体平均三年、金色から白金は十年かかると言われている。忍制度が出来てからまだ十年弱しか経っていない現状では、白金に到達していれば一流、トップクラスの忍だ。
黒崎先生のようにさらにその上、天空まで昇りつめた忍はもはや化け物、控えめに言っても天才では足りないレベルなんだとか。
「いたぞ、ゴブリンだ」
洞窟からゾロゾロと出てきた亜人系モンスター。
デキモノだらけの緑色の肌に赤く充血した瞳、はみ出した牙、後頭部にだけ生えているデッキブラシのような剛毛、下腹部が異様に膨らんだ餓鬼のような醜い容姿……知らずに出会ったら悲鳴を上げるだけの材料が揃っているのだが……
「……思ったよりも小さいんですね」
幼稚園児くらいの体格しかないので、幸い威圧感はそれほどない。まれに落ちているモノを装備していることもあるらしいけど、基本的に武器は持っておらず、丸腰。
一応人に近い形をしているので、いくらか抵抗感はあるけど、それ以上に生理的な嫌悪感が強い。
「悪意が人の形をしているだけの存在だからね。コミュニケーションは取れないし、気にするだけ無駄だよ」
運命さんの言葉に背中を押されて前に出る。向こうはもう臨戦態勢で、奇声を上げながら迫ってくる。
「まずは距離をとって……」
囲まれるのは嫌なので、先頭のゴブリンを足で押してけん制したら、煙のように消えてコインに変わった。
「あれ? なんかめっちゃ弱い?」
なんとなく素手で殴るのは嫌だったので、残りのゴブリンを次々蹴り飛ばす。
「やるじゃん夢神!!」
那須野さんが思い切りヨイショしてくれるからなんだか恥ずかしい。
「まあね、私は創くんと戦わなければならないゴブリンに思わず同情の念を禁じえなかったよ」
運命さんがジョークで和ませてくれるから、初めての亜人系モンスターとの戦いも無事終わらせることが出来た。
「ゴブリンが落とすダンジョンコインは一枚100円ってところかな」
一体倒しても百円か……コインだから嵩張らなくていいけど、わざわざ倒しに来るほどの旨味はないのかもしれない。見つかったら襲ってくるから仕方ないけど。
そのせいか、結構拾われずに落ちているコインもあったりする。ある程度のレベルの忍になると拾う手間すら惜しいらしい。一定時間経過するとダンジョンに吸収されて無くなってしまうので、コインだらけになるということはないみたいだけど。




