第十三話 ダンジョン三階 実習スタート
ダンジョンの三階へやって来たけれど、二階までとそれほど違いは感じない。人工物がやや少なくなったかな、という程度で、相変わらず人が多いし、まだまだテーマパーク感の延長線上。
「夢神は初めてのダンジョンだから、最初は野菜系モンスターが良いんじゃないかな? 私も狩り慣れてるし」
「うん、そうするよ」
那須野さんの提案で野菜系モンスターが出没するエリアへ移動することにする。
野菜系モンスター。
不知火さんによると、ダンジョン低層階に出没するモンスターは大きく分けると、野菜系、肉系、素材系、薬品系、その他に分類されるらしい。もちろん、モンスターが自己紹介したわけではなく、人間が勝手に分類しているだけだけど。
野菜系はその名前の通り、野菜の見た目のモンスターらしいけど、実際想像もつかないな。
「野菜系モンスターは、日当たりが良くて適度に湿度が保たれている場所を好むんだよ」
ダンジョンの内部は、どういう仕組みなのか太陽光のようなものが存在する。日当たりのよいエリア、暗くて日が届かないエリアなど、同じ階層でも出現するモンスターはそれぞれの性質に合わせて生息域が分かれているらしい。
「いたぞ夢神、レタスウォーカーだ」
那須野さんの声に緊張感が高まる。まさか……レタスが歩く……のだろうか?
「うわあ……本当にレタスみたいだね」
思ったよりも大きい。大玉スイカを二回り以上大きくしたようなレタスが、器用に葉をヒレのように使って歩いている。見たところ群れのようで、二十体くらいはいるように見える。
シュールだ……
「あれはどうやって倒すの?」
「まあとりあえず手本を見せるよ」
那須野さんがすごい勢いで群れの中に飛び込む。
「よし、なかなか良いサイズだ」
群れの中から一体のレタスウォーカーを抱えた那須野さんが満足そうに戻ってくる。
「レタスウォーカーは攻撃力がほとんどないからな。子どもでもなんとかなる。重量があるから収穫自体は重労働だけどな」
歩くために使っていた葉をべりッとはがすと、レタスウォーカーは動かなくなる。はがした葉ももちろん食べることが出来るので一切の無駄が無い。
「これでOKだ。簡単だろ?」
「うん、これなら僕にも出来そうだ」
群れの中から、一番小振りなレタスウォーカーを捕まえて収穫する。最初だけ怖いというかちょっと不気味だったけど、一度経験すればすぐに慣れるみたい。
収穫したレタスは配布された拡張リュックに入れる。明らかにレタスウォーカーの方がリュックの入口よりも大きいのに、吸い込まれるようにするりと入ってゆく。すごい性能にびっくりする。
「運命さんは獲らないの?」
「うん、私野菜は苦手だからね」
苦笑いする運命さん。なんだか好き嫌いの多い小学生みたいで可愛い。健康のためにも食べた方がと思うけど、運命さんめちゃくちゃ健康体だから強くは言えない……。
「レタスウォーカーは良い稼ぎになるし、お客さんからのニーズも高い。いつもなら獲れるだけ収穫するんだが、今日は仕事じゃないし、夢神のためにも他のモンスターを経験しておいた方がいいだろう」
「ありがとう、助かるよ那須野さん」
「き、気にすんなって。ほら行くぞ」
両手で手を握ったら目を逸らされた。本当に昔から謙虚で優しいんだよね、那須野さんって。
「あれが素材系モンスター、ウッドゴーレムだ。全身良質な高級木材として重宝されているな」
ウッドゴーレムは、直射日光の当たらないやや乾燥した場所を好むらしい。大きさは大人と同じくらい……いや、やや大きいくらいかな。
見た目はなんというか、デッサン人形みたいで、目鼻口などは付いていない。
「素材系モンスターには必ずコアがあるんだ。便宜上魔石と呼ばれている石なんだけど。そのコアを破壊するか、外せば動かなくなる。魔石は高く売れるし、有用な素材だからなるべく破壊しない方が良いけど、殴られるとバットで殴られるくらいの威力はあるから無理はするなよ。まあ動きが遅いから余程ボケッとしてなければ攻撃を喰らうことなんてないけどな」
魔石と呼ばれるコアは、赤く光っている宝石みたいな石で、ちょうどウッドゴーレムの心臓の辺りに嵌っている。
那須野さんは慣れた様子でウッドゴーレムの懐に入ると、あっという間に魔石を抜き取ってしまった。魔石を抜き取られたウッドゴーレムは、その場で動きを止めてオブジェのようになっている。
「ほら、簡単だろ? 夢神もやってみろ」
「うん、やってみる」
那須野さんは簡単そうにやっていたけど、モンスターの正面に立つのはやっぱり怖いものがある。思っていた以上にウッドゴーレムの動きが遅かったので、一度わかってしまえばなんてことなかったけれど。
「うわあ……綺麗だね魔石って。何に使うんだろう?」
ウッドゴーレムの魔石はまるでルビーのようだ。
「電池や半導体の代わりとして使えるんだよ創くん。純粋に宝石としての価値も高いけど」
「へえ……そうなんですね」
よくわからないという那須野さんの代わりに運命さんが教えてくれた。全然わかっていないけど、役に立つものだというのはわかった。
それにしても、レタスウォーカーもウッドゴーレムも捨てる所が全く無くて丸ごと素材として使えるのが素晴らしいよね。
「ウッドゴーレムから取れる木材は、圧力をかけることで潰したり、曲げたり、伸ばしたり、合板にしたり出来るからね。端切れを集めて再利用も出来るから一切ゴミが出ないんだよ」
運命さんが丁寧に教えてくれるからとても勉強になる。
「はあ……運命さんは物知りなんだな」
那須野さんも興味津々で聴き入っている。
「次は薬品系にしようか」
薬品系……たしかスライムだったっけ?
スライムから採取できるポーションは、傷や怪我を治す治療薬になるらしい。
「スライムは湿地帯にいるぞ」
那須野さんの案内で湿地帯を目指す。
スライムといえば最弱のモンスターのイメージがあるけれど、このダンジョンのスライムはどんな感じなんだろう?
「あれが低層階に生息しているブルースライムだ。一定のダメージを与えると縮んで動かなくなるぞ」
ブルースライムは、風船くらいの大きさで半透明のゼリーみたい。
プルプル震えながらゆっくりと移動している様子はなんだか癒される。
「見た目は可愛いけど、タンパク質を分解するから素手で触らない方がいいぞ。そらっ!!」
那須野さんがスライムを靴で蹴り上げる。
鞠のように空中に打ちあがったブルースライムは、途中で空気が抜けた風船のように小さくなって落ちてくる。
「これがスライムグミだ。小さくて持ち運びも簡単だから素材としても初心者向けだな」
消しゴムくらいのサイズの半透明の青い物体はたしかにグミのようにみえる。
「これ一つで買い取り価格は千円ってところだよ。普通に暮らすならスライムだけ狩っていても余裕だから上を目指さない人たちはスライム専業もアリかもね。経験値は絶望的に少ないけど、塵も積もればでレベルアップしないわけじゃないし」
たしかに安全に稼げてレベルアップ出来るなら言うことはない。もちろん上を目指すならより上の階層で強いモンスターと戦う必要があるけど、ゲームと違って死んでしまったら元も子もないわけだし。
ブルースライムから作られるポーションは、簡単な傷なら治ってしまうほどの高性能。需要はいくらでもあるけれど供給がまったく追い付いていないらしい。
普通の忍ならもっと楽に稼げる方法があるので、わざわざスライムを狙う人は少ない。そういう事情もあって、難易度に対して買い取り価格が高めに設定してあるんだとか。
どうしても足りないときは、忍高の授業でスライムを集めさせたりしているんだって。
「うーん、一定のダメージってどれくらいなんだろう? さっき那須野さん結構強めに蹴っていたよね……」
とりあえず適当なブルースライムを蹴ってみよう。
「えいっ!!」
パンッ!!!
「あ、あれ……!?」
おかしいな? 消えて無くなっちゃった。
パンッ!!!
パンッ!!!
パンッ!!!
何度やっても同じだ。スライムグミはどこ行っちゃったんだろう?
「……創くん、ちょっと良いかな?」
「はい、なんですか運命さん」
「強く蹴り過ぎだよ。もっとヒヨコ蹴るみたいに優しくね」
可哀そうだからヒヨコなんて蹴りませんけどっ!?
でもそうか……強く蹴り過ぎていたんだな。
「やった!! グミが出た!!」
ヒヨコを蹴るイメージで優しく蹴ったら上手く行った。蹴らないけどね、ヒヨコ。




