第十一話 紋章所持者の特権?
「ねえ、創くん私と結婚して」
「な、なんだ、そんなことですか……良いですよ……って、えええっ!?」
勢いでOKしちゃったけど、運命さんいきなりどうしたんだろう? 結婚って、あの結婚だよね?
「あ、そんな心配しないで。私は独占欲無いし、他に何人いても全然気にしないから」
「いや……あの、別に心配なんて……え? 何人いてもってどういう意味ですか……?」
逆に僕なんかで良いんですかっていう意味では心配したけど……
「……ん? そうか、創くんまだ知らないんだっけ? 紋章所持者は男女問わず重婚OKなんだよ」
「え……そうなんですか? 初耳です」
「まあね、その制度が出来てまだ数年しか経ってないし、そもそも非公開情報だから」
運命さんによると、最近の調査で紋章所持者の子どもには高確率で紋章が受け継がれるらしいということがわかってきたんだとか。まだサンプル数が少ないながら、一般的な紋章出現率が0,1%以下なのに対して、紋章所持者とそうでない者との間で40%、紋章所持者同士の間ではなんと75%以上という驚異的な確率で紋章所持者が生まれているんだとか。
そして、そのことで自然発生的な紋章所持者の数が減るということもないことが確認できている。
当然このことは一般には公開されていない情報で、政府は先手を打って紋章所持者を一気に増やすための政策へと舵を切ることにしたらしい。
なにしろ増え続ける需要に対して、供給を担う人材が圧倒的に足りていないわけだから、自然増に任せていたら手遅れになってしまうというわけ。
重婚を特例として認めるのはその一環で、実は忍高のカリキュラムは、男女が親密になるようなプログラムが多く用意されているらしい。寮の規約がユルユルなのも、学生同士が結婚することを奨励している国の方針に沿ったものなんだとか。
それなら男女別の寮なんて作る必要あるのかと思ったんだけど、
「障害があった方が燃えるんだよ、創くん」
なんて言われてしまった。
「えっと……僕は運命さんが好きだから嬉しいんですけど、もし運命さんが他に好きな人が居て、他の人と結婚しているのは悲しいので……僕は運命さん以外に結婚したいとは思わないです」
僕のつまらないわがままだっていうことはわかっている。運命さんみたいな素敵な人なら選びたい放題だし、僕にそれを止める権利も無い。
でも……言うなら今しかない。たとえ運命さんが他の人とも結婚したいと言ったからといって、僕は運命さんから離れるつもりはないんだけれど。
「きゃああ!! 嬉しい!! え、もしかして創くん嫉妬してくれてるの? 大丈夫、私は創くん以外の男なんて何とも思ってないから。他の人と結婚する可能性はゼロだよ。でもね、創くんはきっとそうはいかないと思う。君を必要とする子がこの先必ず現れる。きっと追い払っても無限に湧いてくると思うし、さっきも言ったけど、私は創くんを独占するつもりはないの。だから今はその気が無くても、遠慮はしなくていいからね」
なんでそんなことを言うのかよくわからないけど、運命さんには僕には見えないものが見えているのかな?
でも……もし僕を本当に必要としている人が現れた時、きっと拒絶出来ない気がする。運命さんはそういうこともわかっているのかもしれない。
というわけで、いきなり運命さんが婚約者になりました。紋章所持者といえども16歳までは結婚できないので、次の誕生日に結婚することに。
びっくりしたけど、家族が居ない僕にとって、新しい家族が出来ることは本当に嬉しいことで。
「それはともかく、時間が無いですよ運命さん」
残念ながら喜びに浸っている時間は無い。今日は平日、普通に学校があるのだから。
「やばっ!? じゃあまた後でね!!」
一階のレストランで朝食を一緒にとる約束をして、運命さんは自分の部屋に転移して行った。
うーん、転移って便利だな。今度教えてもらったり出来ないのだろうか?
「夢神さま、おはようございます。あら? そちらのお方はたしか……」
「おはよう不知火ちゃん、私は運命、世渡運命だよ。よろしく!!」
「っ!? し、不知火ちゃんっ!?」
今朝もビシッとお洒落して迎えに来た不知火さん。周りの男の人たちも鼻の下を伸ばしている。
そんな不知火さんだけど、何やら顔色を変えて運命さんとコソコソ話している。僕、耳が良いから全部聞こえているんだけどね。
『あ、あの……もしや勇者さまでは?』
『そうだよ、お仕事お疲れ様』
『はわわわ……まさかお会いできるなんて……はっ!? 夢神さまはこのことを?』
『もちろん知っているよ。婚約者だし』
「こ、ここここ婚約者ああああああ!? ってアイタッ!?」
「声が大きいよ不知火ちゃん、ちょっと落ち着こうか」
「――――というわけで、私と創くんはめでたく婚約することになったの」
「……あの、というわけでだけでは意味がわからないのですが……」
「まあ細かいことはいつか話すから。不知火ちゃんも頑張ってね、好きなんでしょ?」
「はわわわっ!? ど、どどどどうしてそのことを……って、いや、私は純粋に仕事として……」
「まあまあ、隠さなくたってバレバレだから。応援はしないけど、創くんが良いなら私は拒否しないからそこは安心していいよ」
「……あの、さっきから二人で何のお話?」
「うわあああっ!? な、何でもないです、夢神さま、さ、さあ、学校へ行く時間ですよ」
「う、うん……?」
「ほら、早く行こう、創くん」
顔を真っ赤にして挙動不審な不知火さんと別れ、運命さんと教室へ向かう。
「特別クラスは今日からダンジョンへ入るぞ」
開口一番、黒崎先生からとんでもない発言が。
えええっ!? 僕まだダンジョンのこと何も教えてもらってないんだけど。
「先生、夢神はまだダンジョンに入ったことないんだ。大丈夫なんですか?」
すかさず那須野さんがフォローしてくれる。
ありがとう……那須野さん。本当は僕が自分で言わなければいけないのに……
「大丈夫だ、問題ない」
黒崎先生は、僕と運命さんをチラリと見てあっさり言い切る。
そ、そうだよね。最強の忍である黒崎先生と、勇者である運命さんがいるんだから危険なんてあるわけない。むしろ世界一安全まである。
それに特別クラスは効率良く高レベルの忍を育成することが最優先なんだから、上に合わせるのは理にかなっているんだ。
「他の皆も多かれ少なかれ不安はあるかもしれないが、ことダンジョンに関しては、経験と実践がすべてだ。教室で学べるものは何もない。覚えておけ!」
先生はああ言っているけど、やっぱり何も知らずに行くのは不安だったりする。
昨日、不知火さんにダンジョン基礎知識を色々教えてもらっておいて本当に良かった。




