第十話 運命の決断
―― 世渡 運命視点 ――
はあああ……やっぱり創くん可愛い……。
思った通り……いいえ、想像以上に理想的な美少年になっていて、お姉さんドッキドキ。
話してみて分かったけど、あの頃のまま真っすぐ素直に育ってくれたみたいで嬉しい。
でも成長期真っ只中みたいだから、あと四、五年もしたらたくましいイケメンになってしまうんだろうなあ。
それはそれで良いんだけど、可愛い創くんを楽しめるのは今だけなんだよね。
頑張って自由を手に入れた私、グッジョブ。
それにしても……あの頃でさえ化け物みたいな強さだったけど、あらためて鑑定したら測定不能とかどうなってんの。まあ五歳児が魔王をボコるくらいだから当然なのかもしれないけど、自信過剰になっていた自分に喝を入れることが出来たから良しとしないとね。
でも……どうやら本人は自分の強さに気付いていないみたい。
零を担任教師として送り込んで正解だったわ。
私より強いって言っても信じてもらえなかったけど、鋼鉄板ですら握りつぶす零が全力で握手しても創くんが涼しい顔をしていたから信じてもらえたみたいだけど。
それにしても零のヤツ、チョロいにも程があるよね。手を握られたぐらいで挙動不審になるとか。小学生か!!
まあ男の免疫ゼロに加えて強さを信奉している零にとって創くんはさぞかし魅力的だろうというのはわかるけど。今まで零より強い男なんていなかったし。それにどうやら年下好きとみた。あの感じなら私が何も言わなくても大丈夫そうかな。
それにしても創くんのあの異常な強さ。
創くんが夢の世界だと言っていたことに秘密があると思うんだよね。
あくまで仮説段階だけど、創くんが夢の世界だと思っている場所はおそらく私が居た異世界のどこかに繋がっているはず。でなければ私が創くんに出会うはずない。
そして私と創くんが出会った日に出現したダンジョン。
あれは私を異世界から連れ戻したことで起きた現象なのではないかと疑っている。違うかもしれないけれど、タイミング的にそう考えた方が自然。
創くんと私が出会った場所は、間違いなく魔王城の最奥部だったはず。実際に創くんも魔王と出会っているから間違いない。
でも創くんたちと出口を探して歩き回ったあの場所は、魔王城のようで魔王城ではなかった。
どういうことなんだろう? 魔王城と創くんの居る場所が繋がって融合した?
そもそもの話、あんな小さな五歳児がどうやって超高レベルのモンスターを倒していたのか?
あの一緒に居た聖獣に秘密があるのか? わからないことばかり。
創くんの夢の世界に同行することに成功した!!
帰れることはわかっていたけど、行けるかどうかは一種の賭けだったから嬉しい。
あらためて色々わかったことがある。
どうやら創くんの能力? は、おそらく夢のゲートを通じて異世界へ転移できるものだということ。そしてその時に創くんに触れていれば一緒に転移可能。
装備に関してはどうやら持っては行けないみたい。寝るときに身につけていた装備は持ってくることが出来なかった。
そして一番衝撃的だったのは、創くんが描いたものを異世界で具現化出来るということだ。
そんな出鱈目なスキル聞いたこともないし、とても信じられないけれど、あのお菓子に変換してしまう銃を見てしまうと信じざるを得ない。
あの化け物じみた力は、高レベルモンスターを倒し続けたことで異常なほどレベルアップしているためだろう。
その証拠に、創くんたちは、災害級指定モンスターであるレッドドラゴンを、この辺で一番弱いトカゲだと言っていた。つまり、創くんたちが遊んでいる場所は、とんでもないレベルの魔境。
唯一残念なのは、夢の転移では戦利品を持ち帰れないことかな。
でもレッドドラゴンを倒したことで、久しぶりに私もレベルアップしたし、修行の場所としては最高なのかもしれない。
――――と、それはいいんだけど、
「じゃあ、じゃんじゃん焼いて行きましょうか」
そう言ってレッドドラゴンのステーキを焼き始める創くん。
さすが最強クラスのドラゴンの肉は脂も極上ね……香ばしさの中にほのかな甘みを感じられて匂いだけでご飯三杯はいける……って、そうじゃない。
ちょっと待って、なんでこの家、水道、ガス電気エアコン完備なの? おまけに最先端キッチンに調味料も完備しているし。
ああ……そうか、創くんが向こうで描いておけばこちらで具現化出来るって言ってたっけ。
うーん、たぶん私が描いても駄目なんだろうな……今度創くんに頼んで欲しいもの描いてもらおう。うん、そうしよう。
「うんまああ!!!!」
レッドドラゴンの肉は火属性に対する耐性を上昇させ、寿命が延びるといわれている。
私は考えるのをやめて、ひたすら食べまくった。だってこっちでいくら食べても太らないなんて夢のようじゃない。ふふふ。ナニコレ、天国か!!
マズいなあ……出来なかった高校生活を創くんとやり直すつもりだったけど、そんな悠長なこと言っていられなくなっちゃった。
ちょっと強引だけど、予定変更、早めに動いた方が良いかもしれないね。
◇◇◇
「起きてください運命さん、そろそろ起きないと朝食の時間がなくなりますよ」
まったく起きる気配が無いので、仕方なくベッドで寝ている運命さんをゆすって起こす。
「ん……うーん、もう食べられない……」
どうやらまだ寝ぼけているみたい。
「運命さん、ほら起きて」
「うにゃあ……創くん……私、朝が弱いの~歩けないから抱っこして」
猫みたいにふにゃふにゃな運命さんを抱き上げてソファーへ。
「っていうか、転移を使えば良いじゃないですか」
「ええ~、せっかく創くんがいるんだから、そんなもったいないこと出来ない」
何がもったいないのかよくわからない。
「ねえ創くん……」
突然真剣な表情で見つめてくる運命さん。な、なんだろう?
「な、何ですか運命さん?」
普段猫みたいな運命さんの真面目な様子は妙に迫力がある。
運命さんが真剣な表情のまま僕の背中に手を回して言った。
「ねえ、創くん私と結婚して」




