6. 御者と侍女
侯爵子息であるハーヴィンから開放されたのは辺りが暗くなった頃で、屋敷に来ないかと言われたが丁重にお断りした。
この時間から帰るのも面倒だと宿屋を見つけ、今日はここで休むことにする。
シャワールームの付いた部屋は屋敷とは大違いだが掃除が行き届き、とても綺麗に保たれているようだ。
木製のベッドは少し硬めだが、一人暮らしの時もこれくらいのものだったと少し懐かしいくらいである。
「エレノア様、本当にこちらで良いのですか?マットレスも硬いですしやはり他の宿を…。」
「それは全然大丈夫!それより御者の人、迷惑じゃなかったかな…。」
「ロルフのことですか?彼のことは気にする必要ないかと。屋敷でも厩で寝てたような人ですから。」
「部屋は割り当てられてなかったの?」
「みたいですね。私も詳しくは知らないのですが、とても気難しい人らしいです。」
「へえ。彼は昔から公爵家に仕えているの?」
「いいえ。私と同じようにエレノア様がこちらに嫁がれた際に選出されたとか。」
「そう。」
「何か気になることでも?」
「馬車に乗るときに手を貸してくれるでしょ?その手がとてもごつごつして豆だらけのようだったから。御者の人は皆そんな感じなのかなと思って。」
「確かに馬の手綱を握っている仕事なので手はそれなりにはなると思いますけど、ロルフはまだ御者になってから初めての遠出ですしそこまで傷むことはないと思うのですが…。」
「趣味でなにかやってるのかな。野球とか。」
「野球とは?」
「ボール投げたり打ったりするスポーツかな。」
「クリケットのことですか?」
「クリケット…多分それに近いのかも。」
「そういうものは高貴な方々しか嗜みませんよ。」
「そういうイメージあるね。」
「旦那様も嗜まれるとか…。」
「うわ、全く興味ないや。それより、ミリアは?私の専属侍女になる前はハーヴィン様のところに居たってことはこのあたりの出身なの?」
「ミノラ地方の出身です。」
「険しい山に囲まれているとか。」
「はい。でもとても綺麗なところですよ。人の手が入ってないので村までいくのが大変ですけど。」
「行ってみたい!次の目的地はそこにしよう。この辺りからならいけるよね?」
「行けますけど、2日程掛かりますし。旦那様が心配されます。」
「心配?ないない。されても煩わしいだけだし、ほっといて欲しいくらいだよ。さ、そろそろ寝ないと明日早いよね。」
「はい。お休みなさいませ。」
やっと眠気がやってきたと欠伸を零してからベッドに寝転がれば久しぶりに動いたこともありすぐに寝入ってしまうのだった。