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4. カンノーロを求めて

初回の食べ歩きはリティル公爵と彼の専属侍女によって最悪な終わり方をしたが、少しは反省したのか。

お詫びとして世界各国のスイーツを毎日届けられていた。

ミリアと共にここ数日スイーツ三昧でシュークリームやケーキは勿論、見たことのないものまで色とりどりで見ているだけでも楽しい。


「今日はカンノーロですね。」


「カンノーロ?」


「はい!生地を金属の棒に巻き付けて揚げたもので、空洞部分にクリームをたっぷりと詰めたスイーツのことをそう呼んでいます。」


「美味しそう!早速いただきましょう。」


二人で手を合わせていただきますと挨拶を交わしてからパクリと口に含めば、パイ生地のサクサク感と甘さ控えめのクリームの相性は抜群だ。

ゆっくり味わって食べようと思っていたのにあっという間に食べ終わってしまった。


「…これもう一個食べたい。ミリア、カンノーロが売っている地方はここから遠いの?」


「馬車で3時間くらいでしょうか。」


「なら今から行こう!」


「え!?それはダメですよ!旦那様に私が怒られます…。」


「どういうこと?出掛けることを咎められる筋合いないと思うけど。」


「…。」


「私に話せないことなの…?」


「いえ!そういうわけでは…ただこのスイーツはエレノア様を屋敷に引き留めるために旦那様が用意しているものなので。」


「引き留めるってなんでだろ。外で悪口でも言いふらすとか思ってるのかな。そんなめんどくさいことしないけど。」


「違うと思います!ただエレノア様が心配なのでは…。」


「それはあり得ない。死んでくれなんて言う人がどう転んだら心配なんてするの?そんなくそ野郎のことは放っといてカンノーロ食べにお出かけしましょ!きっとさっき食べたバニラクリーム以外にも種類あるんだろうな~。楽しみ!」


リティル公爵のことなど最初から興味はない。

そんな私の姿に説得するのは無理だと諦めたのだろう。

馬車の準備をするべく部屋を後にしたミリア。

しばらくすると準備ができたと彼女が戻ってきたため、屋敷から出れば立派な毛並みの馬が質素ながらも精巧な装飾が施された馬車に繋がれているのが見えた。

御者によって開かれた馬車の扉を潜り中へと腰かければ、ミリアも続いて入ってくる。

早速窓の外へと視線を向けていたが、扉が閉まる音でそちらへと目を向ければ屋敷の奥にリティル公爵の姿が見えた。

遠目とはいえ怒気を含んだ視線に首を傾げながらも、勝手に馬車を使ったことにでも怒っているのだろうと決め込み視線を室内へと戻せば馬車が動き出す。


「馬車って意外と揺れないのね。」


「エレノア様が持参された馬車はとても精巧な作りをしていますからね。揺れを感じさせないように計算されているんだそうです。」


「これは私が持参したものなの?」


「はい。」


「それなら何で怒っていたのかな。まあ別に興味ないけど。」


「旦那様ですか…?」


「うん。さっき屋敷の中から睨んでいるように感じたから勝手に馬車を使ったことへの怒りかと思ったんだけど違ったみたいね。」


「エレノア様がお出かけになったからですよ。旦那様は屋敷に居て欲しいと思っているようでしたから。」


「居て欲しいってそう聞いたの?」


「いえ、でもエレノア様の好みを聞いて色々とご準備をされていたのでそうなのかと。」


「私の好みをねえ?流石の極悪公爵でもミリアに怪我させたのはバツが悪かったのかも。それなら納得できるわ。」


「違う気がしますが…。」


「そうかな~。でも死んでくれって言ってた人が急に興味持ったりする?それこそ変だと思わない?」


「…そう、ですよね。私もあの出来事だけは許すことができないです。」


「でしょ?どう考えても裏があるとしか思えない。」


そんなことを話しているとあっという間に時間が過ぎていったようで、少しずつ活気のある声が聞こえてきた。

屋敷のあった街程栄えてはいないが、レンガで舗装された道と両側に立ち並ぶお店の数々。

フォカッチャやチャバタ等が並ぶパン屋は勿論、お肉屋や八百屋等もあり生活の感のあるその光景はよく言っていた商店街を思い出させる。

道から少し外れたところで馬車が止まるとゆっくりと扉が開いた。


「ありがとう。」


3時間休憩することなく目的地へ連れてきてくれた御者の男性へ礼を述べてから街並みを体験するべく歩き出せば、焦ったようにミリアが付いてきているのが見える。


「ミリア、カンノーロ売ってるよ!ほら、クリームも苺にブルーベリーに桃花?」


「桃の花から作るジャムを混ぜたクリームですよ。」


「え、そんなのあるんだ!これ1種類ずつ全部下さい。」


「毎度あり。袋入れますかい?」


「いいえ、すぐ食べるので大丈夫です。ありがとう。」


満面の笑みを浮かべながら彼から受け取ると早速桃花からいただいてみれば、ふんわりと香る桃と少し甘めのクリームが最高に美味しい。

花のえぐみや苦味といったものは一切なく、どうやって作っているのか知りたいくらいだ。


「すっごく美味しい!これ本当に美味しいですね。」


「気に入って貰えたなら私も嬉しいですよ!まさかエレノア様がこんな辺鄙な所まで来て下さるとは思いませんでしたが…。」


「え?私のことご存じなのですか?」


「貴女様は有名人ですから。」


「ミリア、それってどういう意味?」


「リティル公爵様以外にも婚姻を申し込んだ方々がたくさんいらっしゃいましたので。」


なるほど。

確かにエレノア程の美人、男が放っておくはずもないかと妙に納得してしまう。

今の私のような性格ではなく、リティル公爵の言葉で自害してしまうようなか弱い女性はやはりモテるのか。

転生前に言われた隙がないという言葉を思い出し苦笑してしまった。

隙があるとは一体何だと常に思っていたがきっとエレノアのような女性のことなのだろう。

私には絶対無理だと二つ目のカンノーロを口に運んだのと同時に背中に感じる温もりに視線を上げれば、浅黒い肌に銀色の髪。

翡翠色の瞳が印象的な美青年が目の前に現れ流石に驚いた。


「だ、誰!?」


「君に恋する男さ。」


「キモ…。」


「ちょっと酷くない?初対面でこんなイケメンの僕をキモイだなんて…。」


「キモイ通じたのにちょっと驚いてるくらいだけど、この人誰?ミリア知ってる?」


「この街を治められているフェディ侯爵様のご子息ですよ。お久しぶりでございます、ハーヴィン様。」


「ミリアじゃないか。相変わらず君も美しいね。」


「ありがとうございます。お変わりないようで安心いたしました。」


「ミリア知り合いなの?」


「はい。エレノア様の専属侍女を賜る前にこちらでお世話になっていました。」


「そう…。」


上から下までハーヴィンと呼ばれた彼を見てみれば、確かにイケメンと言っても過言ではないことはわかる。

しかし、それを否定したくなるほどのナルシスト発言に自分の苦手な分類の人種であることはすぐに理解できた。

とりあえず彼はミリアに任せて気になっていたパン屋にでも移動しようと気付かれないようにそっと動いたつもりだったのだが、腕を掴まれそのまま彼の胸の中へと引き込まれる。

幸いにもカンノーロを食べ終わっていたから良かったものの、もし持っていたらせっかくのスイーツがダメになってしまうとこじゃないかと抗議の視線を向けるがハーヴィンは楽し気に笑みを浮かべるだけで全く意味をなしていない。


「ちょっとどういうつもりなんですか。」


「どういうつもりも何もエレノア。僕は君を気に入ってしまったんだ。」


「ハーヴィン様。エレノア様はリティル公爵様の奥様ですよ。」


「勿論知っているさ。でも彼は放任主義で外に愛人を作っても関知しないと聞いた。それなら僕が立候補しても問題ないだろう。」


「そ、それはそうですが…。」


「どうかな、エレノア。公爵家より劣るとはいえ僕は侯爵家の長男だよ。君に不自由させることはない。」


「爵位なんてどうでもいいですけど、私のどこが気に入ったんですか?初対面で人を好きになるとか全く以て信用できない。」


「恋とはそういうものだろう。カンノーロを食べながら幸せそうに微笑んでる姿を見て一目惚れしてしまった。それだけのことだ。」


「私、ものすごく性格悪いですけど。」


「あぁ、確かにいきなりキモイなんて言葉を掛けられるのは初めての経験だったね。でもそれも君の良さだと僕は思うよ。店主を嘘偽りなく褒めるその姿とかね。」


「…どこから見ていたんですか。」


「この街に入ってきたところからかな。」


「最初からですか…。もしかして暇人?」


「まあ確かに今の時期は暇してるよ。お祭りも終わったし、ブラブラしてたら君を見つけたんだ。」


「ブラブラって…。」


「エレノア様。ハーヴィン様は見た目と反して女性とは目も合わせられないようなシャイな方なんですよ?」


「これのどこが!?」


「ここ数年で変わられたみたいですが…。」


「変わってないよ。今でも女性は苦手だ。でもなんでだろう。君なら、エレノアならありのままの僕を見てくれる気がして衝動的に動いていたんだよ。」


「ありのままって?私、普通に女遊びの激しそうな人だなって思ってましたけど…?」


「でも僕の目、真っすぐ見てくれただろう。」


「いきなり後ろに現れたら見るしかないですよね。」


「君にとっては何でもない事みたいだけど、僕の瞳は翡翠石の力を宿しているから心を読まれると思われているんだ。まあ読もうと思えば確かに読めるんだけど。それ故に誰も僕とは目を合わせてくれないんだよね。特に女性は…。」


「え゙!ちょっと待って。心読まれるのは困る!」


私の穢れきった心の声がバレるのは非常にまずい。

こんな真面目な話を聞きながらあのフォカッチャは何味なんだろうとか考えてるのが聞こえるってことでしょ?

違うこと考えろと心で唱えて見てもそう簡単に行くはずもなく邪心しか思い浮かばない。

一旦冷静に考えよう。

読もうと思えば読めるということは常時聞こえてくるわけではないということで今読んでるわけではないという意味に捉えられる。

ということは別に問題ないのか!

そうか、それなら良かった。

焦った表情から満面の笑みを浮かべればクスクスと笑い声が聞こえてくる。


「あはは、そんなにフォカッチャが食べたいの?」


「まさか心読んだ!?」


「いや、君の視線がずっとあのパン屋を見ているからそうかなって。初対面の女性の心を読む程僕は無粋な人間じゃないつもりだよ。それに、エレノアを気に入っているのは本当のことなんだ。だから心を読まなくても通じ合えるような関係になりたいと思っている。」


真面目な顔でそんなこと言われたらどう返答していいかわからなくなってしまう。

こんな状況、今まで経験したことが無いのだ。

ミリアに助けを求めて視線を向けるが彼女は楽し気にしているだけで、助けてくれるつもりは無さそうで小さくため息を零すのだった。

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