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32. お屋敷

目を冷ますと見慣れない天蓋。

視線を彷徨わせながらそういえばアストールに来たんだったと思い出した。

聖なる泉のおかげか。

久しぶりに感じる身体の軽さに感動しながら勢いよくベッドから起き上がる。

吐き気も全くない!

一人万歳をしていると離れたところから笑い声が聞こえ、ロルフが口元を抑えながら笑みを浮かべていた。


「起きていきなり万歳するか…?」


「聖なる泉の効力凄いね!身体が軽いし、これならまたスイーツ巡り再開できそう。楽しみだな〜。」


「確かに顔色は良くなったみたいだが、暫くは様子見だ。シナが薬膳料理を作らせると言っていたからな。まずは元の体型に戻るのが大前提になる。」


「え、私太った?」


「痩せ過ぎだ。吐き気のせいで食が落ちていただろう。以前より大分軽くなった。元に戻るまでは外出禁止。」


「えーもう大丈夫なのに。ジュリアスよりロルフの方が厳しい…。」


「公爵は甘やかし過ぎだろ。エレノア様はしっかり手綱を握っていないとすぐに居なくなるからな。」


「私は暴れ馬か!」


「似たようなものだろう。」


「…お二人はとても仲睦まじいですね。」


「シナさんですよね?ご挨拶も出来ずすみません。」


「いいえ、問題ございませんよ。お食事の準備が整いましたので、こちらへ。ルドルフ様もご一緒にどうぞ。」


「あぁ。」


案内された部屋の机には綺麗に並べられた薬膳料理の数々。

軽く説明をすると早々に出て行ってしまう。

初対面のはずだが、もしかして嫌われているのだろうか。

彼女の態度はとても冷たく感じる。

いきなり押し掛けたからかな?

まぁ何が理由にしても嫌われているのなら仕方がない。

早く治して早々に退散しよう。

そんな事を考えながら食事へと手を伸ばした。


あれから1ヶ月。

ロルフの厳しい監視の中を抜け出すなんて出来るはずもなく、今日もまた美味しいスイーツに舌鼓を打ちつつ綺麗に咲き乱れる薔薇園に視線を向けている。

至れり尽くせりのこの状況はとても有難いのだが、シナから向けられる視線は相変わらず冷たいもので。

早く出て行けと言われているような気がしてならないのだ。

小さくため息を零しながら、少し冷めた紅茶に手を伸ばした。


「エレノア様!!!」


聞き慣れた声に視線を動かすと傷だらけの姿で立っているミリアが見え、いつもは整えられているメイド服はそこら中が破れかかっている。

視線が絡み合ったのと同時に大粒の涙をぼろぼろと流しながら立ち尽くしていた。

綺麗なドレスに身を包んている彼女に抱きつくなど、汚れている自分には出来ないと我慢していたが、そんな彼女を見兼ねて自ら抱き寄せる。


「よ、汚れますから…っ。」


「私は気にしないよ。ここまで来てくれてありがとう。」


「エレノア様ぁぁ!」


「ふふ。泣かないで。体調もすこぶる良いし、すぐに帰れると思うよ。」


「本当ですか?エレノア様が居なくなられてからお屋敷は光を失くしたように静かになってしまいました。領地で争いが起きたことで、公爵様はお忙しくされていますが…明らかに無理をされているようです。ライオネルさんの言葉すら届かなくなっていますし…。」


「領地で争いって…内戦ってこと?」


「いや、公爵の領地は国境にもあるからな。シナの話では領土を広げようと戦を仕掛けてきているらしい。」


「ロルフ?」


「アストールにも届くほどということは大掛かりなものになりそうだな。」


「…。」


「心配する必要はないぞ。公爵には戦王がついている。」


「戦王?ミリア、知ってる?」


「ライオネルさんのことですよ。リティル公爵家が豊かな土地ばかりを保有しているのに自国民に一切狙われないのは彼が大きく関わっているんです。」


「ライオネルが戦王…なんか想像出来ない。」


「普段のライオネルさんは温厚ですからね。最前線に出た時とは全く違います。」


「やけに詳しいね。…まさかミリアも戦に…?」


「そ、そそんなわけないじゃないですか!わ、私はただのか弱い侍女です!何もできませんよ!」


必死に弁明する彼女を見るとと挙動不審に視線を泳がせていた。

元聖騎士のロルフを筆頭に戦王のライオネル、自称か弱い侍女のミリア。

リティル公爵の周りには変わった人物が多いようだ。

彼の人柄が良いわけではないというのに逸材ばかりが集まるのは何故だろうか。

極悪公爵の顔を思い浮かべながら首を傾げるのだった。

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