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3. リティル公爵

旦那様もといくそ野郎との初対面は早々に幕を下ろした。

何しに来たのかは知らないが、彼との出会いはせっかくの楽しい企画を台無しにされた気がしてならない。


「旦那様にあのようなことを言ってよかったのですか…?」


「嘘は1つもついてないからね。それより、食べ歩きの続き。次はどこがおすすめなの?」


そう聞いてみれば納得してはいないだろうが、それ以上何も言ってこなかった。

次に案内された屋台はガレットにズッキーニやチーズ、ハーブを包んだもので良い匂いが漂ってくる。

早速お金を払って受け取ると、すぐさまかぶりついてみる。


「卵とかハムが入ってたのは食べたことあったけど、野菜とハーブの組み合わせは初めて…。」


「一般家庭だとこちらのガレットが主流ですね。ハムや卵は別の地方の作り方なんですよ。」


「私、こっちのほうが好きかも。」


「それは良かったです!でもそろそろお屋敷に戻りますか?旦那様が心配されますし…。」


「心配?するわけないでしょ。外に愛人作っても良いということは1日や2日帰らなくても問題ないということだろうし、私としてはこのまま遠出したいと思って…。」


いきなり強引に引かれた腕に最後まで言葉にすることが出来なかった。

強い力に痛みを感じ、イラッとしながら掴んでいる主へと視線を向ければ今さっき会ったばかりのリティル公爵と視線が合う。


「遠出を許した覚えはない。」


「は?」


「ミリア、このまま屋敷に戻るぞ。いいな。」


「は、はい!」


「ちょ、何なんですか。いきなり。」


流石に力では勝つことが出来無いようで、抵抗も虚しくそのまま屋敷へと連れて帰られた。

自室に辿り着くとやっと離された腕を擦りながら彼を睨めば、こちら以上に怖い視線を向けていることに溜め息しか出ない。

確かに、あそこで不遜な態度を取ったかもしれないがそんな怒ること?

私には興味ないんだからほっといてくれたらいいのに声かけてきたそっちが悪いんじゃん!

掴まれてた腕、腹立つくらい痛いし。

絶対痣出来てるよ。

どれだけ嫌いな相手でもエレノアは女性ってこと理解してくれないかな。


「…どういうつもりだ。」


「どういうつもりも何も、何でそんなに怒っているのか私に理解できませんけど。」


「遠出すると言っていたな。」


「別に問題ありませんよね?互いに愛人を作ることを許可しているのですから。」


「お前のような者に愛人が出来るとは思えないが。」


フンッと鼻で笑う姿に余計にイラッとするのがわかる。

転生前の私であれば確かにその魅力がないことは理解しているが、エレノアはどこからどう見ても非の打ち所がない程の美人な女性。

本気を出せば愛人の一人や二人作ることは可能だ。

きっと今まで作っていなかったのは政略結婚とはいえ転生前のエレノアがリティル公爵という名のくそ野郎に恋心を抱いていたのが理由だろう。

しかし、今のエレノアは彼に嫌悪感のみを抱いている私なのだ。

性格上愛人を作れるかどうかはわからないが、恋心のない分作らない理由はない。

くそ野郎にもそこをしっかり念頭に置いてもらおうと口を開いた。


「愛人が出来る出来ないなんて貴方には関係ないことです。」


「そうか?お前は私の言葉一つで自害しようとすると聞いたがな。」


「あれは一時の気の迷いですね。今の私に気持ちがあるとすれば貴方と同じ嫌悪感のみです。ですから用がなければ関わらないで欲しいです。」


「…っ。」


「どうぞ、さようなら。」


自室の扉を開け、早く出て行けと促せば彼の目が見開かれた。

しばらく立ち尽くしていた彼だったが諦めたのか、ゆったりとした足取りで部屋を後にする。

はあ、鬱陶しかった。

何で屋敷に戻されたかわからないが、楽しみにしていたはずの食べ歩きがくそ野郎のせいで無駄な時間を過ごしてしまったと大きなため息を零す。

それにしてもミリアはどこへいったのだろうか。

私とは別の場所へ連れていかれたようで部屋には居ない。

何もなければいいが…。

そんなことを考えながら彼女を探すべく部屋を後にした。

しばらく彷徨ってみたが見当たらず、そういえばと向かった先は以前聞いていた使用人のみが出入りするという場所で、聞こえてきた罵声に歩みを早める。


「…何をしているのですか。」


平静を装ってそう声を掛けてみたが、綺麗だったはずのメイド服がボロボロになっているミリアの姿に怒りが込み上げてくるのを感じた。

使用人達によって負わされた怪我ではあるが、リティル公爵の指示だろうか。

私に直接すればよいものを、専属侍女のミリアに手を出すなどありえない。

ふざけるな!

その気持ちが前面に出ていたのだろう。

侍女達の顔が引きつっている。


「これは誰の指示ですか。」


「…。」


「誰の指示だと聞いているのです。」


「ッヒ!」


「答えないということは貴女方の独断ですか?それともリティル公爵の指示?どちらにしても本当に腹立つ。私に手を出すのであれば納得も出来るけど、おかしいよね。ふざけてる?」


「…私たちはただ…旦那様のためを想って…。」


「ふーん、旦那様のためね。ということはこの責任は彼に取ってもらおうか。ミリア立てる?」


「…は、はい。」


「貴女達も付いてきて。」


私の言葉で身体を震わせながら付いてくる彼女達を横目で見ながら、リティル公爵の執務室の扉を開けはなった。

ノックもせずに開けたこともあり、どういうつもりだとでも言いたげな表情をしているが、こんなくそ野郎に礼儀なんて必要ない。


「…これ、どういうことか説明してもらえますか。」


「何がだ。」


「私の専属侍女ミリアの怪我、見えませんか?目付いてないの?」


「…見えているが、それと私とどう関係がある。」


「本当に察しが悪くて鬱陶しい。後ろにいる侍女は貴方の専属ですよね?その方々がどういうつもりか、私の侍女に手を出してきたんですよ。これ、誰が責任取るべきかくらいわかりますよね。」


「…何が言いたい。」


「この方々は貴方のためを想ってしたそうですよ。」


「何だと?」


「…も、申し訳ございません…。」


「謝られたところで過去を変えることは出来ませんから。貴方が誠心誠意を以てミリアに謝るのであれば今回のことは大目に見ましょう。それでいい?ミリア。」


「だ、旦那様に謝っていただかなくても!」


「それは私の気が済まないから却下。」


ミリアが止める理由はわかっているが、どうしても納得出来ない。

この極悪公爵は人に謝ったことなど一度たりとも無いとは聞いていたが、そんなことは今関係ないのだ。

リティル公爵が指示してないとしても専属侍女の彼女達がこういった行動を起こすということは、普段からそれを許しているということ。

身分の差があるとはいえ、許されるはずがない。

鋭い視線で睨みつけていると、持っていたペンを置き椅子から立ち上がった。

何をするつもりだと警戒していたが、ミリアの前に片膝をつく彼に驚き目を見開く。


「…私の侍女がすまなかったな。」


「そ、そんな…。私は…。」


「許してもらえるだろうか。」


「勿論です!!」


「それは良かった。お前たちは部屋へ戻っていろ。」


「は、はい!」


彼の言葉に身体を震わせながら出ていく彼女。

その目は恐怖に染まっており、私に対して怖がっていた時とは比べものにならない。

少し可哀そうなことをしてしまった気もするが、ミリアに怪我をさせたのだから当然だと思い直した。


「ミリアには許してもらえたがこれでいいのか。」


「…そうですね。ミリア、これでいい?」


「は、はい!」


「なら部屋に戻りましょうか。傷の手当てをしないとね。」


そう踵を返そうとしたが、いつの間にか移動した彼に腕を掴まれ動くことが出来なかった。


「ミリア、君は医務室で手当てを受けてきてくれるか?私は少し彼女と話がしたい。」


リティル公爵のその言葉にすぐに返事をすると部屋から出て行ってしまう。

こちらとしてはさっさとこの部屋から出て自室で過ごしたいのだが、まだ用があるのかと軽く溜め息を溢した。


「…話とは何ですか?」


「何があった。」


「は?」


「私の知っているエレノアではない。」


彼の言っていることは当然だ。

私は確かに以前のエレノアではない。

元々彼らが仲良しなのであれば転生前の彼女へ近づく努力もするが、自殺に追い込むようなくそ野郎が固執しているのはただ一つ。

従順な存在の方が自分にとって都合が良いからだろう。


「死んでくれと言われた際に貴方への想いは全て消えましたので、そう感じられて当然です。」


「…そうか。」


「わかっていただけたならもう二度と私やミリアに関わらないで下さいね。元々お互いの利害が一致したことで婚姻したわけですし、そちらさえ良ければ離婚も厭わないつもりです。それをご承知おきください。」


これで私の意見は全て言い終わったと軽く会釈をして扉へと歩けば、特に彼から言葉が発せられないということは同意見なのかもしれない。

そんなことを思いながら自室へ戻るべく歩みを進めるのだった。

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