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20. 旅立ちと兵士

あれから公爵が現れ、王子と無益な争いを繰り広げていたがそのお陰で早々に城から退散することができたので良しとしよう。

王家のお茶会に出ている間にミリアによって全ての準備が整えられていたようで、ロータリーの馬車には荷物が括り付けられている。

以前バイトしていた時に貯めておいたお金を手に戻れば、満面な笑みを浮かべた彼女が走り寄ってきた。


「エレノア様!」


「ミリア、準備してくれたんだね。ありがとう!」


「もちろんです!私も楽しみにしていましたから。」


「ふふ。あれ、御者の方は…。」


「俺が兼任する。」


「鎧姿だと大変でしょ?」


「問題ない。そろそろ出発するぞ。」


ロルフに促され、中に入ると待ちくたびれたという表情の公爵と澄ました表情のまま軽く会釈をしてくるライオネル。

だから前回の馬車ではなく広い作りのものが準備されていたのかと理解したが、何故二人が乗っているのだろうか。

問い詰めたいところではあるが、後ろにミリアが待っているため、取りあえず腰かければミリアが乗るのと同時に扉が閉められ動き始めた。


「何でいるの?」


「私が乗っていると不都合でもあるのか。」


「そういうわけではないですけど。ロルフとミリアだけだと思っていたので。」


「…ミノラ地方に用があっただけだ。」


「別で行けばいいのに。」


「何か言ったか。」


その言葉で公爵からギロリと鋭い視線で睨まれ、大きなため息を溢す。

本来ならミリアと楽しく過ごすはずの旅路は重苦しい雰囲気が漂っているが公爵とライオネルは我関せずで本を片手に素知らぬ顔だ。

こんなことならロルフの横に座ればよかったと後悔しながら無言の空間にただ耐え続けていたが、3時間ほど経った頃だろうか。

馬の休息も兼ねて立ち寄った小さな村。

あまりの息苦しさに即座にコーチから降り、ロルフの元へ移動する。


「もう限界…。」


「どうした。乗り心地が悪いのか?」


「ううん。揺れも少なくてロルフが凄いのはよく分かるんだけど…あの二人。」


続くようにして出てきた公爵とライオネルを示せば納得したようだ。


「次から隣乗っていい?あの空間には一秒たりとも居たくない。」


「コーチと違って乗り心地は悪いぞ。」


「それでもいい。もしかして迷惑かな…?」


「いや、俺はエレノア様が隣に来てくれるのなら嬉しい。」


「ほんと!?良かった。」


彼の言葉に安堵の息を吐いているとミリアが何かを調達してきたようで籠を片手にこちらに歩いてきた。


「エレノア様、ティータイムにしませんか?ガトーショコラが売っていたので買ってきました!」


「え、チョコのお菓子って貴重なんだよね?なかなか手に入らないって聞いたけど。」


「ここは小さい村ですけど、カカオを加工する職人がたくさん住んでいるとか。」


確かにこの村は甘い匂いがすると思っていたがカカオの香りだったのか。

地面に引かれたシートの上に準備されたケーキスタンドにガトーショコラやクッキーが並べられ、屋敷でのティータイムと大差ないほど綺麗に盛り付けられている。


「エレノア様、どうぞお召し上がりください。」


「二人も一緒に食べようよ。ティータイムは皆で食べたほうが美味しいし。」


「で、ですが…。」


ちらりと公爵の方を見たミリア。

私だけであればそれも許されるが、旦那様である公爵の前では身分を弁えなければならないようだ。

やっぱり邪魔だったと一緒に出掛けたことを早速後悔する。


「…ミリア。」


「はい。」


「お前はいつもエレノアと一緒にティータイムを過ごしているのか。」


「…それは…。」


「侍女の身分を弁えろ。」


「は?ミリアは私の専属ですよね。その私が許可すれば何の問題もないでしょ。」


「お前は線引が甘い。公爵夫人ならもう少し考えて行動を…。」


「はぁ、ほんと一緒に来るんじゃなかった。ミリア、ここからなら一度屋敷に戻れるよね?」


「は、はい。」


「気分悪いし帰る。アンタの顔なんて二度と見たくない。」


ミリアの用意してくれた紅茶を一気に飲み干すと、来た道を戻るべく歩き始めた。

あームカつくムカつく!

公爵夫人がなんだって?

いっそ死んでくれと言って服毒自殺させておいて今更その話するとか頭おかしいんじゃないの。

そもそもこっちとら夫人になりたくてなったわけじゃない。

親兄弟の顔だって覚えてないんだから政略結婚なんか白紙にしてやる。

確か、イライアスからのプレゼントの中に離婚するために必要な書類一式が入っていたはずだ。

雰囲気の和らいだ公爵に少しばかり期待し、公爵から申し出てくれるのを待つつもりだったがそれは判断の誤りだったと今理解した。

転生した私にとって唯一の拠り所でもあったミリアという存在を階級社会だから仕方ないなんて割り切れない。

こんなことならもう少し歩きやすい格好をすればよかったと後悔しながら坂道を歩いていると視界の端に入った光り。

何だろうと歩みを止めるのと同時に20人程の兵士に囲まれていた。


「お前がエレノアか。」


「そうだけど、私に何か用?」


「馬鹿正直に答えるやつがあるか。」


「うっさい。それで?何か用って聞いてるんだけど。」


イライラしていることもあって剣を向けられていようが関係ない。

ただでさえ、クソ野郎に馬鹿正直になどと言われて腹が立っているのだ。


「俺達はお前を攫うために雇われた。抵抗しなければ優しくしてやる。」


「それは聞き捨てならない。エレノア様を攫うつもりなら俺と本気でやる覚悟があるってことだな。」


いつの間にか目の前に移動していたロルフは後ろ姿だけでも怖いほどの殺気を纏い、イライラしていた気持ちが一瞬にして冷めていくのを感じた。

それと同時にこの異常な状況にやっと思考が追いついたようで、兵士達を伺ってみる。

見たことのない鎧姿だが、手練れなのか。

ロルフの言葉に笑みを浮かべ、余裕そうだ。


「元聖騎士のロルフか。情報通りだな。お前が手を出せば、この村のガキは皆殺しと言っても立ちはだかるかな。」


視線で合図すると村の中にも10人程の兵士が紛れ込んでおり、子供たちにいつでも手をかけられるくらい近くにいる。

なるほど。

そこまでして私を攫いたいということか。

誰が何の目的で、というのは気になるところだが、このままでは埒が明かないだろう。

それならばと意を決して声をかけるつもりだったが、後ろから抱き寄せられ布で口を塞がれた。

抵抗してみたものの強い眠気に誘われるまま意識を手放すのだった。

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