15. 聖騎士の本気
意識の無くなった彼女の身体を仰向けにするとぬるりとした感触。
このままでは命が危ない。
聖騎士として責務を果たせなかったことへの戒めとして剣を握らないと誓った。
誰にも認められなかった村の子供の命を優先した選択が間違っていたのだとそう思ったからだ。
しかし、それをエレノア様は正しい行いをしたとそう言ってくれたのだ。
それなら彼女のためだけに剣を取ろう。
腰にかけているだけで抜くことの無くなったその柄を握ると磨き抜かれた刀身を見せる。
「誰がなんと言おうと…か。」
「裏切り者の聖騎士如きが俺たちに楯突くつもりか!?」
「裏切り者の聖騎士如きだが、お前らに負けるほど弱くはない。」
勝負は一瞬だった。
正直人攫いなど相手ではない。
あの時も庇ってくれる必要などなかったのだ。
ナイフをかわすことも奪うことも剣を抜かなくても軽く出来たというのに。
青白くなった頬に軽く触れてから小さくため息を溢し、そっと抱き上げれば力なくその手が落ちていくのが見える。
急所は外れているが強めの止血をしてから建物を出ると剣を向ける三人の姿があり、正直驚いた。
エレノア様がリティル公爵にとって大切な存在になったことは理解していたが、彼女はどうして厄介な人種に好かれるのかと視線を向け、自分もその一人かと自笑する。
「エレノア!大丈夫か!?」
「君、エレノアに何をしたの!?」
「エレノア!」
「急所を外したとはいえ手当が必要だ。」
「急所…?その出血…まさかエレノアの!?」
「君がやったわけじゃないよね?」
「どう見える。」
「もしそうなら僕は君を許さないよ。」
「…ロルフ…痛いんだから…そういう冗談…やめよ。」
「起きたか。」
「…止血…痛すぎ。」
「刺し傷は痛むものだ。」
「エレノア様!!」
「…ミリア?」
「ロルフ、エレノア様を早く清潔な場所に。イライアス王子、どこか部屋を貸していただけますか?」
いきなり現れたのはエプロンドレス姿のミリアでずっとエレノアを探していたのか。
いつも綺麗に整えられているその髪は乱れていた。
王子に案内された部屋は一際豪華な作りで、広いベッドに寝かせると男性は早く出ていけと追い出される。
「夫の私まで何故追い出されたんだ…?」
「ミリア曰くエレノアは誰のものでもないって事らしいよ。私のものですって所有者宣言されちゃった。」
「ミリアを選定したのは私だが、今思えば良かったのか。」
ため息を溢している公爵を横目に腕を組んで立っているとこちらに集まっている視線が煩わしい。
「何だ。」
「あの時は焦っていて気付かなかったけど。君、アストールの聖騎士ルドルフ・アシュクロフトだよね。人類史上最強と謳われる君が何故ここに?」
「…エレノア様以外に話す気はない。」
「誰かわかっててその態度してるの?」
「バルバニーの王子イライアスだろ。知ってる。」
「わお。呼び捨てしちゃうんだ。」
「忠誠を使ってない相手に敬語を使う意味もないからな。」
煩わしいという態度を全面に出せばやっと静かになった面々に軽くため息をこぼしながらミリアが扉を開けるのを待ち続けるのだった。




