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14. 御者の正体

彼らから逃げるように人の波に乗ってみたが、ここはどこだと視線を彷徨わせる。

適当に廊下を歩いているといきなり感じた浮遊感。

口元に当てられた布に苦しいと感じたのと同時に意識が混濁していきそのまま目を閉じた。

どれくらい時間が経ったのだろうか。

まだぼーっとしているが少しずつ意識がはっきりしてくる。

木の板の上に寝かされていたようで、身体中が痛いと文句を溢しながら起き上がろうと身動いでみたか、後ろ手に縛られているようで難しい。


「泣かないんだな。」


「あれ、人居たんだ。」


「…。」


「これどういう状況?」


「他国にでも売り飛ばされるんだろ。」


「え!?他国に行くのはものすごく面白そうだけど、売り飛ばされるのは遠慮したい。」


「アンタ、本当に変わったな。」


「私のこと知ってるの?」


そう聞いて見るとフードを外した彼。

見覚えのある姿になるほどと納得してしまった。


「御者のロルフだよね。どうしてここに?」


「人攫いの連中に雇われた。」


「へえ。」


「へえじゃねえよ。お前、理解してるのか。人攫いってのは怖がるものだろ。」


「怖がったら解決するの?そんなことないでしょ。私はそういう無駄なことしたくないんだよね。そもそも別に怖くないし。」


「…はぁ。」


「それより、何で人攫いに手を貸しているの?」


「おい、裏切り者の聖騎士さんよ。そいつから目を離すんじゃねえぞ。」


ゲラゲラと下品な笑い声を上げながら去っていった無精髭の男の言葉にぐっと拳が握られているのが見える。

深く聞くべきではないだろうと触れずにいると彼の口が開かれた。


「…聞かないのか。」


「聞いてほしいなら聞くけど。」


「なんだそれ。」


「正直、あんな下品な笑い方する人の言葉とか信用しないし。」


「…ならお前の目で俺はどう見える。」


「筋骨隆々な男性?」


「…聖騎士って言ったらそれなりに有名だぞ。」


「ごめん、全然知らない。」


「…だろうな。」


「それで?何して裏切り者の聖騎士なんて呼ばれるようになったの?」


「…聖騎士は聖域を護るために選ばれた存在なのは知っているか?」


「いえ、全く。」


「…その聖域を俺は守りきれなかった。」


「本当にそれだけ?」


「…っ。」


「人攫いが私をロルフに頼むってことはそれだけの価値があるってことだよね。聖域を護る選ばれた存在ならきっと想像しているより強いんだろうし、それならちゃんとした理由があるでしょ。例えば、相手が強すぎたとかさ。」


「…子供が。」


「?」


「…村の子供が人質に取られてた。聖騎士はそれでも聖域を護らなきゃならない。そういう訓練も受けてきた。」


「子供は助かったの?」


「…あぁ。」


「それなら裏切り者でもなんでもないじゃん。てか何が裏切り者なのかもよくわからないし。聖域って子供の命を捨てるほど大事なものなの?」


「…王家を守るために城に張り巡らされた結界を担ってる。」


「うっわ、くそほどどうでもいい。王家だけ守る結界と子供の命なんて比べられないじゃん。ロルフの選択は間違ってない!誰がなんと言おうと私はそう思うよ。」


「…っ。」


だってそうでしょ。

王家を守るためだけの結界なんて必要あるのか。

自分達だけ生き残ろうとか考えるなんて最低だと呆れていると先程の無精髭の男が戻ってきた。

手に握られたナイフが月明かりに照らされて光っている。


「…何をするつもりだ。」


「公爵夫人とやらに少しばかり怪我してもらうのさ。」


「なんだと?」


「周りが騒がしくなってきたからな。この女の血がついた私物を置いとけば、下手な手出しはしてこねえだろ。」


「ふざけるな。」


彼のその言葉に苛ついたのか。

ナイフを手に向かってきている。

守るように立ち塞がってくれているロルフだが、私の代わりに彼が怪我をするのは困る。

そもそもこんな事になったのは全て私が選択した結果が招いたことだ。

あの時、彼らから逃げなければ。

徒歩で旅に出ていなければと後悔しようと思えばたくさん出来るが、私はいい年の大人。

自分の行動に責任を持つと決めている。

勢いよく向かってきたタイミングを見計らってロルフを突き飛ばせば、さっくりと腹部に吸い込まれたナイフにちょっと驚いた。

赤いドレスだと出血していてもわからないのかと思いながらも、強い痛みにその場に崩れ落ちればナイフが抜けたようだ。

庇われると思っていなかったのか。

ロルフの焦った表情が見える。


「なんで、俺を…アンタを攫ったのは俺なんだぞ。」


「…ロルフが攫ったとこ…私は見てない。だから知らない。…それに…このナイフは…私狙いだし…さ。ほら、これ…血付いたでしょ。…早く持っていけば。」


持っていた白いハンカチで傷口を押さえてから渡せば、思っていた以上の出血に血の気が引くのを感じるが血が苦手というわけではないから大丈夫だろう。

そう思ってはみたものの、指先から冷えていく感覚に遠くなる意識。

抵抗するのも億劫でそのまま身を任せるのだった。

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