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9話 決断

調べるのは好きだ。

分からなかった事がどんどん理解できた達成感がたまらなく好き。だから幾ら時間が掛かってもついつい調べてしまう。


屋敷内の書斎は色んな書物が揃ってるから、分からない事、調べたいことがあれば直ぐにそこに行って熱中してしまう。


エドワード先生の授業のお陰で読める本の範囲も随分と増えたけど専門論文はまだ難しくて中々理解出来ない。


例えばこの『自動加速魔道具の相対性理論』


「...うん、わけがわからない。」


フローレンス家の先祖が魔道戦士だったのも影響してるのか魔道具関連の書物は随分と多い。もしかしたら公立図書館よりも数を揃えてるかもしれない。


よし、ジドウシャの書物があればあとで読もう。


でも僕が調べたいのは魔道具ではなくて家系図だ。毎年発行されるルフィール聖王国、主に上位貴族の家系図。それには上位貴族の名前、職、そして顔写真がのってある。今年のと数年前のを照らし合わせてみる。


調べるのはジェイルス公爵、王女殿下の使用人たち、そしてフラトリックの悲劇で亡くなった正妃様と王太子様。写真がのってるお陰で使用人の名前を知らなくても調べられる。こういう時は本当に助かる。確かカメラを発明した人はジドウシャと同じ人だった気がする。


それはさておき、ジェイルス公爵は財務大臣、そして宮殿内を管理をしてる。宮殿の管理者...本当は正妃様の役目だったが、亡くなった後公爵が一時的に受け継いだらしい。そして本来受け継ぐはずだった第二王妃様は他の公務で忙しいとか。


フリーダ王女殿下が外れの塔に住むことになったのも、酷い扱いをする使用人を派遣したのも、すべてジェイルス公爵の仕業であってると思う。つまり彼が王女殿下の虐めの主犯だ。虐めを止めるのも公爵の事をもっと調べないと何も始まらない。


「えっと、正妃様は...」


正妃様への支持は多く、強かった。上位貴族の殆どが正妃様を支持して、使用人達からの信頼も当然厚い。正妃になるのも、息子が王太子になるのも誰もが納得した。


僕もお茶会へ行ったとき一度会った事がある。凄く優しい人だったし王太子殿下も正妃様と似て、優しい王子様だった。だから二人の訃報の知らせが届いた時は本当にショックだった。


「あった」


ヒルダ・テレセア・ルーベンタイン、

正妃になる前の名前は...


「なるほどね」


ヒルダ・テレセア・フォン・ジェイルス


ジェイルス公爵の娘だった。


正妃様はあのジェイルス公爵の娘、そして王太子はその孫、ジェイルス公爵はあの悲劇に直接打撃を食らったのか。政治的にも精神的にも、


そして自分の愛娘と孫は殺されたのにその容疑者の娘は何故まだ生きてると...



理解はしたけど納得は行かない


「でも少しずつ繋がってきたぞ。」


王女殿下を守る方法はあの塔から出すか使用人を変える。でも、発言力も権力も強いジェイルス公爵が邪魔をするに違いない。権力者相手は己自身が権力を持たないと何も始まらない。でもあの王宮での経験からしてフローレンス家は権力どころか発言出来る権限も殆ど無いのだろう。侯爵という高位な肩書はあるけど権力は無い。


「それで名前だけの侯爵か...」


僕がフローレンスだと知らなかった時は優しかったジェイルス公爵のあの変動...公爵は本当は優しい人だっただと思う。フローレンス家が、あの悲劇で何か関わってるのだろうか?


父様がまだ隠し事をしてるの分かってるけど今現代はこれくらいの情報しか分からない。


「今回はこんなもんかな?」


今の僕は此処までしか調べられない。

これからもっと、もっと知識を蓄えないと。


*****


そこは白い空間だった。

あれ?僕、いつの間にか寝ちゃったのかな?

確か8歳の誕生祭を開いて...途中で疲れたのかな?


「よっ」


青年は僕に向かって手を上げた。今回は妖精がいない


「あぁ、あいつは待ちきれなくてゲームを買いに行った」


ゲームを?

何もない白い空間でどうやってゲームを?


「細けーことは気にすんな。あいつもいつか帰ってくるだろう。」


はぁ、そうですか。


「あー、俺には敬語を使うな。こそばゆくて嫌いだ。」


でも年上は敬うようにと言われてるので...


「本当はお前の方が...まぁ、これは関係ないか。」


じゃあ、分かった


「うし、それでいい。」


青年は満足げにうんうんと頷いて笑った。

この人の笑い方はとても特徴的だといつも思う。

歯をむき出しにして片方の口端が異常に上がる。


「失礼だなお前は。これが俺の笑い方なんだよ、文句言うな。」


いや、文句とかじゃないよ。ただ僕の周りではそんな笑い方する人が居ないから珍しいなって思っただけだよ。


「そういうもんか?」


そういうもんだよ。

青年は納得いかない様子だけど、本当のことだから仕方がない。


「あ、それと、誕生日めでとさん。」


ありがとう

夢の中でも誕生日を祝ってくれる人がいるなんてなんか不思議な感じがする。

今年の誕生祭は去年と比べて馴染みの深い人たちだけが集まった小さなパーティーだった。人目の多い所が苦手な僕には心地の良い楽しい誕生祭だったなぁ。父様には感謝を。


「良かったな誕生日プレゼントに自動車貰って。やっぱ貴族の坊ちゃんは贅沢だな。お前まだ運転できねーだろうに...あぁ専用の運転手とかいるんだろうな。くーっ羨ましいぜ。俺の8歳の誕生日プレゼントなんか親父がケチって安く買った非売品のゲーム機だったんだぜ。」


そうだ父様からのプレゼントで新品のジドウシャを貰ったんだった。嬉しすぎてずっとはしゃいじゃったっけ。

それで疲れて寝てしまったのか。


「よし、俺が嫉妬するからこの話は終わろう。」


唐突だな...でも分からなくもない。自慢したつもりは無いけどそのせいで不快に思ったのならこの話はやめた方がいいね


「良いだろ?そんなことより、姫さん奇麗だったよな?」


これも唐突だな。

フリーダ王女殿下のこと?それはうん、凄い美しかった。

それに勇敢だし、逞しいし。彼女のことを考えれば考えるほど、嬉しくなってしまう。


「だろう?やっぱ一目惚れするよな?恋するよな?」


えっ?これが恋だったの?全然気付かなかった...


「想いを気付かないまま助けようとか思ったのか?思ったより鈍感だな?まっそれもいいか」


唐突だし、随分と気楽な人だな。

でも気楽な表情も真剣な表情に変わった。今まで話してた時の声のトーンと全く違う、低い声...でも怖さは全くない。


「見てられないよな、姫さんの境遇を」


うん、よくない

全くよくない

今すぐにでも助けに行きたい所だよ。


「でも今のお前には何も出来ない。このまま放っておくと、良い方で帝国の皇帝に嫁がれるだろうな」


帝国の皇帝は確か奴隷制度や鑑定制度を強く強要し、人権の全くない国を建てあげた冷酷な暴君だと。それに皇帝にはもう既に20人以上側室がいる。側室のみんなも良い扱いをされてるとは限らない。ましては対戦国の王女を無理矢理にでも嫁がせるなんて...


「姫さんが成人する時にはもう50人は超えてるかも知れねーな」


嫌だ...それは絶対に嫌だ...


「だろ?ならお前が守れ。」


でもどうやって?

一番の壁であるジェイルス公爵は発言力も強いし支持者も多い。それに比べてフローレンス家は権力も弱いし支持者も少ないと思う。交渉の上手い父様が出ても敵うかどうかわからない。僕はまだ爵位を継いでないし、ましてや領主になるか騎士団長になるかもまだ分かんないんだ。


「いや、権力なんて結構簡単に手に入れられるぜ。王様の目に止まればあっという間だ」


王様の目に止まる...

陛下に会う機会なんて殆ど無いだろう?

どうやって注目させるの?


「簡単だ。まだ他の奴らが成し遂げる事の出来ないことをすればいい。そして自分を目立たせるんだ」


成し遂げない事...?


「普通に考えてみろ、お前なら分かるだろ?」


成し遂げてないこと...


あっ!わかった!


*****


目が覚めたら一目散に父様の事務室まで走った。


ケレンに怒られるけど今はそれどころじゃない。

夢は直ぐに忘れて曖昧になってしまう。

だからその前に言わないと、


父様に伝えないと。


「父様。僕、決めました。」


いつもの様に書類に目を離さないけどちゃんと聞いてるのはわかる

だから言う


僕の決断を




「領主と騎士団長、両立します。」


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