8話 真相
昨日出会った女の子のことが頭から離れない
ずっと彼女、いやフリーダ王女殿下のことばかり考えてた。
王族はこの国の頂点に立つ人たちのはず。
王族を護るのが僕ら貴族、そして民としての役目、そして彼らは僕らを支える。
フリーダ王女殿下と出会ったあの時
突然のことでその時は気づかなかったけどよくよく思い出してみたら、
彼女の腕は傷だらけだった。
使用人のあの態度、そしてその声を聞いた王女殿下は直ぐに逃げた。
彼女を離宮のさらに外れの塔に、三階から飛び降りない限り外に出ることは出来ない。
「明らかに虐めだよな。」
護られるどころか王族を害する。
こんなことあってたまるか。
僕は朝食を終えると、父様の事務室へ急いで向かった。
*****
「父様、伺いたいことがあります。」
「あぁ、どうした?」
父様はいつもの様に事務室で山のような書類を読んでた。
相変わらず目は書類に執着してこちらを見ることはない。
「昨日、道に迷った時フリーダ第一王女殿下に会いました。彼女について少々聞きたい事があります。」
前回来た時と違って父様は書類を読むのを辞め、ペンを置いた。
「...部屋を変えよう。」
隣の待合室が丁度いいと僕たちは対向に置いてあるソファーに座った。セビーが紅茶とお菓子を用意した後人払いをしてセビー自身も外で待つと。ここまでするとなると公に出すことは出来ない話なんだろう。
「彼女は反逆者の娘と呼ばれてました...」
何故彼女はそう呼ばれてるのか、どうして離宮の外れに住んでるのか、聞きたいことが山ほどある中で父様が最初に言ったのは、
「ラートは去年のあの事件を覚えてるな。」
去年のあの事件、
大まかな言い方だが去年のあの事件といえば一つしかない。
「はい、フラトリックの悲劇のことですね。国中がこの話で持ちきりでした。」
去年起こったフラトリックの悲劇。
それは正妃様と王太子が惨殺された事件の事だ。
二人が王宮に戻るため、ウィルデ領と王都の間に位置するフラトリック領を渡ってた馬車が何者かに襲撃され二人は惨殺された。
辺りに激しい争いがあった形跡はあるが、奇襲した者の死体どころか痕跡も無く、護衛騎士の犯行かとも疑われたが当時そこに居た騎士も全員同じ目に遭われた。
そして彼らの殺され方はあまりにも残酷で王太子様と正妃様の葬式は最後まで二人の棺桶は開けることも出来ずに終わったと。
誰に襲われたかも明らかではなく一年が経つ。今でもまだこの話を聞くことは多い。
そして心優しい正妃様は、民から貴族の権力者たちにも慕われ、彼女の訃報を知らされた時多くの人が涙を流したと。あまりにも悲しさに若きフラトリック伯爵も自身を自害してフラトリックの悲劇と呼ばれるようになったと。
「この悲劇と王女殿下は何か関係があるんですか?」
「公開されては無いが、それはこの国唯一の大公爵であったウィルデ大公、ライアン・フェリクス・フォン・ウィルデ、そして第三王妃であったアレクサンドラが計画の下、行った犯行だ。」
僕は一瞬言葉を失った。
「ウィルデ大公の娘はその亡くなった王太子の婚約者だったはずです。何故彼が襲う必要があるんですか?」
ウィルデ大公の娘、シャーロットは次期正妃になるお方だった。もし大公が権力を欲しければシャーロット令嬢が正妃になるまで待てば自然に権力も蓄えることができたはずだ。
「...分からん。だがこれが事実だ、そしてウィルデ大公は爵位を剥奪そしてアレクサンドラと共に密かに処刑された」
「第三王妃様は病で亡くなったと聞いてましたが」
そしてウィルデ大公は、ウィルデ領から戻る道で悲劇を起こしてしまった責任を取り、爵位を自身で返上したと。
「あぁ、全て作り話だ。民がこれ以上混乱させない様にと国王陛下が決めた。お前が知らなくても無理はない。」
王族を害した物はいくら彼らが王族であっても処罰は下される。
ましては王太子と正妃の命を奪った者だ
そして第三王妃、アレクサンドラの一人娘がフリーダ王女殿下
「それで王女殿下は反逆者の娘と呼ばわれるようになったんですね。」
「そうだ。彼女は王位継承権を失って、離宮の塔で暮らすことになった...納得いかない顔だな。」
「母親の罪を何もしてない娘に背負わせるのが納得いかないんです。」
いくら酷いことをしたからって彼女が同じことをする確証はどこにも無い。虐める理由にはなるはずがない。
「王宮の使用人は殆どが正妃派だった、彼女に対するあの態度は誰もが理解してる」
「それで周りは無視をするんですか?助けることは出来ないんですか?」
「使用人は上位貴族出身が多い、当然強い権力者たちもだ。今の俺たちでは何も出来ん。」
「それはフローレンス家は名前だけの侯爵からですか?」
「...すまない...それは俺が無力のせいだ。」
どうして僕は父様に当たってるんだろう。
そして父様はどうして謝ってるんだろう。
忙しい身なのに僕のために時間を作ってくれたんだ。
父様は何も悪くない。
「いえ、父様は何も悪くありません...当たってしまってすみません...」
「いや、これは俺が悪い。」
どうして父様が悪いのか分からない。
でもこれ以上は父様の時間を取らない方が良い、今回はここまでにしよう。
「では最後に、オスカー叔父様は自分はこのことを話せないと言ってました」
「あぁ、ウォーレン家から来た第二王妃のディアンヌ様は唯一の王妃となった今正妃派閥の多い王宮では無理に声に出すことはできない。」
だから叔父様は何も言えないと、
「分かりました、教えてくれてありがとうございます。」
*****
「終わりましたか?」
「うん、セビー、時間を作ってくれてありがとう。」
「いえ、坊ちゃんと旦那様のためであれば当然のことをしたまでです。」
「じゃあ僕は訓練場に行ってくるね。遅れるとヴィンスもうるさいし。」
「ではお気をつけなさいませ」
僕はセビーに手を振ると訓練場までケレンに怒られない速さで屋敷内を走った。
「...父様、まだ何か隠してた。」
口数少ない父様でも何か隠してるのは分かる。
父様は気づいてないかもしれないけど、言えないこと、隠し事があったら脚を指で叩く癖がある。
そして今回話をした中、父様は脚を指で叩いてた。
一回だけじゃ無く、
最初から最後まで
ずっと。
僕にはまだ早いのか、誰にも言えない事があるのかは分からない。でもわかる事は...
「もっと知識を蓄えないと。」
真実を知るためにも、力を持つためにも。
そしてあの子を助ける方法を考えるためにも。
僕自身が強くならないといけない。もっと知識を蓄えないといけない。
僕はこの時初めて王女殿下を守りたいと、家を守りたいと心に誓った。




