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6話 『コウシンしろ』

評価してくれて有難うございます!

ーオスカー視点ー


「団長、侯爵からの連絡で坊ちゃん1人で騎士団本部(こっち)までくるらしいすよ。」


兄上から連絡が来るなんて珍しい

どうせユージンの提案だろう。


さて、ラートが先に執務室を出たが連絡役が先に着いた。


うん、今頃迷子になってるに違いない。


「分かった、行ってくる。」

「手伝い要ります?」

「ラートのことだ、俺が探しに行った方が早い。団員は任せたぞ。」

「了解」


クルックスに団員を任せ、ラートを探しに出る。

あいつは賢いが何故か初めて歩く道になるとドがつくほどの方向音痴になる。

そして必ず想定外の場所で見つかる。

今回はそうだな…


「後宮周辺から探すか。」


*****


ーラート視点ー


走っていく彼女が見えなくなった。


あんなに美しい子は始めてだ。

心音がまだ身体中に響き渡るのを感じる。


彼女が落ちて来た場所をもう一度見上げると窓が開いてた、

でも開いてたのは三階の窓だ。


三階から飛び降りたのか、あの子が…

凄いなぁ、逞しいなぁ、

魔法も使わないでそのまま飛び降りるなんて、怪我をしたらどうするんだろう?

凄いなぁ、勇気があるなぁ、


考えれば考えるほど胸の高鳴りを抑え付けられなくなる。

彼女はいったい誰なんだろ?

もっと、もっと知りたい


それと目の前にいる額に青筋が通ってる二人の使用人も違う意味で少々気になる。

とてもイラつてるご様子だ。


「あのガキまた逃げやがった」


む、その言い方は酷いよ。というよりも口調がなってない。

それに使用人は上位貴族出身ではないのか?

あんな奇麗な子をガキ呼ばわりするなんて貴族の礼儀作法はどうしたんだろう。


「母親の様に反逆するのが好きなだけだわ」

「どうして私たちがあの反逆者の娘の面倒見なければならないのかしら。一緒に処刑されたら誰もが喜んだのに。陛下は何を考えてるのかしら…」

「どういう事だ?」


気付いた時にはもう声が出てた。

あの子の事を罵倒するのにいてもたってもいられなくなった。

さっきの出会いで吹き飛んだはずの不快感が一気に逆流してきたのを感じる。


使用人の一人がもう一人に耳打ちをしていた。その瞬間、二人の態度が一気に変わった。

あの臣下の様に。

僕は学習しない…

また同じ事を繰り返してしまった。


「反逆者の娘を反逆者と言って何が問題ですの?」

「それをど言う事だと聞いている。」


何度も父様達から忠告を受けてたのに抑えることができなかった。

あの時と同じ、見下す視線を感じた。今度は目の前にいる二人だけだからあの時ほど恐怖は感じなかった。だから声を出せたのだろう。


「君たちは彼女の使用人だろう?それがどうして主を見下す?」

「貴方には関係ない事です。口を挟む資格なんてない。」


それは僕は子供だからか?それとも彼らの言う「名前だけの侯爵」だからか?


「資格以前に君たちの言動の問題だ。」


あの臣下からの罵倒で我慢はもう限界だった、

あんなに注意されたのに、言い返してしまった。


「立場を理解できるほど脳はあるのにそれ以上は無いんですね」


それは僕の立場か?それとも君たちの立場か?

あの臣下といい、こいつらといい、どうして皆、人を見下すんだ?

そんなに人の上に立つのが好きなのか?


…もう嫌になってきた。

そうだ。父様は騎士に道を聞けって言ってた。

ならこいつらには用がない...


僅かな間にこんなに不愉快になったのは初めてだ。

あの子はこいつらとずっと暮らしてるのか?

だったら逃げるのも納得だ。

僕は踵を返した。


「言い返せないから逃げるんですね、やはり名前だけの侯爵の子息も名前だけなんですね。」


逃げるんじゃない。君達に用が無いだけ…

はぁ…一人で出てから嫌なことにばかり逢う。

これ以上此処に居るとおかしくなりそうだ…

それなのにどうしてこんな時に限って足が動けなくなるんだ?

頭では分かってるのに身体が動かない。

臆病者な自分にも嫌になってしまう。


「何をしている。」


その声は聞き慣れた心から尊敬する人の声だった。


「オスカー叔父様。」


勤務中だからか騎士団の制服を着ている

右肩には大星が一つに小星が二つの刺繍が載ってる、第七騎士団の証だ。


「ラート、お前が中々来ないから探したんだぞ。」

「その、ごめんなさい。迷ってしまって...」

「迷って離宮まで来るもんなのか?」


僕は叔父様の後ろに隠れた。

早く此処から離れよう。

これ以上この人達と関わりたくない。

声には出さなかったけど叔父様の服を強く掴んだ。

叔父様ならこれで察してくれる。


「これはウォーレン伯爵、ご機嫌麗しゅうございます」


使用人たちは礼儀正しく貴族流のお辞儀をした。

僕との態度と比べてまるで雲泥の差

もういいだろ?何でまだ話しかけてくるんだ。


「…俺は爵位を継いでない、継いだのは妻の方だ」


叔父様の言葉に使用人の態度が急に変わった。

いや、叔父様のその言葉を言わせるためにわざとウォーレン伯爵と言ったんだ。

嘲笑うように言葉を返した。


「それはそうでしたね、ウォーレン伯爵に失礼でした。フローレンス侯爵家の者と比べられて不快に思われたでしょう。」


こんな事して何が楽しいのか僕にはまるで理解できない。


「口だけは達者だな、こんな何も無い離宮の外れにまで降格されたのも頷ける。」


余裕をかましてた顔も不機嫌になり、叔父様を睨んだ。

でも叔父様の表情は少しも揺らがなかった。


「速く没落しろ」


小さな声で言ってたが僕には明確に聞こえた。

きっと叔父様にも…


「行くぞ、ラート。」


それでも叔父様は表情が一切変わらず乗り切った。

やっぱり叔父様はすごい。


*****


「叔父様。」

「今は勤務中だ、団長と呼べ」

「その、オスカー団長。」

「どうした?」

「...団長は平気だったんですか?あんなに罵倒されて」

「慣れてる...と言えば少し違うな。腹が立つ時は腹が立つが貴族社会はこういうもんだ。権力がある者は権力が無い者を見下す。先々代国王から大分差別化はマシにはなったと思うが根っから腐ってる奴らは早々と変わらないな。」


つまり、これが当たり前の事だからそれを受け入れてそのままやり過ごせと。僕には出来そうにない。


「お前も平気か?ジェイルス公爵から散々言われただろう?」


ジェイルス公爵はあの臣下の事だと直ぐにわかった。


「どうしてそれを?」

「後宮でお前を探してた時耳にした。使用人(あいつら)の噂好きには目が回る」

「今はもう大丈夫ですが...怖かったです...」


もしまたあの人たちに会ったら、あの境遇を繰り返されたら、やり切れる自信が無い...


「...ラート、お前はもう少し根性をもて。爵位を継ぐにせよ騎士団長になるにせよ、今のままだと人の上に立つ仕事は出来ないぞ。」

「そんな事を言われましても...」


怖いものは本当に怖い....


「…賢い者ほど身の回りが見えて、怖がる傾向がある。子供が怯えるのはその対応の仕方を知らないからだ。対応できることで、成長する。」


髪をくしゃくしゃと撫でられた。


「大丈夫だラート、自信を持て。お前は賢い、直ぐに対応策を見つけられるはずだ。」


団長の言葉にはいつも励まされる。

訓練は厳しいけど僕を絶対に見限ったりしない。

落ち込んでた時も団長が最初に気づいて側にいてくれる。

僕の中で一番尊敬する人だ。


「はい...ありがとうございます。」


尊敬する人が褒めてくれるとやっぱり嬉しい。

僕は本当に人に恵まれてる。

嫌なことがあっても、側にいてくれる人や励ましてくれる人がいる。

…ふとあの女の子のことが頭を過った。

あの子にはそういう人は居るのかな?

僕はあの子のことはまだ何も知らない。


「団長、塔に辿り着いた時、金髪で翡翠色の瞳の女の子に会いました。あの子が誰か知りませんか?」

「...」


団長は少し険しい表情を見せた。


「...フリーダ・フィール・アレクサンドラ・ルーベンタイン、この国の第一王女だ」


第一王女…王族!?


「どうして王女様があんな外れの所に住んでるんですか?」


王女様がどうして反逆者の娘と呼ばれて、あんな扱いを受けてるのか。

他にも沢山聞きたいことがあったけど団長はまた押し黙った。

不快に思ったというより、少し迷ってる様子だ。


「...詳しいことは屋敷に戻った後兄上に聞いたらいい」

「父様に?どうしてですか?」

「家の事情みたいなもんだ。それに王宮でこの話をするのはタブーだ。人目も多い、誰かに聞かれるだけで厄介だからな。特にアイツら使用人は、チッ。」


今度は不機嫌になった。

というよりいつもの団長に戻った


「悪い、この話は俺には出来ない。」

「そうですか...でも父様、ちゃんと説明出来るんでしょうか」

「ははっそれもそうだな」

「それとその...」

「まだあるのか。今日はよく喋るな。」


気になることが多すぎるんです。


「これが最後です。そのジェイルス公爵は第七騎士団の事お金の浪費ばかりする無能な騎士団と言ってました。」

「あー...それは仕方がない。魔王軍との戦い、この70年の間俺たちは勝利した戦場は片手で数えられる程度だからな。」

「それは帝国からの宣戦布告で殆どの兵が対帝国そっちに行って不利な戦いを強いられてるからですよね?その低評価は重々承知だったのに戦い続けたんですか?」

「そうだ。」

「認めるどころか蔑まれてるのに戦い続けるのですか?」

「あぁ、そうだ。」


分からない。理解できない。

どうしてこんなに見下されてるのに、誰も期待なんてしてないのに、戦い続けられるの?

僕なら直ぐに折れてしまう。

諦めてしまう…と思う。


「俺が幼い頃聞かされた言葉がある。それは初代当主、勇者の右腕と呼ばれてた魔道戦士:フローレンスの言葉だ。彼は大きな壁に立ち塞がった時自分に何度も言い聞かせてた言葉がある。


『諦めるな、コウシンしろ』


と。」


「コウシン...」

「大まかで例えると突き進めって意味だが違う場面でも使える。目標を持って進むとか」

「目標ですか...」

「嫌なことがあっても、辛くても諦めずコウシンし続ければいつか必ず報われる。第七騎士団に入りたての頃は俺も腰抜けだったが、その言葉を頭の中で繰り返すと自然に前に進める事が出来たんだ。」

「僕はまだ…目標とかよく分かりません…どこに進めばいいかも…」

「そうだな、お前にはまだ理解出来ないかもしれんが、守りたいものが出来るときっと目標も立てる事ができると思うぞ。」

「団長にはあるんですね。守りたいもの。」

「あぁ、沢山ある。」


団長は今の騎士団に誇りを持ってる。

例え無能と言われても前に進む理由があるから、諦めずにコウシンし続けられるのか。


やっぱり団長はすごい。


「そんでこれは何だ?」


何だとはなんですか?

手をつないでることですか?


「迷子対策です。父様が迷子にならない様にこうしろと」

「兄上は何を考えてるのやら...」

「でもさっき道に迷ったし」

「お前もお前だな。」


こうして僕は団長と騎士団本部へ続く長い廊下を歩いた。

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