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5話 迷子、罵倒、そして出会い

「迷った」


王宮は広いし仕方がないことだ。

普通の大人だって迷うはず。

僕はまだ7歳、迷子になっても皆納得するはずだ。

迷子癖があるからって今回は迷子になっても何も問題ない。

それにこれは僕の「迷子癖」のせいで迷子になったわけではない。

うん…


「駄目だ!見栄を張ってた自分が恥ずかしい!」


これはまたヴィンスにからかわれる...

最悪だ。

ケレンの呆れた顔も目に浮かぶ。

はぁ....


「ん?どうしてこんなところに子供がいる?」


背後から中年くらいの男性が話しかけてきた。

服装的に臣下、そして外見的には公国出身特有の褐色の肌に縮れた髪。

やっぱりユージンさんとは違う。


「すみません、少し道に迷ってしまって、」

「迷子か、しかし後宮は子供が来る場所ではない。」


後宮だったの!?寄りにも寄ってどうしてここに…

辺りを軽く見渡してもユージンさんの事務室がある宮殿と比べて人の数は少ない。

でも此処は後宮...うわー....


「ハッハ、そう慌てるな。奥まで行ってたらまた問題になってたかもしれんが此処はまだ入り口付近だ。」

「…そうですか」


少し安心したら肩の力が和らいだのを感じる。

穏やかな声で返してくれた臣下。優しそうな人だ。

優しそうな人はまた優しく笑ってた。


「それで君はどこの子だ?服装的に貴族出身だろう?」

「はい。クリステン・マーカス・フローレンスの息子、コンラート・クリステン・フローレンスです。」

「フローレンス...?」


臣下の表情が一瞬にして裏返った。


「あぁ、あの名前だけの侯爵か。ハッ」


笑われた。

今度は真逆の態度で。

見下した声音で。


「先祖がどうだか知らないが今はよくもまあ堂々と人の前に立てるな」


急な態度の変わりに驚きと罵倒で自分の表情が歪むのを必死で堪えた。

一気に不快な気分になって今すぐにでもここから離れたくなった。

でもそれは始まりに過ぎなかった。


「職を失い公爵の足に縋りついてる事しか出来ない当主、金の浪費ばかりする無能な騎士団。それでまだ侯爵で居られるのが不思議でたまらない。」


職を失う?父様はユージンさんの側近のはず。

疑問に思ってもそれ以上に彼の目を合わせられなかった。

不快な気分と何処からか湧き出てしまった恐怖のせいで俯いて黙ってしまう、

でもこれが逆効果だったのはすぐにわかった。

罵倒の勢いが増したからだ。


「あぁ、そうかウォーレン伯爵にも縋ってたか。奴らも今は勢いがあるがすぐに堕ちるだろう。ハッ、どちらが先に落ちるか見物だな。」


オスカー叔父様とヴィンスの家名の罵倒。


「後継者もまともに揃ってないなんて管理がなってない証拠だ。」


今度は母様の罵倒。


「先祖が偉大か何かは知らないが今はもう拍子抜けだな。堕落するのも時間の問題だな。楽しみにしてるぞ。」


最初はあんなに優しかったのに何故こんなにも態度が変わったのか不思議でしかない。


辺りにいた使用人の視線を感じる。

何度も言われた、「使用人は辞めておけ」

だからもし僕が今ここで言い返したら噂が直ぐに広まって家名が更に汚れてしまう。

我慢、今は我慢だ。


目の前に居る臣下だけじゃなく、

他にも人がどんどん集まって行く気配を感じた。

でも彼らは僕を庇うわけでもなく、むしろこの臣下を評価してる。

こんな風に注目されるのは怖くて仕方がない…

僕は人から注目されるのは苦手だ。周りからの視線も感じやすいタイプだと思う。

そしてこの視線は父様と一緒にいた時の視線と全く違う。

見下す視線だ。


どうして、なんで?

僕は何をしたの?

何をしてこんな仕打ちを受けてるの?


どうしたらこの状況から逃げ出せる?

怖い…もう嫌だ…


…いやそれがこの人の狙いなんだ。

僕が怖がるのを面白がってるんだ。

その逆をすればいい。


そうか笑えばいいのか

簡単な事だ。

笑え、笑ってろ。

変に感情的になったら彼らの思うつぼだ。

これは言い返した方が負ける。


僕は俯いてた頭を上げ、




笑った。

笑い続けた。




この効果は抜群だった、臣下は直ぐに黙って僕を睨んだ。

でも僕は笑顔のまま、目を合わせ続けた。


「チッ、気色の悪いガキだ。」


それを最後に彼は去った。


その後も僕は暫く笑い続けた。

飽きたのか、職務に戻らないといけなかったのか、周りにいた人たちの視線を感じなくなった…

膝から崩れ落ちたのはその直ぐ後の話だ。


両親の罵倒

家名の罵倒

言いたい放題言いやがって...


これは想定してた事だったのかな...

何となく分かってた。

僕の家、フローレンス侯爵家は


弱い


でもこれほどとは思わなかった。


なんか...むしゃくしゃする。

ヴィンス、この事も教えてくれよ。

いや、先生が臣下は気を付けた方がいいと言ってたな。

でも気落ちする...


「...そうだ、離宮に行かないと」


騎士団本部へ行くはずだったのに何故か離宮へ行かないといけない衝動に走って僕は離宮へと足を運んだ。


*****


「また迷った。」


もうどこがどこだか分からない

はぁ、騎士を探して道を聞かないと。


「それで此処は離宮かな?」


離宮は後宮の更に外れだと昨日見た王宮の地図に描いてあった。

王宮の地図も所細かに描いてあったら僕も迷わなかったのに。


「やっぱり」


夢の中の人の言う通りだ。

離宮の外れに塔が立っていた。これは塔というにはそれほど高くない。

そして今まで見た豪邸な建物と違って少し質素な気がする

それにしても夢の中の人ってどういうことだろう?

合わない夢と記憶に混乱する。


いつもそうだ。

夢は明確に覚えてるはずなのに、いつも思い返すと所々誤差があってあやふやになってしまう。記憶力には自信があるのに、夢のことになるといつも朧気だ。

ケレンはそれが普通だと言ってるけど僕はそうだと思わない。

ヴィンスにどんな夢を見たか丸一日時間を分けて聞いてみた事があるけど内容は全く同じだった。

僕は思い出す度違う内容になってしまう。


夢のことはもういい、いくら考えても解る事は無いんだから。

それにしてもどうして僕は離宮ここに居るんだろう?

騎士団本部に行かないとオスカー叔父様も心配するだろう。


「戻るか…」


踵を返そうとしたら上から物音が聞こえて顔を上げた

見上げると


「えっ?」


そこから女の子が降って来た。

瞬きをする度女の子は僕に近づいて行き、

気づいた時には後頭と背中に衝撃を感じた

イタイ、トテモ、イタイ。


「イテテ、」


空が見える。

今日は空が青いな。


そして体が人一人分重くなったのを感じる。

いや女の人を重いと言ったら漢として失格だと誰か言ってた気が…

誰だったかな…?なかなか思い出せないから夢と関係してるだろう、うん

よし、現実逃避はもう辞めよう。

整理しよう。

只今女の子が僕の上に乗ってる。

これは、あまり宜しくない状況だ…

使用人達にでも見られたら大変だ。


「あの…」


僕の声に女の子が一瞬で起き上がって、


目が合った


力が籠った翡翠色の瞳

輝いて透き通るような金髪

全てが綺麗だった。


そして、


「美しい」


思わず声に出してしまった本音に女の子も少し頬を紅くした


「フリーダ!」


使用人らしき女性が此方へ走ってくるのが見えると、僕の上に載ってた奇麗な女の子は一目散に走って行った。


何だったんだろう?

衝撃的な展開に溜まってた嫌な気持ちが全部吹き飛んでしまった。


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