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42話 巡回経路

「捕まえたって、一体どうやって…」


警備隊がいくら力を入れても見つけ出す事さえ困難だった指名手配犯をたったの半日で捕まえたヴィンス


「あ?そこにいたから捕まえたんだぜ!」


それじゃあ何も分からないから訊いてるんだけど…と考えつつ、いくら尋ねても単純に「見つけたから」と本人自身も捕まえるまでの段取りを理解していなかった


「なんか他に参考になるものを...」

「これでお前も休めるよな!」


僕の疑問を遮ってニヒヒと満足気に笑うヴィンス。よく暴れて落ち着きがなく、実際にネイトがかなり振り回されてたけれど、警備隊へ代わりに行って問題を解決しようとした


これはヴィンスなりに病人を気遣う配慮なんだろう。人の為にやった善意は何もかも無下にしてはいけないし感謝も大事だってケレンも言ってた。まだ聞きたいことがたくさんあるけど今は素直に感謝を伝えよう


「ありがとう、これで民も暫くは安心出来るよ...でも犯罪者なんてリングレットにはまだまだ沢山いるんだよ」

「そうなのか!?じゃあもういち...ど」


今朝の様に再度助走をつけて窓から飛び出そうとしたら自身の足に躓き、床に倒れた


「...ヴィンス?」


暫くしても起き上がらず、ずっと顔がカーペットに埋まったままで、異変に気づいたネイトが慌ててヴィンスを起こすと褐色の肌でも分かるくらいに顔が真っ赤だった


「あれ...おかしいぞ...朝起きたら良くなってたのに...」


魔素の免疫力が無くなって熱を出すのはまさに魔力欠乏症の症状、隣には落ちた剣に使用された形跡のある銀のコード


「ヴィンスまさか....高速移動を使ったの?魔力欠乏症なのに!?」

「でも魔法使えたぜ、高速移動は魔力温存するんじゃなかったのか...」

「病み上がりでもないのに魔法を使ったらそうなるのも当たり前だよ!!」


やっぱり魔力欠乏症なんて一日で治るわけがない


「ああっ!もう!ヴィンスの馬鹿!!」



*****



「坊ちゃん、体調はもう大丈夫なのか?」


ヴィンスのせいでストレスと心拍数が上がり、熱が一気に戻った結果二人して一週間も寝込んでしまった。その間ずっと看病してくれたネイトに迷惑をかけてしまったのが少し申し訳なく感じる


「まだ本調子ではありませんね」


やっと動けるくらい回復したのだから帳の対策や参考のためルフォードさんと一緒にリングレットの下町を巡回する。まだ偶に体内の魔力が暴走して苦しくなるけど少しずつ付与魔石に魔力を加えて体内の魔力を消費して落ち着かせる。実際に魔法を使うとヴィンスみたいに身体に響くからこれが一番いい治療法なのだ


「冬も近づいて冷えてきたからな、ちゃんと温まって寝ろよ」

「はい、あはは...」


本当は魔力激化症で冬の寒さとは関係がないけど、説明するとややこしくなりそうだから黙っておく


実を言うと、父様達にも心配させたくないからお茶会の件は伝えてない。いくら権力が無くても『侯爵家の子息に毒を盛った』と知られたら勢力的な問題で大事になりかねない。それに自分の意思で毒入りの茶菓子を食べたのだから魔力欠乏症(これ)は僕の自暴自棄だ。公開するのは良くないと自分で判断した


「んで警備隊は今後帳を捜査対象から除外すると聞いたが本当か?」

「はい、と言っても帳の犯行から目を瞑る訳ではありません」


帳を逃してから色々考えた結果、捕まえるには原作のパターンを解析していくのが一番だと思い療養中にもう一度本を読み漁って調べた


「帳が犯行に移る一番厄介な要件、それは魔物を召喚する第二の要件ではなくその日に殺された人が現れる第一の要件なんです」


被害者を発見し、特定して帳のターゲットに当てはまる人物を見つけて護る。それを全て一日でやるのは困難に等しい。下手をすれば帳の被害者を先に見つける事だってある


「この大都市で誰が、何時、何処で事件に巻き込まれるか把握するなんて未来予知でもしない限り分かりませんよ」


第一の要件で帳の現れる時刻や場所などを予測するのはほぼ不可能。それと比べて第二の要件は魔物を召喚する間に被害者の数を知る為に近くで観察する必要がある。そこを狙うのだ


「つまり帳を探すのではなく、帳が自身で現れる第二の要件へ移す為に第一の要件を消すのに専念します」


今のリングレットは帳がいなくても犯罪率は高い。じゃあその犯罪率を極限まで下げればいい事として考えた今後の方針:


①犯罪率を下げる

②魔物をあえて召喚させて帳を待ち伏せする


「魔物は冒険者ギルドに力を入れてるこのリングレットでは対処可能。今一番に集中しないといけないのは全体的にな犯罪率の大幅な減少です」

「なるほどな...」


犯罪率を下げるとして、ルフォードさんと暫く歩道を歩くけどやっぱり何も見当たらない。警備隊は捕まえられなかったのにヴィンスは半日で捕まえられたのも引っかかる


「なりきるか...」


新しい視点、犯人になりきれば何処かヒントが出るかもしれないと目を閉じた



(僕は犯罪者、もしこの下町で犯罪を犯すなら…)



指名手配書にあった人物の情報を参考に考える


最近多発してる大柄と小柄二人組の被害届。犯行は主に強盗に誘拐、そして殺人。小柄の方が根回しをして大柄の方が行動、ほぼ力技で被害者が圧倒さるケースが多い


(小柄の方になりきよう)


誘拐は身代金を用意すれば解放されるけど酷ければ死体のまま送り返される。殆どは金銭的な問題で狙ってきて、狙った相手に価値が無かったら最悪の場合殺される


組織に所属はしてない。むしろ殆どの犯罪組織はキョーコ様の時代で徹底的に潰されたから今では目立った大きな組織などはない


あの二人の犯行...獲物(被害者)は候補を幾つか見つけて、一人に絞ったら大柄の男と共に追跡する。こっそりと警備隊に見つからない歩道へ先回りをして待ち伏せする。被害者がその道へ近づいたら大柄の男が捕まえて犯罪に移る...力任せにもなるから警備隊の巡回ルートから離れて...なら助けを叫んでも声の届かない場所を決めないと...だったら先に位置を把握して...


(位置を把握...?)


引っかかる点を検出し、見開くと困惑して距離を取るルフォードさんが僕に確認の言葉が来た


「坊ちゃんか...?」

「そうですよ?」

「...だよな、急に気配が指名手配の野郎と...いや、俺の気のせいだ...」


ルフォードさんはとりあえず置いといて、警備隊の動きを知るにも警備隊の居場所を把握は必要だ...犯行に移る前の下調べとしてやっぱり先ず巡回ルートを警戒するだろう...巡回ルートと言えば、この道を一緒に通ったのを覚えてる


「いつも巡回する経路は同じなんですか?」

「あぁ、被害報告が出ない限りはな」


いつも通る道...


「ではヴィンスは何処で犯人を捕まえたんですか?」

「こっから随分離れた外れのとこだ、アイツを追いかけるのに苦労して気付いたら大分ルートからズレてたな」


指先は普段人々が多く通る場所ではなく、入り込む住宅街の歩道の方向を指した


「なるほど...ではちょっと道を変えてみませんか?」


*****


「っ!?何で警備隊がこんなとこにいんだよ!?」


ルフォードさんと今まで通った事ない道を暫く歩くとあっという間に指名手配された男二人が現れた


「た...助けてください!!」


大柄の男の隣には助けを呼応被害者の男性。短剣が首元に向けられて、今にも怪我をしそうだ。小柄の男も僕達を見かけるまでは小銭が入った小袋を片手に弄んでた


「ずらかるぞ!」


僕、というより警備隊の制服を着たルフォードさんに動転してすぐさま逃げ出す小柄の男。逃げる小柄の男と僕たちを交互に見て理解が追いついたのか被害者を放り投げて直様小柄の男の後を追って走る大柄の男


「おい待て!」


被害者に怪我が無いか確認を取った後、先に行ったルフォードさんの後を追いかける。まさかこんなに簡単に見つかるとはあの犯罪者達...いや下手をしたらルフォードさんも思いもしなかっただろう


戦い慣れしてる冒険者や警備隊を避けるには僕たちの動きを把握するに限る。巡回ルートは警備事務所のマニュアル通り、全く同じ経路を十数年前からずっと使用してる。法律でもマニュアルでも一言一句、必ずルールに従って実行する。応用などせずに上官の指令は絶対。これは軍事国であった勇王国出身者の癖なのだ


毎回同じ巡回ルートだったから位置や時間帯を把握するのは簡単になる。それを利用して警備隊の目が通らない裏道で人を誘い込んでは犯行に移るくどいやり方だ


先週の件、ルールなどに構わず自分の意思で猪突猛進に突っ込むヴィンスの破天荒さが今回見たいにマニュアル外の道へと導いたのだ。おかげで指名手配犯も見つかり、型破りのヴィンスの暴れん坊さが逆に役に立ったのだ


「あれ…?」


ルフォードさんの後を追いかけてたつもりが、どうして指名手配の二人が目の前にいるんだ?


「坊ちゃんいつの間に…!?まあいい、そいつらを捕まえてくれ!」

「わ、分かりました...!」


小柄の男が一歩下がり、すれ違う様に大柄の男がナイフを片手に突進する。稽古が始まった時、ヴィンスが何度も使う技。と言うか単純な突進だ


上位悪魔と遭遇した時と同じ、狭い通路。護身用の剣は長すぎてこの狭い空間で振り翳すのは難しい。魔力激化症からまだ完全に回復できてないから魔法は使ったら反動で更に魔力が溢れ出る


色々と制限があるのにどうしてだろう?全然怖くもない


今回は魔法を使わずに相手を捕まえる方法...騎士団に入ると長期の戦いで魔力を温存するため剣など近接の武器を主に使用する。魔法に頼り切ると直ぐに体力が尽きるから


色んな人と対戦してみろとクルックスも言ってたし今回はいい練習になるだろう


「どけっ!」


不安定な踏み込みで短剣の握り方も赤子が初めてフォークを掴むのと同然、まるで素人。今まで恵まれた体格と力任せで全て押し通したんだろう


全然遅い、魔法を使うまでもない


大柄の男は腕で僕を押し退けるつもりが、寸前でしゃがみ、勢い余った腕は前のめりに行き、剣の鞘で足を躓かせたら滑るように地面と顔面に直撃した


こんなにあっという間に終わったなんて、最近はヴィンスでもこんなヘマをしないよと考えつつも縄で腕を拘束する


小柄の男は僕が大柄の男を捕まえた事に気が動転して振り返ると後ろにルフォードさんが追いかけてた事を忘れてあっさり捕まった


上位悪魔に帳、それにこの犯罪者

クルックスの課題も少しずつだけど着実にこなして上達した感覚もしっかり身についてる。焦らなくても自分のペースでやれば良いんだ


それに帳の件、手がかりが何処にもなかったなら引っぱり出せばいいと何か掴めた気がした


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