4話 いざ、王宮へ
そこはいつも見る同じ場所だった。
見覚えのある白い空間に青年と妖精が話し合ってる。
今回は青年の言葉が分かる
「もうそろそろだな」
『そうだね』
前と違って今回は仲良く語り合ってる様子だ。話し合う内容は似たような話題が多い。でもその話題は僕にはあまり理解できない
「この周回が終わったら日本に帰りてーな、ずっと帰ってないから新作ゲーム溜まってるだろうな。特にあれ、魔物をボールで捕まえる奴」
『あーはいはいアレね。最後に遊んだのは白と黒だったかな』
にほん?ボール?
魔物をどうやってボールで捕まえるのかな?
前に叔父様が炎魔石を飛行系の魔物を狙って投げてたのは覚えてる。そうやって飛んでる魔物を地に落とすんだとかなんとか。でも落とすのと捕まえるのは違うことだし、そもそも小さな玉で大きな魔物をどうやって捕まえるのかな?
うーん...
「お前知らねーのか?あれからもう4作品出てるぜ」
『マジで!?』
「ああカヤが言ってた。今は確か月と太陽だった気がする。」
『うわー帰りたい!帰ったら一気に遊ぼう、全部一気に遊ぶ!父さんちゃんと買ってるよね!?忘れてないよね!?』
作品?作品ってどういう事?
魔物を捕まえる道具が作品?
「っと、その前に」
青年が何か思い出したかの様に僕の前まで近づいて人差し指を出した。僕が此処にいる事は分かってっるらしい...というよりも僕は此処でも存在してるんだね。
「ああ、そうだ。ま、細けー話は置いといて一つアドバイスをやるぜ」
あどばい...す?
「まー助言みたいなもんだ。いいか、王宮に着いたら離宮の外れに建てられてる塔に行ってこい。絶対にだ、分かったな?」
『助言って言っておきながら絶対に行けって、普通に命令じゃん』
「っうせ、伝わればいいんだよ」
『はいはい、分かりましたー』
塔に...?
どうしてですか?
「いいか、絶対に行けよ!」
その言葉が最後に、僕はあの不思議な夢から目が覚めた
*****
「今回は懐に仕舞ってた小さな鉄の玉から図鑑にも載ってない白と黒の魔物が出て来て月と太陽に変わった夢...ですか?」
「...自分で言っといて何が何だか分からなくなった...」
大きな魔物がいたのは覚えてる。
そしてその魔物を自由自在に出入りできる小さな不思議なボール...残りはあやふやだ
「今日は王宮に行かれますからもっとかっこよくしないとですね。」
「うん、それでねケレン、今日は馬無し車に載って行くんだ!」
「まぁ、それは楽しみですね」
フローレンス廷は王都から離れていて普通の馬車なら丸一日は掛かるくらいの距離にある。でも父様が使う馬無し車はとても速く、王都まで一刻で着いてしまう。形は普通の馬車とは違って全体が鉄で覆われてるし馬ではなく人が自由自在に操るらしい。とある発明家の力作で貴族たちの間ではよく使われてる
「かっこいい!」
「お前はジドウシャに載るのは初めてか」
「はい!」
ジドウシャて言うのか!近くで見ると普通の馬車より小さい...でも何か強そう!
「そうですかね?私にはよく分かりません。鉄の塊としか見えませんね」
ケレンは分かってないなー、その鉄の塊が凄い速度で動くのが凄いんだよ
「では行ってらっしゃいませ」
「うん!行ってきます!」
僕は父様と一緒にジドウシャに載ってフローレンス邸を後にした
*****
ヴィンスが言ってたように王宮はかなり広かった。
廊下の幅はジドウシャが余裕で通り抜けられるほどだ。天井も高くてジドウシャを二台重ねてもまだ届かないと思う。廊下の先も遠い...端から端まで行くには普通のジドウシャで2分くらいかな?こんなに広いと迷子になりそうだ。いや、僕はもう迷子にならないぞ
「そんなにジドウシャを気に入ったのか?」
「はい!凄かったです!」
父様のジドウシャは凄かった。見た目は普通の馬車より小さかったけど中は思ったより広かっし凸凹した道を通っても揺れを全く感じなかった
そして速い。凄く速い
帰りも乗れるからそれも楽しみだ
「ついて来い。職場まで案内する」
「はい、分かりました。」
父様が手を出した。反射的に自分の手を差し伸べると掴んでくれた。あぁ、手を繋ぐんですね
「これは迷子対策ですか?」
「あぁ、ケレンが...まあいい...あ、いや...」
「...?」
父様は少し考え込み言葉を返した
「王宮は広い。一つ角を間違えれば元の場所に戻るのも一苦労だ。それに使用人は上位貴族出身の者が多い、迷って奴らに道を聞くと逆に厄介なことに関わる。そうなるくらいなら迷わないように繋いどけとケレンから念を押された」
「そういう事でしたか。」
「そうだ。」
父様、ケレンに怒られたのかな?今回は何を言ってるのか分かる。
「ラートはベアトリス公のユージンに会った事はあるな」
「はい、去年僕の誕生日の招宴に来ましたね」
ユージンさんは東西南北、其々の防衛大臣、そして防衛担当の騎士団の総司令官を務めている。そして父様はその側近。もし僕が爵位を継ぐことになるなら、この仕事も継ぐことになる。
「今日は主にユージンと書類仕事をする。昼休み頃に騎士団本部まで行く。そこでオスカーにお前を預ける。その間あいつに色々教えてもらえ」
「はい、わかりました。」
今回は父様の事務室ではなく、ユージンさんが使う事務室に向かった。此処も何度も通るかも知れないから道をちゃんと覚えないと。
「ラート、お前は領地の管理と騎士団の指揮、どちらも才能がある。お前はどうしたいか...返事...によってはお前の新しい兄妹の役割も変わってくる。お前の意見が聞きたい...俺はどちらでも構わないと思う...好きにやってくれ。」
「はい、この見学で何か分かればいいと思います。」
喋るのに慣れてないのか、少しぎこちなさを感じる。
父様、言葉を交わすのはそんなに難しくありませんよ?
それより周囲からの視線がやけに突き刺さる。使用人や騎士、臣下たちまで僕達を見てるのが感じる。服はケレンが選んだから変ではないと思うし、ヴィンスもよく来るから子供が珍しいわけでもない。
この疑問はユージンさんの事務室に着いてから解けた
「しかしあの無粋で有名な侯爵様でも子供と手を繋いで歩くと雰囲気が変わるな。」
ユージンさんの一言で全てが納得いった。父様の口数の少なさはフローレンス邸内だけではなく王宮中に知れ渡ってるらしい。
「ユージンさん、おはようございます。」
「やあ、コンラート君。久しぶりだね。」
父様とは違って表情豊かな人はユージン・アシュレイ・ベアトリス公爵。ユージンさんは黒髪だけど、公国出身の人達と違ってストレートだ。あの夢で見た青年の髪と似てるけど顔の形は少し違う
…夢?確か僕が見た夢は魔物を小さなボールを使って魔物を捕まえる夢だったはず。その夢の中に青年はいなかったような...
「ラートは迷子になりやすい。一度でも目を離すと消えて居なくなる。ここまで来る時も少し心配したが思いの外大丈夫だった。」
父様、今度はちょっと正直に喋りすぎではないですか?
「そんなにこの子の迷子癖は酷いのか?」
「迷子癖って…そこまでではありませんよ…」
*****
「北のラントリー諸国で怪しい動きがあった。用心の為、兵を増やそうとの志望だ。」
「却下だ。今は何処も人手が足りない、特に西の防衛の人手不足は深刻だ。これ以上増やしても臆病な諸国から攻めていく訳でもないし状況も変わるわけでも無いだろう。今の兵数で対処可能だ。」
「分かった。そう回しとく」
小さな机に椅子、僕が座るのに丁度いい大きさ。その上にお菓子と紅茶が用意されてる。これが総司令官様の事務室に違和感なく置いてあるのがまた不思議。父様の用意周到さはここにも出てる。お菓子を食べてる間も父様は次々と書類などを読み上げてユージンさんが決断をする
「最近またこの国の犯罪率、並びに被害者も増えてる。『黒扇の帷』もまだ捕まってない、防衛に努めてる騎士を派遣するためお前の許可が欲しいらしい。」
「警備隊だけで何とかできないのか?」
「国王ご自身の申し出だ、断る事は出来ない。警備隊だけでは手に負えないからだと」
「陛下はまた..」
「陛下は民を人一倍大切に思ってる。彼はそういうお方だ」
「...これは申告期限までまだ時間がある。一旦保留にしといてくれ」
父様の主な仕事は山のようにある書類や報告書などを整理し、管理する事だ。僕も一つ読んでみたけど難しかった。何ページも事細かに書いてある長文、とても読みづらい。今さっき父様が読み上げた報告書も20ページはあった。それを簡単に一文でまとめてた。
この仕事癖が父様の性格に影響したのかな?
それに見てるだけで本当に良いのだろうか?
紅茶を飲んでる間にも臣下達が何度も出入りしてとても忙しそうで、昼を過ぎても臣下たちが次々と出入りが止まらない。
「すまないねコンラート君。折角王宮に来たのに今は手が離せなくて。」
「いえ、大丈夫です。」
昼休みになったけどまだ一括りが出来てない様子だ。
「ラート、お前は先に騎士団本部に行ってくれ。」
「それと道に迷ったら騎士に道を聞くように。使用人は辞めといたほうがいい。」
「はい、分かりました」
「ラート、分かったか?騎士に道を聞くんだぞ、」
何故迷子になる前提で話が進んでるだろう...
父様そんなに僕が迷子になると?お兄ちゃんになるんだから迷子はもう卒業するはずだ!
「僕は大丈夫ですよ、父様達はお仕事頑張ってください。」
*****
ーユージン視点ー
コンラート君と久しぶりに会った。
彼も去年と比べて随分大きくなった。子供の成長は速いとよく耳にする。ゼオノールも7つになるとここまで大きくなると考えるとまだ先のことだが少し心寂しさを感じるがそれより...
「コンラート君、右に曲がってなかったか?騎士団本部はこの部屋からまず左に曲がらないと行けないはず...そっちの道は確か後宮...」
王宮は広いがコンラート君は迷子になりやすいからって早速道を間違えるはずはないだろう。
クリスの口下手さを即座に疑った。
「クリス...ちゃんと道順伝えたのか?」
「いや、伝えても迷うのは目に見えてる。だからあえて伝えなかった。」
果たしてそれは正しい事なのか?
「それで本当に彼を一人にして良かったのか?」
「大丈夫だ、ラートは人に道を聞くことが上手い。騎士団本部にもちゃんとたどり着くだろう。」
「でもこれは一応、オスカーに伝えたほうがいいじゃないかい?」
「そうか?」
何故そこを疑う?
「...クリス...君はいつも昔から...こう何故...人に伝えるのが拙いんだ...」
「む、気を付けてはいるつもりだったが...」
オスカーの苦労も目に見える。




