表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/42

36話 シンの法則

雷炎が帳を貫通した直後ルフォードさんにまた背中から引き寄せられ、同時に爆発音と暴風が狭い路地裏通路を吹き荒らし、建物の破片や砂埃で目の前が見えなくなった


「ヴィンス!そっちは大丈夫か?」

「おう!でもすげー爆発して吹っ飛んだぞ!」


ルフォードさんの呼びかけに元気よく返事をするヴィンス。暫くして砂埃が晴れると焼き焦げた雷模様が帳に放った水球を中点的に広がって路地裏の壁は半壊、今にも崩れ落ちそうだった。何の音かと武装した冒険者や近くにいた人々が集まりつつある


「いない...」


しかし肝心の帳は何処にも居なかった


「一瞬だがローブの中から巻物を取り出してたのが見えた。転移魔法を使ったんだろう。大魔術師グレイが残した転移スクロールがまだ残ってたとはな...しかも帳の手に...」


帳がいた位置に血痕が残ってる限り無傷ではないだろう。だけど大魔術師グレイしか作成することが出来なかった転移スクロール。転移魔法でさえも習得に困難でこの国でもたった一人しか使えない難易度Sクラスの魔法。転移魔法を熟知して、さらにスクロールに書き起こすのはあまりにも複雑さ故に唯一作成に成功したのがグレイだった


だけどそのグレイも病に伏せ、数を残せなかった貴重な転移スクロールは十年ほど前に隣国の小国が最後の一つを使い果たしてもう存在しないはずだ。それを帳が所持していたとなるとまた厄介だ。他の転移スクロールも所持してる可能性だってある...いや、転移スクロールだけじゃなくて他にも存在しないはずのスクロールを持ってる可能性だってある。例えば精霊術のスクロールとかも...いや、それは御伽話にしか出てこないスクロールだ。考えすぎるのも良くない


魔物の様な気配、相手を威圧して縛り上げる能力、高い戦闘力に加えて転移スクロールの所持。帳を知れば知るほどややこしくなってきた。本当に僕たちで捕まえられるのだろうか


「ラート!お前何やったんだ!?俺の雷炎が爆発したぞ!」


考え事に浸ってたらヴィンスが目を輝かせながら走って来た。帳を捕まえる事は出来なかったけどヴィンスも無事だ。今回は犠牲者も出なかったし良い傾向と考えた方が良いのかもしれない


「水球と鉄を作ったんだ。本当は僕も高威力の魔法を使いたかったんだけど身体が思い通りに動かなくてね、微力の魔力で作成出来るものを考えたんだ。」

「そんだけであんなに爆発するもんなのか?」


興味津々で今にでも額がぶつかりそうになるくらい近づいて来るヴィンス。どうやって説明しようかな?


「どうして同じ雷魔法なのにヴィンスが使った高速移動は一直線に行けて雷炎はバラバラに広がったか知ってる?」


魔力でコントロールしない限り電流は一番通りやすい道を探して通る


雷が落ちる時直線じゃなくてジグザグに曲がって広がるのは電気が空気の中で一番抵抗の少ない場所を探して通るからだ。空気は金属とは違って固定された回路がないから空気中に雷魔法を放つと自然に広がってしまう。逆に言うと電気の通りやすい金属はその形の方向に電流が流れる。ヴィンスの雷炎は広がったのに金属(コード)を使った高速移動は一直線に行けたのが証拠だ


「ヴィンスのコードも銀で出来てるでしょ、銀は一番電気を通りやすい金属なんだ。」


電気の流れ、空気には抵抗があって金属ほど速く流れないし、電圧の威力も弱わまる


つまり電流は電圧に比例する


「それをオームの法則って言うんだ。シン様が考えた方式だよ」

「オームって誰だ?」

「それは分からない」


じゃあどうやって広がった雷炎を引き寄せたのか、そこにはもう一つの法則がある。

クーロンの法則だ


二つの極性が同じ電荷だと離れるけど反対だったら引き寄せられる。雷が落ちる方角も周囲の引き寄せる力に依るのが大きい


「ほら、磁石は物に依って引き寄せたり離したりするでしょ?その原理と一緒だよ」


魔力でコントロールしなければ雷や他の魔法は自然に任せられて道を作る。逆に言うと魔力さえ有れば、道を作るだけじゃなくて引き寄せる事も可能だ


ヴィンスの使ったフック付きのコードは高速移動の為に設計された魔道具だ。フックの先端には微力だけど小さな雷付与魔石が入ってて、周囲の物よりも引き寄せる力が高く、高速移動を使う時ちゃんとフックの方向に移動するようにと調整されてるのだ


この路地裏は雷炎を引き寄せられる物は無かった。じゃあそこにいきなり強く引き寄せられるほどの物体が現れるとどうなると思う?


「さっきみたいに雷炎は方向を変えて一気に集まるんだ。それで小さな鉄は耐え切れなくて爆発した」

「ちっこい鉄が!?どうやってやったんだ!?」

「...話し聞いてた?」


僕が咄嗟に作成した水球には鉄、雷、風、水の順番で四つの属性魔法を組み合わせてある。鉄に雷魔法を加えて雷炎を引き寄せるベースを作る。それを風魔法で囲い、更に水球に回転を加えて中の鉄を隠すだけではなく空気を豊富に含めて蒸発しやすくする


鉄だけ放つと雷炎の抵抗が強すぎて帳まで届かない。それに勘の鋭い帳なら直ぐに弾き飛ばされるから意味がないんだ。だから水球で囲って鉄を隠し、風魔法で放つ威力を上げた。帳の視点からの僕は視線の圧でやっとひねり出せた手のひらサイズの水球だ。追いかけてくる雷炎よりは警戒心も弱まるし、ただの最後の抵抗と思われてそのまま走り抜くだろう


「それでさっき言ったクーロンの法則の説明みたいに中の鉄が雷炎を帳まで引き寄せる事が出来たんだと...まあ、こんな感じかな?」

「クーロンって誰だ?なんでシンが作ったのにシンの法則とかじゃないんだ?」

「それも分からない」


記憶の中でキョーコ様もシン様に同じ質問をしたらしい。なんでも偉大なる物理学者様たちの功績をとる訳にはいかないと譲らなかったとか。僕には聞いたことない名前の人だからなんとも言えないけど


「つまりどういう事だ!?」

「僕が作成した鉄を使ってヴィンスの雷炎を一気に引き寄せたって事だよ」

「なるほど...分からん!」


そんなだと思ったよ、説明してる最中に目が点になって早く終わらないかそわそわしてたの丸わかりだったよ


「あれだ、お前の雷炎がボワッと広がってたのはオームさんの仕業でを坊ちゃんがズンッと集めて帳にドカッと刺せたのはクーロンさんのお陰ってことだ。」

「そういう事か!!」


なんでそんな説明で分かるの?ヴィンスには直感的に説明すれば良いのかもしれない...でも僕には理論が無いと無理だ。直感的に物事をやり通すなんて考えた事もない


「よくもまあ一瞬でそこまでの作戦をな練れたな」

「ヴィンスが使ったコードが横に落ちてたのでそれを参考にしようかと思いました。色々慣れない計算をしないと行けなかったので少々自信がありませんでしたけど」


魔力をコントロール出来たら簡単に引き寄せられたけどあの時は出来なかった。この国は魔力で何でも解決しがちな所があって、魔力が殆どなかったシン様のお陰でこの法則と原理を知る事が出来たんだ。魔力無しの環境を全部数式に変えるなんて誰が思いつくのだろう。さらにその自然体な方式を編み出せたなんてエドワード先生が尊敬するのも頷ける


唯一の問題点は戦闘中に計算しないといけないことだろう。魔力だと短時間で全て補う事が出来るからいちいち計算するとなると全体的にコスパも良くないからね


「いい線行ってたが奴には逃げられたな...お前をまた狙いに来るかもしれない」

「アイツまた来るのか!?」


そう、帳はまだ捕まってない。捕まらない限りこれからも犯行を続けるだろう。それが原作でも書かれてた事だ


「ちょって待ってください、今なりきりますので。」

「なりきる?」


今度は何処に現れるのかまた考えた。もう一度帳になりきって...と思ったらルフォードさんから警戒され剣を抜いてた


「何やってんだルフォード?ラートはラートだぞ?」

「お、おう...すまない、急に気配が似てつい...」

「ガハハハッ!ラートお前気持ち悪いと思われてるぞ!!」

「...気持ち悪いは余計だ。」


ネイトもそうだったけど、そんなになりきりが似てたの?警戒されたり腰を抜かしたりと、迷惑を掛けたのなら人前でやらない方がいいのか。今度はなりきらないで考えた。原作の内容と今対面した帳の行動...


「帳は...もう来ません。もう一度現れるのは帳にとってリスクが高すぎます。貴重なスクロールを使うまで追い詰められたならまた戻って来る程のリスクを取らないでしょう。」

「じゃあまた白紙に戻ったって事かよ...クソッ...」

「でもこれが第一歩進展したと僕は考えてます」


帳は捕まえられなかった。でも初めて正体を表して対面したんだ。そこからの情報は幾らでも引き出せる


「それとルフォードさん、助けてくれてありがとうございます。」

「俺は殆ど何もやってないぜ?坊ちゃんとヴィンスの方が大分活躍した様に見えるんだがな」

「いえ、ルフォードさんが僕を帳から引き離さなかったら今頃喉を突かれてそれどころではありませんでしたよ。ヴィンスもありがとう。助けに行ったのに逆に助けられたね」


ヴィンスにも感謝を伝えると「おうよ」と返事を最後まで言わずに急に固まってぷるぷる震え始めた。何か思い出すように徐々に俯いて返事がない


「ヴィンス?」

「どわああああ!!!忘れてた!折角ラートに勝つ秘密兵器を用意したのに見たんならチャラじゃねーか!」


ヴィンスの使った雷魔法の高速移動。雷は炎の分岐魔法だから基礎以外は殆ど無詠唱でしか使えない属性魔法だ。自分の体を雷魔法で纏い、光速の素早さに着いていけて維持をする程の瞬発力。あんな高度な技は熟練の冒険者でも数年かけて訓練してやっと使える技だ。僕にだってヴィンスほど簡単に出来ないだろう。


「でも凄かったよ。僕なんかあんな高速移動使えないよ」


ヴィンスが冒険者ギルドに行ったのはこの技を修得する為に鞄を用意したんだよね。そのせいで帳に狙われたけど...ヴィンスは照れ隠しながらもそっぽを向くがまた何か思い出しのか今度はルフォードに指を指して再び叫びだす


「あっ!そうだ、ルフォード!マーベルはどこだ!?最近全然会ってないぞ!見せたい物がいっぱいあるんだ!会わせろ!!」

「マーベル?」

「マーベルはマーベルだ!お前みたいにお節介ばかりかいて俺の事子供扱いするんだ!ルフォードはマーベルの親父だ!!」


そういえばルフォードさんも娘の事話してた気がするけどその子の名前がマーベルなのか。


「マーベルは母親んとこに行ったぞ」

「は!?いつの間にそうなったんだ!?今度何時会えるんだ!?」


母親の所、その言い方だと別居でもしてるのかな?


「今は黒扇の帳が先だ」

「あの嫌な奴の事か?そうか...そうだな!マーベルにとって危ない場所はよくねーよな!!」


自分でうんうんと頭を縦に振り納得した様子。別居していて、近衛騎士団の奥義を使ってたルフォードさんの事、あまり知らないんだよね


「だから暫くの間休暇を取ってたんですか?」

「そういうことだ。母親んとこの実家に連れて行くにも時間が掛かる、まあそれだけだったら直ぐに帰って来れたんだが厄介事に巻き込まれてな...とまぁ、よく覚えてるな、しがない警備員Aの事情を」

「警備員Aなんて、ルフォードさんは凄いですよ」


警備隊員の人達からの信頼が厚くて近衛騎士団の奥義を使える、少なくてもただの警備員ではないのは分かる。


「ラートは凄いんだぜ!気持ち悪い程なんでも覚えてるんだぜ!」


気持ち悪いは余計だ


「とりあえず警備事務所へ行くぞ。坊ちゃんの執事を安心させねぇと何をしでかすか分からないからな。何か坊ちゃんが狂いだしたとか言い出した時は何事かと思ったぜ」

「あはは...」


ネイトにはちゃんと説明したから大丈夫だと思ってたけどこれはまた一から説明しないとだな。ルフォードさんが駆けつけた冒険者たちに軽く説明をした後三人で事務所へ戻る事になった。


「てかラートが先頭で大丈夫なんか?俺たち全員迷子になって三日経っても辿り着けないぞ!」

「失礼だな...一度行った場所はちゃんと覚えてるよ。今回だって冒険者ギルドに辿り着けたし」


ネイトと同時に邸を出たのにルフォードさんとほぼ同時に目的地に着いたから遠回りしたかもしれないけど間に合ったから良いとしよう


迷子になってないと何度も自分に言い聞かせてたら視線を感じた


殺気が溢れる視線を

下町に来て初めて感じた嫌悪感と見下す殺意の視線


「どうした?」

「...いえ」


振り向いた先はルフォードさんがいただけで、帳がまだ近くにいるのか、それとも...いや、気のせいだといい


帳の事、ルフォードさんの事、ヴィンスの事やらで色んな情報が入りすぎてなんか...疲れたな...

今日はぐっすり眠れそうだ


*****


翌日上位悪魔と戦った同じ屋上で少年の遺体が発見された。被害者は上位貴族と愛人の間で出来た子で年齢は僕と同じ。僕を完全に切り捨てて舞台の物語を続ける事にしたのが伺えた


理系の内容は実を元にしたフィクションなので現実的に間違えてる所もあります。「ファンタジーだから」と偉大で寛大な心で読んでくれたら嬉しいです;;

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ