31話 交渉となりきり
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「うーん」
フローレンス邸の書斎で警備事務所にあった被害報告を読み漁ってた。
事件、被害者、犯人。
こういうのは本に答えが載ってる訳でもないから何処をどう調べたら良いのか分からない。
「そんなに唸って、どうしたんですか書類の革命を起こした天才元生徒様?」
「それがよく分からないんですよ、天才発明家...を尊敬する元先生。」
「褒めた感じで実は少しも褒めてない。コンラート様もやるようになりましたね。」
「わざとではないんですよ...それに天才だなんて」
書類改善はキョーコ様の記憶を漁ってたら偶然思いついた事だ。それにただ、「読むのが少し楽になった」程度の事でそんなに凄い事をした訳ではないと思う。
叡智の勲章の功績としてカウントしないだろうし。
「それにしても、コンラート様でもまだ分からない事があるんですね。」
「当たり前ですよ、僕を何だと思ってるんですか?」
「天才発明家を尊敬する凡人の生徒です。」
「さっき言った事を根に持ってますよね?」
分からない事は分からないに決まってる。
特にキョーコ様の記憶はよく分からない事の方が多い。
聞きなれない言葉を自分なりに解釈した結果書類の改善法に辿り着いた。
ついったー?文字数が足りない?
うん、分からん。
「それに書類の改善は出来ても、治安の改善は出来てませんから。」
この領、ましてはこの国の犯罪率が減るどころか増え続ける一方。
それに対して警備隊は人手が全く足りず。更に人手が足りない騎士を派遣しようと国王陛下が考えてる。
「犯罪者や犯罪率に関してはどう調べたら良いのかさっぱりですなんです。」
そうエドワード先生に伝えると「ふむふむ」と少し考えて、口を開けた
「では、良い策を教えましょう。久しぶりの授業ですね。」
エドワード先生は読んでた魔道具の書物を閉じ僕の前に座った。
「コンラート様は交渉をした事ありますか?」
「交渉?」
交渉...やり方はなんとなく、でも実際にした事は無い。
「はい、交渉です。そしてその交渉で一番大事なことは何だと思いますか?」
「...自分がどれだけ有利に立てるかですか?」
「ふむ...良い線を行ってますが、違いますね。貴方の父、クリステンは交渉を得意としますから彼が教えられたら良いんですが...まあ、あの言葉足らず、説明しても余計に混乱するでしょうね。」
「はは...それで、一番大事なこととは?」
「交渉相手を知る事です。」
エドワード先生は交渉の事で色んな事を教えてくれた。
相手を知る事
相手はどんな環境下に住んでるのか、どんな職業に就いてるか、そしてこの交渉で何を一番求めているかなどを参考にイメージするのが得策だと。
そして最後に
「一番イメージしやすい方法は相手になりきるですかね」
「なりきる...」
自分が相手になりきって、もし自分が相手ならどう考えるかと。
「これは犯人をどうやったら見つけられるか、捕まえるか、それも犯人と交渉をするみたいなものです。」
犯人を捕まえる交渉をするには犯人をよく知る事。
「犯人になりきってみてください。もし、コンラート様が犯行を起こすとするなら、何処で、誰に、そして何時起こすのか。そう考えれば聡明な貴方なら犯人を直ぐに見つけられると思います。」
犯人になりきるとは少し物騒だと思うがなるほど...
*****
「なりきるか...よし!」
エドワード先生の講義を参考にもう一度警備事務所へ行く事にした。
犯行の現場を見たり、警備隊から情報を聞いた方がなりきるイメージをしやすいと思ったからだ。
「ネイト、今日も付いて来るの?」
「当然です!サラさ...ゴホン、坊ちゃんの事が心配なんです。」
「そ、そう?」
今サラさんと聞こえたけど
照れ隠しながら何度も咳払いをするネイト。
なるほどなるほど、サラさん目当てか。
ネイト頑張れ、坊ちゃんは応援するよ。
ネイトの恋愛事情は置いといて、警備事務所は前来た時と比べて大分穏やかになった気がする。
書類改善の提案したら事務長は直ぐに食いついて実行した。その噂があっという間に聖王国中に広がって、今や殆どの所でこの書類改善法が使われている。
皆あの長い書類を読むの嫌だったんだね。
ネイトは着いた途端、我先にとサラさんの元へ向かい置いてきぼりになってしまった。僕は事務長から現場検証の許可を取ると数ヶ月と言ってもいいくらい久しぶりにルフォードさんと鉢合わせした。
「コンラート様、どうも。」
「ルフォードさん、久しぶりですね。」
ルフォードさんは一番最初に警備事務所に行った時以来会って無かった。何処か違う部署に配属されたのかと思ってたけど違うらしい。
「えぇ...色々あって、暫く休暇を取ってました」
「そうですか、もう休まなくても大丈夫なんですか?」
「はい、むしろ休みすぎました。」
サラさんや他の事務員もそうだけど僕がフローレンス家の人間と知ってからずっと敬語で喋るようになった。ちょっと距離が離れた感じで少し寂しい。
「コンラート様は何の用でこちらに?」
「ちょっと現場検証をしてみたくて、ルフォードさんが巡回するところを付いて行ってもいいですか?」
ルフォードさんは警備隊の中でもリーダー的な存在だから、色々知ってると思う。
「勿論です、コンラート様」
*****
ルフォードさんの巡回ルートを一緒に歩くけど会話が中々続かない。父様みたいに喋るのが苦手ではなく、自分から話しづらい感じかな?それは多分僕が貴族で、ルフォードさんと住む場所が違うからだと思う。貴族だと知らなかった時みたいに親しく話せたら楽しいのにな...
「ルフォードさん。話しづらいのなら、敬語を使わなくても構いませんよ、それに僕を様付けしなくても..,」
むしろ、馴れ馴れしい方が好きだ。
「そんな、恐れ多い事を...」
分かりやすく、わざと顔に出した。
敬語じゃなくていい、タメ口にして、
ずっと見つめると、ルフォードさんの方が先に折れて溜息混じりに頭をかいた。
「じゃあ、坊ちゃんで」
今回も安定の「坊ちゃん」呼び。
コンラート様よりは大分マシだ。
「初めてあった時みたいに坊主でも構いませんよ?」
「そこまで無神経になれるかよ。」
残念。でもルフォードさんと近付けたのは良しとしよう。
また暫く歩くと他の場所を巡回してた警備隊がルフォードさんへ走って耳打ちをした。
様子がおかしい。
「またか...すぐ行く」
ルフォードさんの顔つきも変わり、真剣な空気が漂う。
「またとは?」
「黒扇の帳の被害者だ。」
黒扇の帳。
それはリングレットの下町に来て以来何度も聞く言葉だった
学業の為、1-2週間は投稿はお休みします。ここまで読んでくださって本当にありがとうございます!




