25話 警備隊
「身体が...痛くない...?」
呪いが発動されて体内を壊されたはず
でも今僕は普通に深呼吸も出来るし、身体も重たく感じない。
それ以前に戦う前より身体の調子がいい気がする。
そして穴が開いたはずの腕と腹部も服には跡があって周りに血が沁み込んでるけど肝心の傷口はなかった。
地魔法、炎魔法と水魔法を同時に使った水蒸気爆発や広範囲に警告するために使った調音魔法でかなり魔力を消耗したはずなのに全回復してるし、
この、光の付与魔石...上位悪魔を倒せて、それで更に所持者を全回復させる。
この魔石にどれだけ高位の光魔法が入ってたんだ?
魔法を付与したのは神官...いやそれ以上かもしれない...
今は使っかたから色も透明になって空の状態。
このおかげで僕は助かったけど...
「価値のある大切な者を勝手に使ってしまったのかな...」
鞄の持ち主に合うことが出来たなら感謝しなくては。
*****
ー??視点ー
緊急事態警告が出た、指笛で計四回、魔物の出現を意味する。
町のど真ん中で急に出現したとなれば『黒扇の帳』の仕業に違いない。
被害が拡大する前に手を撃たなければ...
「ルフォードさん!」
「サラか、お前も警告を聞こえたんだな。」
「はい...え?あの警告、私はてっきりルフォードさんがやったとばかり」
サラの巡警経路は俺と離れたはず...確か三キロくらい...
そこまで届けられる調音魔法は俺にだって出来ない。
一体誰がやったんだ?
「冒険者ギルドに伝達は?」
「既に済ませておきました、冒険者たちも直ぐに来ます。私が担当した区域の避難も終わらせましたし、戦う準備は出来ていますよ!」
「ったく、優秀な後輩だな。冒険者が来るまで持ちこたえるぞ!」
「はい!」
指笛が鳴った根源たる所へ駆けだした。
今度こそ奴の手掛かりを掴んでみせる。
*****
出現したと思われる通路へ辿り着いたが肝心の魔物どころか人の気配も無かった。
誰が出したのか分からない緊急事態警告に何もない狭い通路。
あるのは地面に開いた妙にデカイ穴だけ...
「この穴、地面が爆発でもしたのか?」
何処かおかしい。
「何かの間違えだったのでしょうか?」
「それだったら魔力を大量に消費する調音魔法をあんな広範囲に鳴らす理由がねぇだろ」
何らかの爆発で近くに居た人が魔物が出たと勘違いして鳴らしたとしても、その鳴らした本人がどこにもいない。
「一般の人は広範囲どころか調音魔法を使える人が少ないですし、もし冒険者が間違えて鳴らしたとしても私たちに連絡がくるはずです。」
「お前もギルドに居たんだからその時連絡が来てもおかしくないはずだ。だったら、勘違いではない...」
二人で状況を整理しようと頭を捻るが答えが出てこない。
「すみませーん、警備隊の人ですか?」
頭上から声が聞こえたから上を向くと少年が屋上から顔を出してた。
クリーム色の髪に琥珀色の瞳、ここら辺では見かけない顔だ。
いや、誰かに似てる気がする...誰だったか...
「おい坊主、此処に魔物が出なかったか?」
「あ、はい。でも倒しました。」
...「倒した?」
『黒扇の帳』が召喚する上級ランクに位する魔物を?
「今その少年『倒した』って言いましたよね?倒れてたんではなく。」
「奇遇だな俺もそう聞こえたぜ。」
魔物が勝手にくたばったとしても、黒扇の帳が召喚した魔物だ。
被害を侵さずくたばるなんて、奴自身が許さないだろう。
「そんなことよりも、少し手伝って暮れませんか?」
魔物を倒すのが「そんなこと」?
「今、『そんなこと』と聞こえましたが、聞き間違えですよね?」
「奇遇だな、俺も聞き間違えたぜ。」
混乱してる立ち止まる俺たちを待ちきれなかったのか少年が飛び降りてきた。
無詠唱の風魔法を器用に使い上手く着地。
こんな小さな少年がもう既に、無詠唱魔法を使いこなすとは。
「屋上にいる人達を降ろしたいんですが僕一人では出来ないので手伝って下さい。」
「おっ、おう...」
何者なんだこの坊主は
*****
「屋上で戦闘が起こったんですね。」
坊主がいた屋上まで上がったらそこには戦闘や魔術を使った痕跡に幾つか血の溜まり。そして血の溜りの一つは三人の死体から漏れ出した血だった。
身体の形は残ってるが、体中血に染まって顔の確認がしづらく酷い有様だ。
「帳の被害者か」
「すみません、助けられませんでした...僕のせいでこの人たちは巻き込まれて」
その坊主も怪我こそ見当たらないが服や顔に血が染み付いてる。
「坊主、恐ろしくないのか?」
こんな死体を目にして、
「慣れてます。」
「慣れてる...騎士の家系か」
騎士団に入るということは戦争に参加する事になる
勿論、戦場では死者も少なくない。
戦場に立つとき目の前で人が殺されても戦い続けないと行けない。
動揺したら、更に自身と仲間が窮地に立たされるからだ。
だから慣れるため、生き残るため、幼少期のころから何度も負傷者や死者を見せられる方法が騎士の家庭では当たり前になってる。
酷なことだ
「はい、第七騎士団に入団するつもりです。」
「そうか、キツイな」
「キツイんですか?」
第七騎士団と言えば魔物の軍勢を相手にするから他の騎士団と比べて死亡率が随分と高いと聞く。
騎士の任期は大体十五年。
だが第七騎士は団長を除けばたったの五年。
それくらい厳しい戦場にたったの一団で立ち向かわなければいけない。
「君、本当に大丈夫なの?」
サラが近づくと顔を隠すが、よく見ると泣いた跡がある。
やっぱり無理してるな。
「本当に大丈夫です...この涙も、自分で流した訳では...」
「お前何歳だ?」
「もう八歳ですよ」
八歳...俺の娘なんて十二になってもまだ駄々こねってたんだがな。
こんなにちゃっかりした八歳児見たことない。
これも騎士の家庭だからなのか?まるで大人と話してるみたいだ。
「まあ稀にお前くらいの年齢で落ち着いてる子供もいないわけでは無いからな。ランディ商会初代会長もそうだったと聞いてるしな。」
「シン様のみたいにですか?」
「おっ、知ってるのか?最近のガキは知らねーとてっきり思ってたが違うらしいな。」
本当に子供だと思えない。
「名前は?」
「コンラートです。」
「コンラート...古風な名前だな。」
「曽祖父 から取ったと父様が言ってました。」
「分かったコンラート。疲れただろう今日はゆっくり休んで、明日警備事務所に来れるか?色々と質問がしたい。」
「あっ...出来ません...」
出来ない?何か理由でもあるのか?
「コンラート君、事務所に来れない理由でもあるの?」
「その...」
「言いたくなかったら別に良いんだよ?」
「いえ、そう言う訳では...」
サラの質問にも言いづらそうにしている、
事務所に行ったと知れば親にバレて怒られる...みたいな感じか?
「その...此処、何処ですか?事務所は何処なんですか...?」
「...お前...迷子だったのか...」
前言撤回。
普通の子供に見えてきた




