20話 『主人公』と『モブ役』
キョーコ様は異世界人だった。
その異世界人は皆、特殊な力を持ってるらしい。
それは才溢れる剣術やら、膨大な魔力、天才的な頭脳。
そのすべての才能を持ってやってくる者も少なくない。
そして彼らは必ずこの世界の変革に貢献する。
災いをもたらす者もいれば、救世主になる者もいる。
キョーコ様、勿論タクマ様もこの国に大きく貢献した人たちだ。
異世界人のご先祖を持つユージンさんが黒髪なのも納得だ。
その異世界人のキョーコ様が書いた仮説や論文。全部読みやすさを重視してる。
他の顕彰者は自分こそが『叡智の勲章』を手に入れるが為に文献を書いている。
その為、他が真似出来ない程複雑な書きかたが殆どだ。
新しい発見をして、自分こそが証を貰うに相応しいと見栄を張ってるようにも読み取れる。
誰も過去の文献を読み、参考にしたりなどはしてない。
キョーコ様みたいに人の為ではなく正に自分の功績の為にと
そして現在、キョーコ様の名が知れ渡らなかったのは
今の流行り病では彼女が提案した対策法が全く効かなかったと言う。
そのせいで彼女の論文の信憑性が低下して誰も彼女の論文や文献を読まなくなった。
彼女は失敗したけど、仮説は応用はかなり効く。
幾らでも直す方法はある。
この白い空間で考えをまとめた。
僕自身の考え事は夢から覚めても覚えているけどこの白い空間に関することになるとあやふやになるんだよなぁ...
『あっ、先輩お久~。カヤちゃんは元気~?』
そして、いつもの白い空間にいつもの面子...の中にもう一人見知らぬ人が居た。
20代前半くらいの男性で、桃色の髪をしている。
誰?
妖精と青年は馴れ馴れしく話してるから知り合いなんだろう。
「〇...X◆△〇」
そして『先輩』と呼ばれる男性の言葉は僕には分からない言語だった。
『えー良いじゃん!別に誰も咎めてないんだし。』
「そうだそうだ!社長もなんも言ってねーからそれは好きにしていいってことだろ!」
「X◆△△〇...」
『先輩』は頭を掲げて大きな溜息を吐いた。
一瞬僕と目が合うと再度溜息を吐いた。
僕、何かした?
「△〇...X◆△〇?」
『ん?ユラナちゃん?ユラナちゃんも元気してるよー』
ユラナちゃんって...この妖精、女神様のことをちゃん付けしてるのか?
聖国出身の人が聞いたら発狂してしまうレベルの不誠実さだ。
いや、妖精は宗教を信仰とかするのかな?
「◆△X◆△〇」
「おう、じゃあな、先輩。カヤにもよろしく言っといてくれ。」
『バイバイー』
『先輩』は立ち上がると一瞬で消えた。
空間魔法の一種なんだろうか。
人がこんな早く魔法を発動させたのは初めて見た。
それによくよく考えるとこの二人...何者なんだ?
*****
「ん?どうした?」
君たちって何者なの?
「...?どう答えたら良いんだこれは」
じゃあ名前は?僕、コンラート。
『んじゃあ、私スケさんで』
「それなら俺はカクさんになるのか?」
疑問形で答える青年。
本名を言う事が出来ないのか?
『それだったら水戸黄門は誰になるの?』
「さあ?先輩か社長なんじゃね?」
みとこうもん...はとりあえず置いといて
カクさん、黒目黒髪だから異世界人なんだよね?
「おう、そうだぜ。よくわかってんな。」
異世界人は特殊の力を持ってる、なら黒目黒髪のカクさんたちもなにか特別な力を持ってるの?
『いやいや、私たちはただ一人の『モブ役』の夢の空間を借りてのんびりと『主人公』が現れるまで待つ係だけなんだよ。』
『モブ役』...それは僕のこと?
...その『モブ』ってどういう意味なの?
『まあ簡単に言うと、『主人公』と殆ど関わり合いがないことを示す人のことだね』
「そんな『モブ役』の中にしか入れない俺たちもモブって訳だ。特別な力は欲しいがねぇな。」
それでその『主人公』は?
『国を、たまに世界の未来を変えることが出来る運命が強い人たち...かな?』
運命の強い人...
『一定の未来は最初から決まってるんだ。幾ら時を遡っても、繰り返しても、必ず同じ未来になってしまう。だけどそれを変えることが出来るのが主人公なの。』
「この五十年の間で『決まった未来』と言えば、鑑定制度の廃止、疫病の蔓延、それと...
フラトリックの悲劇」
それを聞いた瞬間、身体の奥底まで冷えた感覚が襲った。
そして怒りなのか、恐怖なのかよくわからない感情...
正妃である第一王妃様と王太子様が殺されたことも『決まった未来』だなんて...
王女殿下が酷く虐げられるのも『決まった未来』になる...
『魔王の復活もそうだよね』
そんなに『決まった未来』は多いんだね...
しかも全部僕たちに深く影響する出来事だし...
「そうだ。だからこの世界には『主人公』が必要なんだ。」
それで僕は『モブ役』だからその『決まった未来』を変えることは出来ない...
僕の未来は何をやっても、もう既に決まってるてことになるの?
『ううん、それは君の頑張り次第だよ。頑張ればその頑張りが報われる...ユラナちゃんはそう望んでこの世界を創ったから。
ただ主人公は別格で、彼らは運命はこの世界より強いから簡単に未来を変えることができるんだ。』
じゃあこの国に貢献したタクマ様やキョーコ様も『主人公』なの?
異世界人は皆主人公になるの?
『そうそう、あっ、でもタクマ君の場合、ルーベンの方が『主人公』だったかな?でもタクマ君も十分運命が強かったね。』
『主人公』になれる存在はルーベン様みたいな人か...
「...あまり驚かないんだな。」
うん、僕は王女殿下さえ守ることが出来たら何だって良いんだ。
たとえ『モブ役』の僕でも頑張れば助けられる。それさえ分かれば良い。
『うん!偉い!何処かの面倒くさがり屋の先輩より偉い!』
「うし、偉すぎて涙もろい妖精を泣かせたお前にもう一つアドバイスをやるぜ」
アドバイス、助言のことだね
カクさんは「そうだぜ」と一言頷いたあと、助言をくれた
「キョーコが書いた本の中の一文、『周りを観察しろ、そうすれば何か答えが出るはず。焦らず時間をかけて一つづつ答えを導くのがより効果的だ。』疫病のことだって専門知識が無くても違う方法で探せば良いんだ。ずっと邸の中で引きこもったて、分かるもんは限られる。外に出てみろ外に。」
*****
「...外か」
王宮やベアトリス公爵廷に行く時以外はずっとフローレンス廷に引きこもってるからな。
「何処へ行こうか...」
心当たりは十分ある。
*****
人が殆ど居ない訓練場。
先週までクルックスや叔父様に指南してもらって賑やかだった場所も今は僕とヴィンスくらいしか居ない。
そのヴィンスは自信満々と訓練場の真ん中に立ってた。
「ラート!勝負だ!昨日使った憲法は結構良い線行ってたよな!今度はそれと剣を使うぞ!」
勝負の前に先にどの戦法を試すか対戦相手に伝える人が居るのだろうか。
居るな、目の前に。
「...分かった。じゃあ、試合が終わったら一つ頼み事をしてもいい?」
「ん?なんだ?」
これは前もって言わないとヴィンスは負けた悔しさで僕の言うこと一切聞かないからな。
「ヴィンス、僕も連れてってよ。」
いつもエドワード先生の授業をサボってまで行く場所に。




