19話 異世界人
「やぁ、コンラート君、よく来たね。」
「ユージンさん、急な押しかけすみません。」
まさか次の日からベアトリス公爵廷へ行けるなんて誰が思っただろうか。
「君のお父さんから連絡も来たし問題ない。もう少し詳細は欲しかったけどね。」
勇王国出身のフローレンス家とベアトリス家は領の距離も近く、ジドウシャがあれば簡単に行ける。
王宮より近いし連絡もすぐに届くだろう。
「因みに手紙にはなんと?」
「『ラートがそっちに行く。』かな?」
父様は手紙でも言葉が足りてなかった。
「はは、これは今になって始まったことじゃないから構わないよ。それにコンラート君のことだしあまり心配はしてないね。」
「そうですか...」
父様の方が年上のはずなのに仕事以外のことになるとユージンさんの方が父様の面倒を見てるように見えるのは気のせいだろうか。
「あ、それとユージンさん、宰相への昇格おめでとうございます。」
ずっと笑ってたユージンさんは真剣な表情に変わった。
あれ?僕何か変なこと言ったかな?
「どうしてそんな機密情報を...」
「クリステン...」とユージンさんは声に出した後頭を抑えて少しふらついた。
「私は君より君の父の方が心配だな。」
「...否定は出来ませんね」
機密情報を簡単に漏らす父様...きっとこのことも大したことでは無いと思ってるんだろうな。
「...ウィルデ大公の退職以来宰相の席が空席で、議論がずっと続いた中、結局のこと私に決まったんだ。」
退職...処刑ではなく?
ユージンさんは隠そうとしてるが父様からこのことも既に聞いた。これも口に出したら更に頭を抱えそうだから黙っておこう。
「それで父様を防衛総司令官として推薦したんですね。」
「彼は側近として終わらせるには勿体ない。無粋だが仕事は出来る。それに私の側近になる前まで西の防衛大臣を務めてたし、経験も十分にある。陛下も問題ないと仰ってたよ。」
父様は西の防衛大臣だったのか。
知らなかった。
機密情報は教えてくれたのに、王宮勤めならみんな知ってる前の職は教えてくれなかった...
何か...順番が違う気がする...?
「あっ、これはまだ公開されてないから秘密だよ。それに立ち話もあれだ、中に入ったらいい。」
*****
ベアトリス公爵邸。
僕たちの邸より広くて豪華だ。
そして迷子になりそうだ。
迷子対策の為に手を繋いでもらおうかな?
「そうか、キョーコ様について調べたいのだね。だったら書庫まで案内するよ」
邸の入り口付近の壁一面には幾つもの勲章が飾ってあった。
「これ、全部ベアトリス公爵家の勇王の証ですか...凄い...」
「うーん、そうであって、そうじゃないかな?話せば少し長くなるから歩きながら話そうか。」
フローレンス家も昔は数回顕彰されたことはあるけど、ここ数世代、顕彰されたことはない。この勲章を顕彰されたら王女殿下を助けることが出来るんだ。
僕も欲しいと思わず言葉に出してしまった
「勇王の証か...難しいけど目標として立てるのは悪くないかな。しかしどうしてなんだ?君はあまり目立つのが好まないと思ってたけど」
「...家名を好き勝手言われて欲しく無いんです...それと...王女殿下を助けたいんです。」
「そうか、なんとなく分かってたかな。」
「ユージンさんも反対しないんですね」
反逆者の娘として虐げられてる王女殿下のことを話しても何も嫌な顔一つ出さなかった。父様もそうだ、王女殿下の詳細を聞いた時、嫌な顔一つも出してなかったし、貴族全員が王女殿下の事を見下してる訳ではないんだ。
「私は第二王妃派だからね。それに彼女の環境には私も目を向けられなかった。君が初めて立ち向かって第二王妃派の者は君の事を称賛してたよ。」
立ち向かったと言うのは使用人たちと言い争いになった時の話だろう。そのことなら僕はこっ酷く罵られて泣きそうになったことしか思い出せない。
本当に立ち向かったと言うのか?
ヴィンスなら僕みたいに一方的に罵られることも無かったかもしれないけど。
「本当は、私もどうにかしたかったんだけど、今の状況でジェイルス公爵と敵対するのは避けたかった...と言うと言い訳になるかも知れないが、大人になると色々背負わないといけないから純粋に助けることも出来ないからね...」
子供の僕だからできたことなのか...
「それにクリステンが防衛総司令官になれば、フローレンス家の権力も少しづつだが戻ってくるはずだから今みたいに無力と言われることも無くなるだろう。」
「でも、王女殿下を助けるまでに間に合いますか?」
「それは、少し難しいな...」
やっぱり勇王の証がないと難しいのか。
もう一度壁一面に飾ってある勇王の証を見渡す
青い勇気の勲章が多い中、一つだけ赤い勲章が際立った。
『叡智の勲章顕彰者:キョーコ・タカナシ様』
「それは彼女が病院を設立した時に顕彰された勲章さ。」
「他にも義務教育や保険も設立したんですよね?」
「へぇ、随分と調べてるんだね、驚いたよ」
「はい、それとキョーコ様はユージンさんみたいな髪をしてたと伺ってます。公国と違って、ストレートで珍しいと父様から聞きました。」
帝国は赤毛
公国は褐色の肌に黒い縮れた髪
聖国は翡翠の瞳
多種多彩の勇王国でもその髪は珍しい。
「その黒髪は何処の出身地なんですか?」
「ふむ...コンラート君は異世界人のことは知ってるかい?」
「異世界人...」
エドワード先生の授業には載ってなかった
「じゃあ、三国が統一する前の歴史。ルーベン勇王国の歴史は知ってるね?」
「はい、その国は昔、魔王を倒した勇者が創り上げた国だと」
勇者が建国した国、
彼の名前を取ったルーベン勇王国
「そう、そして現在ルーベン勇王国出身の上位貴族の先祖は皆、勇者ルーベンと共に戦った仲間達。君の先祖、勇者の右腕、魔導戦士:フローレンス様みたいに私の先祖は聖女:ベアトリス様。それと、もう一人、家名がベアトリス様から取ってあるから名前は知れ渡れてないが大魔術師のタクマ様もそうだ。」
タクマ様とベアトリス様は建国後、結婚したのは一部の人達しか知らない。
「そのタクマ様もこの黒髪だったんだ。」
書庫に着いたらユージンさんは一冊の本を僕に見せてくれた
「これはタクマ様が残した書物で、『異世界人』のことが詳しく書かれてる。」
異世界人...異界から来た人
「その異世界人は決まって黒目黒髪だったんだ。それはタクマ様も、キョーコ様も同じだった。」
つまりユージンさんの先祖は異世界人でもあると。
「...異界から人が来ることなんてあるんですね」
「数十年に一度かニ度来るか来ないかくらいの割合だから珍しいのか珍しくないのかは少し微妙だけどね。そしてタクマ様は異世界人で、もし彼みたいにまた異世界人がこの世界に来たら、全力で支援しろと代々受け継がれてる。異世界人は皆特別な才能があって、入り口付近に飾られてる勲章の殆どはその異世界人が顕彰された物なんだ。」
「なるほど...異世界人...」
どうやって異界から来るんだろう?戻れたり出来るのかな?
「黒目黒髪...」
どこか引っかかる。




