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15話 才能①

「ヴィンス、ちょっと話しが...」

「その前に俺と勝負しろ!」


突然訓練剣を投げ渡し、僕に向かって乱暴に飛んだ。

これは力と重力任せに剣を叩き込む技だな。

正面から受けてもいいが、普通に避けて足をかけて躓かせる方が早い


僕はヴィンスの大きな一振りを避けて、訓練剣で足を引っかけ転ばせた。

起き上がろうとしたヴィンスの顔に剣を指して、はい終わり。


「また僕の勝ちだね。」

「くっそ!何で勝てねーんだよ!?」

「へへ、まだ僕に勝つには十五年早いな!」

「あー!クルックス!勝てねーじゃねーか!」


クルックスは無言で僕たちを観察していた。

いつもと違って真剣な顔で見てた。


「おい、ドルガー、いるかー?」

「はい、どうしました?副団長。」


新米騎士のドルガー、確か先月騎士の昇格試験に合格したんだっけ。


「今から坊ちゃんと試合をしてくれ。」

「え?嫌ですよ...やっと騎士になったのにもし侯爵が見たら...クビになりたくありませんよ...」

「大丈夫大丈夫、何かあったら責任取るから。てな訳だ坊ちゃん。」

「てな訳ってどういうこと?僕が責任取るの?」

「そうすりゃありがたいが、ま、いいから試合してみろ。」


そんな、ヴィンスはともかく騎士相手、僕に出来るのかな?


ドルガーと対面に立ち、僕は腰に掛けてた訓練剣を握った。


「いいかドルガー、手加減するなよ!手加減したら責任はとらんからな!」

「副団長!それは理不尽にも程がありますよ!」

「いいから行けって!」

「...行きますよ、コンラート坊ちゃん。」

「う、うん!」


ドルガーは訓練剣を構え深呼吸をした。

息を吐いた瞬間、二十メートル先にいたはずのドルガーがもうすぐ目の前まで近づいた。


速い、


そしてその反動で風が僕に強く吹き当たる。

驚いて僕は剣を振りかざしたけどドルガーは簡単に止めた。

腹部に衝撃を感じた直ぐ後、気付いたら僕は尻餅をついてた


本当に一瞬の出来事だった。

僕は何も出来ずに負けた。


「コンラート坊ちゃん、大丈夫ですか?」

「うん、すごかったね...びっくりしたよ。」

「自分なんて、まだまだですよ。」


ドルガーはやっと、騎士になれたと言ってた。

こんなに強いのに「やっと」と。


騎士になるにはここまで強くなるのが最低限なのか...

ヴィンスとしか勝負してなかったから

自分が十分強いと知らずに甘く考えてたんだ。

反省しないと。


「よし、ヴィンス。次はお前だ。」

「ラートが勝てねーなら俺だって無理だよ。」

「いいからやってみな。」


乗り気じゃないヴィンスは、ドルガーと対面に立った。

僕が勝てなかったのにヴィンスが勝てるはず...


「えっ、」


一瞬で終わった僕の試合と違ってヴィンスは長く持ちこたえてた。

ヴィンスは何度も攻撃を続け、ドルガーに隙をつけさせないようにしてた。

というより、ドルガーが押されてる様にも見える。


そして、

ヴィンスが勝った

試合を見てた他の騎士たちもざわつき驚いてた。


「ドルガー、お前手加減したのか?」

「いやいや、自分はコンラート坊ちゃんと同じくらいの手加減で、」

「だよな、てか手加減したのかよ。」

「坊ちゃんたちに本気を出す方がおかしいですよ!」

「へいへい、じゃあ今回は見逃してやるよ。」


クルックスはまた何か深く考え込んだ

「ヴィンスちょっと来い」

「ん?何だ?インチキなんてしてねーぞ!」

「それは見たら分かるから安心しろ。でもこれは諦めろ。ヴィンス、お前は坊ちゃんには絶対に勝てん」

「何でだよ!?ドルガーには勝ったじゃねーか!」

「...これはそうだな、あの人に聞いた方が早いな。」


*****


「それでどうして私が連れてこられたんですか?研究に集中したいんですが。」

「まぁ、エドワードさん、そんなに時間は取らないので、そこを何とか。」


エドワード先生は面倒くさいと隠さず表情豊かに出した。


「...それで、私は何をすれば良いんですか?」

「そうっすね、坊ちゃんの思考回路の説明を。師であるエドワードさんが一番良く分かってると思うので。」


エドワード先生はため息交じりに僕へと質問した。


「ではコンラート様、今朝始めにヴィンセント様と試合をした時、その行動に至った理由を教えてください。」

「ヴィンスは大体飛び上がって攻撃する時、着地時に剣を右手で掴んでる。だから剣を持ってる反対側に動くともう一度剣を振るまでに少し時間が稼げるからそこを狙ってました。」


「それをもっと細かく、どうしてそこまでの思考に至ったのか教えて下さい。」


細かく、細かくか...


「ヴィンスがこの戦法を使ったのは全部合わせて141回。最初の26回は剣を右手で掴んだり左手で掴んだりとバラバラだったけど47回目までになると全部右手で掴む様になった。そして今回も合わせたら95回、右手で掴んで攻撃する。だから今回もそう思って対応したんだ。今のところこの対応が一番適切で、78回中全78回成功した。これでいいですか?」

「はい、上出来です。」

「ラートお前、全部数えてたのか?」

「いや、別にずっと数えてた訳じゃないけど、事細かくって言ってたから今までの試合を思い返して、それを数えただけだよ。」

「全部覚えてたのか!」

「まぁ、そうなるのかな?」


「ではコンラート様、今から65日前に渡した小テストの第7問の質問と答えは何でしょうか。」

「『森を切り開いて創った土地で作物を育てようとしたが、その作物が全く育たなかった。その理由と、育たなかった作物、そして解決策は何か。』そして、僕が書いた答えは、『育たなかった作物はイネ科の作物で、育たなかった理由は森を切り開いた。つまりその土地は木々が好む酸性寄りの土でイネ科の植物は中々育たない土だった。解決法は塩基の肥料を撒くか木で実作物を育てる。』です。」

「では75日前の第5問は?」

「『キルデン聖国の中央部に建てられた女神ユラナの像、彼女の右手には鳥の羽、左手には花束を持ってる。その鳥の羽の由来は何だ?』そして答えは『鳥は自由を象徴しますが、女神ユラナは羽だけを持っている。女神像が立てられた時は丁度、鑑定制度が廃止した時期でした。そして苦しんでた民たちに自由を求めて小さな一歩踏み出すようにと由来』です。」

「34日前の第12問」

「『ルフィール聖王国建国以来の天才と言われた宮廷魔術師グレイ。彼はどんな理由で僅か三ヵ月で宮廷魔術師としての資格や権力を辞退のか』これは割と衝撃的な答えでしたね。確か『のんびり過ごしたい』と。」

「では最後に、私がこちらの訓練場に来てから何回眼鏡を掛け直しましたでしょうか?」

「クルックスと話してる間に二回、3問目の問で一回、そして今さっきもう一度掛け直してたんで計四回ですね」


「ふむ、これくらいですかね」

「どうですか?間違ってませんでしたか?」

「さあ?私はそこまで覚えてませんので分かりません。」


分からないのかよ。


「でも、直ぐに答える所をみて、正しいと思いますよ?それで私はもう戻っても良いですか?」

「はい、十分です。エドワードさんありがとうございました。」


エドワード先生はさっさと踵を返して屋敷へ戻った。


「なぁ、クルックス、ラートの記憶力がやべぇってのは分かったけどそれに何の関係があるんだ?なぁ、何で俺はラートに勝てねーんだ?」

「坊ちゃんは記憶力だけじゃなくてその分析力も並外れてる。だから何度も試合をしたお前にはもうとっくに全部分析尽くされて何しても先に見透かされるんだよ。ドルガーもあと5回ぐらい試合をしたら手加減なんて言えなくなるだろうな。」


自分でも気付かなかった才能、確かに記憶力には自信があったけど、周りが驚くほどとは思わなかった。


「えー!じゃあラートには絶対勝てないのか!?」

「だからさっきから言ってるだろ、まぁ、方法はないわけではないが。」

「なんだ!教えてくれ!」


ヴィンスとクルックスが二人でコソコソと耳打ちして、僕をずっと見てた

ヴィンスの顔が段々と明るく、気合の入った表情と変わっていった。何話してるのか気になるな。


「よしラート!もう一度勝負しろ!」


えっ、また?


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