5.誰が為のスタンドプレイ。
「いやー、見応えあるな。一点差か」
「うん。だけど選手個々のレベルなら、こっちが勝ってるよ」
「……絵麻さん、そこまで分かっちゃうんですか?」
「?」
俺が苦笑いしている理由が分からないのか、絵麻はまた小首を傾げている。
しかし前回大会準優勝校に勝っているというのは、幼馴染みのことながら嬉しくて仕方なかった。ただそうなると気になるのは、個々で勝っているのに接戦ということは――。
「絵麻から見たら、戦術で迫られてる、って感じなのか?」
団体競技であれば、個人のレベルの他にチームの成熟度が問われる。
俺からは一見して分からないが、洞察力に優れる絵麻の目には、どのように映っているのか。そう思ったので訊ねたのだが、義妹は少しうなった後にこう答えた。
「うーん。戦術というか、スタンドプレイ、かな」
「……ス、スタンドプレイ? それってアレか、一人がエゴ出し過ぎ、っていう」
「うん。簡単に言ってしまうと、そんな感じ」
「だったら、いま得点を一番決めてるのは――」
――簡単に分かるほどに、瀬奈で間違いない。
だけどアイツがスタンドプレイなんて、そんな身勝手をするのだろうか。もちろん幼馴染みとはいえ、彼女のすべてを知っているわけではないけど。
少なくとも自分の知る範囲では、それは想像ができなかった。
そして、それは絵麻も同じらしい。
「そうだね。一番シュートを決めてるのは野川さん。だけど、たぶん原因はもっと違うところにあると思うんだ」
「違うところ……?」
「なんだろう。私もそこは違和感があるんだけど、誰かが意図的にそうしてるのかもしれない」
「意図的、って……大切な試合なんだよな?」
「んー……」
どうやら義妹はそこまで理解できた。
だけど、そこから先の意図に思い至らないらしい。そして、
「あ、後半が始まるな」
「本当だね」
それが判然としないままに、試合は再開される。
もっとも、気になりはするが大事には至らないだろう、そう思った。
でもそれが楽観的な考えだったと、俺は思い知ることになる。
◆
「杏子、少し良い?」
「なんですか、キャプテン」
試合再開の直前に、瀬奈は杏子に声をかける。
後輩は何かと思いながら首を傾げると、尊敬する先輩はこう言った。
「あまりアタシばかりに、ボール集めなくていいよ? そっちが決められそうなら、思い切って狙って良いんだからね」
「……それ、は」
図星だったのか、杏子は黙り込む。
すると瀬奈は空気を悪くしないためか、すぐに笑顔を浮かべて言うのだった。
「でも、ありがとうね! 一緒に頑張ろ!」
「あ……はい」
駆けて行くキャプテンの背中を見つめて、後輩は軽く唇を噛みしめる。
そして、このように呟いた。
「でも、それじゃあ先輩が……負けちゃう」――と。
後半開始の笛が鳴る。
すると、すぐに杏子の前に相手の選手が迫って――。
「あ、しまっ――」
思考の渦が、彼女の反応を一瞬だが遅らせた。
簡単なフェイントで躱され、相手はシュート態勢に入る。そこへ、
「あぶな、きゃ……!?」
「キャプテン!?」
即座に瀬奈が、フォローに入った。
だが、タイミングが悪い。相手ともつれるように倒れた瀬奈は、
「キャプ、テン……?」
「う…………!」
膝を抱え込むようにして、苦悶の表情を浮かべたまま起き上がれないでいた。
直後にファールを示す笛が鳴り響き、周囲は静寂に包まれる。
起こってはいけないことが、起こってしまった。
その場にいた誰もが、それを理解していた。
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