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5.誰が為のスタンドプレイ。







「いやー、見応えあるな。一点差か」

「うん。だけど選手個々のレベルなら、こっちが勝ってるよ」

「……絵麻さん、そこまで分かっちゃうんですか?」

「?」



 俺が苦笑いしている理由が分からないのか、絵麻はまた小首を傾げている。

 しかし前回大会準優勝校に勝っているというのは、幼馴染みのことながら嬉しくて仕方なかった。ただそうなると気になるのは、個々で勝っているのに接戦ということは――。



「絵麻から見たら、戦術で迫られてる、って感じなのか?」



 団体競技であれば、個人のレベルの他にチームの成熟度が問われる。

 俺からは一見して分からないが、洞察力に優れる絵麻の目には、どのように映っているのか。そう思ったので訊ねたのだが、義妹は少しうなった後にこう答えた。



「うーん。戦術というか、スタンドプレイ、かな」

「……ス、スタンドプレイ? それってアレか、一人がエゴ出し過ぎ、っていう」

「うん。簡単に言ってしまうと、そんな感じ」

「だったら、いま得点を一番決めてるのは――」



 ――簡単に分かるほどに、瀬奈で間違いない。

 だけどアイツがスタンドプレイなんて、そんな身勝手をするのだろうか。もちろん幼馴染みとはいえ、彼女のすべてを知っているわけではないけど。

 少なくとも自分の知る範囲では、それは想像ができなかった。

 そして、それは絵麻も同じらしい。



「そうだね。一番シュートを決めてるのは野川さん。だけど、たぶん原因はもっと違うところにあると思うんだ」

「違うところ……?」

「なんだろう。私もそこは違和感があるんだけど、誰かが意図的にそうしてるのかもしれない」

「意図的、って……大切な試合なんだよな?」

「んー……」



 どうやら義妹はそこまで理解できた。

 だけど、そこから先の意図に思い至らないらしい。そして、



「あ、後半が始まるな」

「本当だね」



 それが判然としないままに、試合は再開される。

 もっとも、気になりはするが大事には至らないだろう、そう思った。




 でもそれが楽観的な考えだったと、俺は思い知ることになる。









「杏子、少し良い?」

「なんですか、キャプテン」



 試合再開の直前に、瀬奈は杏子に声をかける。

 後輩は何かと思いながら首を傾げると、尊敬する先輩はこう言った。



「あまりアタシばかりに、ボール集めなくていいよ? そっちが決められそうなら、思い切って狙って良いんだからね」

「……それ、は」



 図星だったのか、杏子は黙り込む。

 すると瀬奈は空気を悪くしないためか、すぐに笑顔を浮かべて言うのだった。



「でも、ありがとうね! 一緒に頑張ろ!」

「あ……はい」



 駆けて行くキャプテンの背中を見つめて、後輩は軽く唇を噛みしめる。

 そして、このように呟いた。




「でも、それじゃあ先輩が……負けちゃう」――と。




 後半開始の笛が鳴る。

 すると、すぐに杏子の前に相手の選手が迫って――。




「あ、しまっ――」




 思考の渦が、彼女の反応を一瞬だが遅らせた。

 簡単なフェイントで躱され、相手はシュート態勢に入る。そこへ、




「あぶな、きゃ……!?」

「キャプテン!?」




 即座に瀬奈が、フォローに入った。

 だが、タイミングが悪い。相手ともつれるように倒れた瀬奈は、




「キャプ、テン……?」

「う…………!」




 膝を抱え込むようにして、苦悶の表情を浮かべたまま起き上がれないでいた。

 直後にファールを示す笛が鳴り響き、周囲は静寂に包まれる。



 起こってはいけないことが、起こってしまった。

 その場にいた誰もが、それを理解していた。



 


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